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本のカバーはどうやって決まるのか?(『「すぐ成長する」仕事術』カバーデザイン検討の裏側)

昨日から、自分のフェイスブックに、9月11日発売の新刊『「すぐ成長する」仕事術』(アマゾンへのリンクを追加)のカバーデザインが決まるまでを、断続的に書いてきました。
そして、今日のお昼頃、正式なデザインが決定したのを機に、今回の検討の流れをまとめてアップすると面白いのではと思い、noteを書くことにしました。

まずは7月30日、今回のブックデザイナー井上新八さんからラフをいただいたところから。

■フェーズ1 ラフ(10パターン)からしぼり込んでのヒアリング

井上さんからは大きく分けると4種類のラフ、計10パターンをいただきました。今回、スケジュール的に余裕があったので、営業部員に書店さんにラフについてヒアリングしてもらうことに決めました。ただ、すべての案を渡してもあまり効果がないと思ったので、ちょっとオーソドックスすぎるかもという案とちょっとくどいかなという案は最初から外すことにしました(下の写真で言うと下段の4枚です)。

■フェーズ2 ヒアリングの結果をもとにカラバリを追加発注

書店さんへのヒアリング結果でまず多かったのが「写真を使ったカバー」を敬遠する声です。これは、どうしてもこの本に似てしまうという意見が多く、じつは私も予想していたところでした。
では「文字主体のカバー」はどうかというと、人気だったのが「地色が黒」のもの。しかし、こちらは女性にはあまり評判がよくないようでした。
また「地色が水色」のパターンも、この本との類似を指摘する声が多かったです。
そこで、デザイナーさんには申し訳ないのですが、文字主体のカバーのカラーバリエーションを追加でお願いしました。
そして、「すぐやる」井上さんが1日あけずに作ってくださったのがこちら。

■フェーズ3 帯の「目的」を改めて考え、微調整

ステキなバリエーションをいただき、もうこれで検討しようか、と思ったのですが、1つ引っかかっていたことがありました。
それは「帯」のコピーのバランス(文字の大きさ)です。
ここまでいただいてたラフの帯では、著者の川井さんが所属していた外資系3社の社名がとても小さく配置されていたのです。
デザインとしてはメリハリが効いているように思えましたが、僕はやはり、これらの社名は著者の方のご経歴の一部でもあるし、大きくしたほうがいいと判断しました(じつは外部でそういう助言をしてくださった方もいます)。
加えて、もう1色この色も見たいと思い、ダメ押しで、「帯を微調整した紺色」のパターンをいただきました。

*並べてみると帯の違いに気づくはず

■フェーズ4 検討の場では「根拠」を淡々と述べていく

さて、いよいよ検討です。うちの会社では(きっと、検討に関わる人数がかなり多いと思うのですが)、編集担当者とその上司、編集の役員、営業の役員や現場スタッフがみんなでラフを囲んで検討します。多いときには10人を超えます。
こういうとき、色々な進め方があると思いますが、今のところ一番いいと思うやり方は、ただ淡々といいと思うカバーの根拠を述べていくことです。
その際、僕は採用する気のないカバーのラフを裏返しながら話す、ということもよくやります。今回の場合、

「写真モノのカバーは類書との類似が書店さんで敬遠されているのがマイナスです。文字モノでは黒と水色が人気でしたが、女性読者のことを考えると黒にデメリットが、水色も先行書をマネしたと思われる恐れがあります。そこで、カラーバリエーションを増やし、多面展開をしたときに遠くからでも目立つ濃いめの色で、男女問わず手にとれる色と言えば…」

と紺色以外のカバーラフを次々と裏返していきましたが、その過程で異論は出ませんでした。そして、結局、最後にデザイナーさんに出していただいたパターンに決まったのです。

■結論あるいは蛇足でも (まともな)編集者はみな「考えて」いる

今回、長々とカバー検討の裏側を書いた理由の一つに、「編集者はどうやってカバーを決めて(推して)いるのか」を知らせたいということがありました。
こういった検討は普通ブラックボックスなので、著者の方などから、担当が好みで決めているんじゃないかと思われても仕方がない部分があります。
けれど、好みというか直感がキッカケになることはあっても、そこからあとはとにかく「なぜそのカバーなのか(あるいは、そのカバ-ではないのか)」というロジックを積み上げないと、少なくない関係者を納得させ、動かすことはできません。
ようは、「そのカバーだったら売れる理由」を考えて考えて考えた上で決めています。
編集者も色々ですから全員がそうではないかもしれませんが、まともな編集者なら、仮に検討過程をオープンにしても恥ずかしいことはないはずです。

あと、(これを社内の人がどれだけ読むかわかりませんが)僕がもし、つねに「自分好み」のカバーに決めているように見えてるのだとしたら、それは、めちゃめちゃ検討の場をシミュレーションして理論武装し、議論を操っている結果です。
いくら社内ではベテランでも、「こうしたいから、こうする」では会社は動きません。

というわけで、カバー1つ決めるのにも、編集者は、出版社は、デザイナーさんは、色々な可能性を探り、試しています。
読者の方は、そんな想像をしながら本を手に取ると、もっと楽しめるかもしれませんね。



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