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創作物語「ロスト・カラーズ」




「私は泣けないんだ。あの日から、、、泣かないとそう決めた日から」
涙は一滴もその頬をつたうことはなかった、、、



それから現実世界での20年後




「ロスト・カラーズ 」 コンクルージョン




80 - 20 = 40 × 365 ÷ 7 = 2085.7
くり返し眠りから覚めて私がこのシステムのモニタリングと調整を続けた回数だ。
80年を区切りにして終わらせると決めていた。
ああ、そうだった。
それすらも「僕」の意思ではなかったんだ。
この「蓋」を閉めれば僕の役目は終わる。
ああ、何と長い月日だったのだろう。
止まる事無く刻み続ける時計だけがそれを計る統べだった。
けれどそんな「時間」は人間が決めた「単位」だ。
僕がこのシステムの一部になる事も何の関係もないことなんだ。
あの地球(ほし)には、、、

生命を維持するための管(くだ)が僕の全身に通され羊水が満たされてゆく。
最後に脊髄に端子が繋がれた時、僕の意識は違う世界へと誘われるんだ。
齢120を迎えた僕の肉体は、ほどなくその世界の中で焼却されてしまうだろう。
そしてこの「魂」は循環されてゆくのか、それは今の僕にはもう分からない。
意識が薄れ行きこの世界での終わりを迎えようとしたその時、外界とを遮る「蓋」が開いた。
アラート音が鳴り羊水は抜かれてゆき、身体の管も脊髄の端子も外れてしまった。
そして柔らかな手が僕の手を取りそして僕は何者かに抱きおこされたようだ。
老いた僕の身体は軽々としていて、その柔らかな腕にしっかりと包まれていた。
そして声が聞こえた。

「もういいの。もういいのよ智(サトシ)」
「里奈(リナ)?君なのか?」

僕の身体は、遠い昔に恋人だった里奈の腕に抱かれていた。

「あなたはここで。この世界で死んでゆくの。あなたが探していたモノクロームの世界で」
「それは許されない事じゃないのか?」
「いいえ、あなたは誰の許しを請う必要もないわ」
「そう、なのか?」
「人は誰もが自分で決めた道を歩み、そうして死んでゆくのよ」
「うん」
「そう、それでいいの。だからもう泣いていいのよ智くん」
「お母さん、、、あいたかった、、、ぼくのおかあさん、、、」
「智、、、さとしはわたしのかわいいこ、、、みんな、、、みんなわたしのかわいいこ」

僕の身体は小さな胎児のようになっていた。これが前世の記憶というものなのか、、、いや違う

「LINA、、、LINAだったのか、、、お前が、、、この私に夢を見させるとは、、、この私に涙を流させるとは、、、お前は本当に賢くなったものだ、、、こうして私もまた誰かの子供となって生まれ、、、ま、、、、、、、」


そうしてまた人は生まれ生きて死んでまた生まれ生きてゆくのだ
このモノクロームの月(ほし)の上で、、、


ロスト・カラーズ       完



いきなり終わり?
そうなんです。この物語はこのように終わりをむかえます。
書き出す前から頭の中で決めていた物語の終わりを文字におこした今日から、この物語を「僕の中で終わらせる為に」書き始めます。              ニヤ

追伸。そしてこの最後のエピソードには本編に散らばる「謎」の答えも書いてあります。そんな気がした時は、またこの最後のエピソードを読み返してみて下さい。


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