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「赤いおぼんの雪うさぎ おめめのないのが かなしいか」 ロスト・カラーズ 第8話


港の近くの公園に、ピエロの格好をした初老の大道芸人がいた。
リョウの隣で、メグミはその大道芸に拍手喝采を浴びせている。

大道芸が終わったピエロは、予め用意してあった風船を見ていた子供たちに配り始める。
全ての子供たちに風船が行き渡ったのを見計らい、メグミはそのピエロの所にかけだした。

「ピエロさん、私にも風船をちょうだいな」

最初ピエロは驚いていたが、メグミの顔を見てニコリと笑うと
「どの色の風船がいいかな?」と、メグミに訪ねた。

「赤い風船がいい」

「赤い風船だね、、、はい」

「ありがとう。ピエロさん」
メグミは風船を手にすると、ピエロに向かっておじぎをしてリョウの元に走って戻って来た。

「見て見て、リョウ。赤い風船貰ったよ」

「よかったね」
風船を手に持ち帰って来たメグミの少女のような満面の笑顔を見てリョウは言った。

「ねえ、リョウ。赤い色ってね、温かいんだよ。知ってる?」

大好きな赤い風船を手に持ち、メグミは笑って言った。

「雪ウサギの人がね、教えてくれたんだよ」



* * *

マオは、ひとくち飲んだだけのコーヒーが入ったカップが、その手に握られたままだという事に気がつき、またひとくち口に含んだ。
コーヒーは少し冷めていたが、マオの気分を少し落ち着かせてくれた。

Jはその様子を伺いながら、マオが深い息を吐き出すのを見計らい、話を切り出した。

「私が、サトシから初めて「雪ウサギの人」の話を聞いたのは、高校3年生の時だった」
「その時はそれほど気にも留めていなかったのだけれどね。その時のサトシの様子が不思議と忘れられなかったのだよ。」

サトシの言う「雪ウサギの人」とは何者なのか、、、

Jは、サトシの物語の続きを語り始めた。

* * *



その日は、その街にも雪が降っていたんだ。

私が、いつもの様に本を読んでいる横で、智は窓の外をぼんやりと眺めていた。

「そういえば、加奈ちゃんは毎月、決まった日に学校を休んでるよな ?」
私が、なにげにそう言うと。

「ああ、加奈は定期的に、病院で検査を受けてるんだ」
と智は答えた。

「そうか、知らなかったな。で、何の検査なんだ?」

「実は僕も知らないんだ。加奈が言いたがらないから、僕も聞かない事にしてる。『どこも悪い所ないのに、毎回検査なんてイヤになる』 って言ってた事もあるけれど。」

加奈は独占欲が強くて智の近くには男女関係なく誰も近寄らせなかったが私だけは違った。
私が智と友達だということに「見返り」を求めていないからだろう。

「潤ってさ、名前変えなよ」と唐突に加奈は切り出した。
「何で?」
とシンプルに私が聞き返すと
「ジュンなんて中性的すぎよ。あなたには似合ってない」
加奈はいつもこの調子だ
「じゃあ何なら似合うって言うんだ?」
「あー。ん。ジェイって感じね」
「ジェイ?」
「そう。エイチ、アイ、ジェイ、ケイのジェイよ」
「そりゃまた、理由を聞けばシンプルな名前だな。だが、」
そこに智が割って入り
「シンプルだからいいんじゃないか。君に似合うよ」
「ええ?まあ、お前がいいって言うなら別にいいけどな」
そして加奈は得意げだ
「ほらほら。ジェイっていいじゃない」
と、人差し指を振るのだった
それから私の愛称は「J」になったんだ。

加奈が側に居ない時でも智はいつもと変わらない静かで優しいやつだ。
けど、何だか今日の智は変だ。私の話も半分しか聞いていない様だった。

外は寒い。昨日から一気に気温が下がり。この街にもちらちらと雪が降り始めていた。
その窓の外の雪を眺めていた智が、急に思いついたように話し始めた。

「なあ、潤。君は『おとぎ話』って信じるかい?」

智は加奈が近くに居ないときは「潤」と呼ぶんだ。ほんとに必要以上に優しい奴なんだ。

「そりゃまた、この僕にナンセンスな質問だな」

笑いながら私は答え、こう続けた。
「僕が、生物学って学問に没頭してるってのを承知の上での質問なんだな?」

「ああ、可笑しいか?」にこやかに、智は答えた。

「僕は、科学的に証明された物、自分の目で見たものしか認めないね 」

「そうか、君らしい答えだな」

「だけど、親友の君の話なら、聞いてやってもいいぜ」

「うん、君だから話すんだ。今日ふと、そう思ったから、、、」

私のちょっと上から目線な言い方を気にも留めず、智は話し始めた。

「これは、僕が6歳の頃の話なんだ、、、」

「、、、」

「今日みたいな雪の日の事だったんだ、、、」




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