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「雪ウサギの人」 赤い目 2章 第1話


赤いリボンの 雪うさぎ
お目々の無いのが 悲しいか 
長い髪の毛 震わせて
じっとしゃがんだ
いじらしさ

赤い宝石 指輪から
ふたぁつ取って 付けたなら
お目々ができて 嬉しいか 
ぴょんぴょん跳ねる
雪うさぎ

「小さなノート」の1ページより


僕は「雪ウサギ」が好きなんだ

「白くて、ふわふわしてて、目が赤いから」

だから、その日もお気に入りの雪原に行ったんだ
雪ウサギに逢いに

その日は、いつになくウサギがたくさんいた。雪が降り積もった真白な雪原の、あちらこちらに真っ白なウサギが

その中の一羽に、そっと近づいてみた

するとその白いウサギは、僕の手が届きそうになるくらいまで近寄ると 「タタタッ」っと走って逃げた

そして立ち止まって振り返り、僕の方をじっと見ている

僕がまた、ゆっくりとその白いウサギに近づいていくと、僕の手が届きそうになる直前で走って逃げ、また僕の方を振り返る

まるで、「ついておいで」と言わんばかりに

そうして僕は、その白いウサギを追いかけて、いつのまにか林の中に入 って行った、ほのかに日の光が届く林の中に

夢中で追いかけていった白いウサギは、ついにピタッと立ち止まった

よく見るとそこには、雪とは違う「白いもの」があった

何だろう?と僕が思っていると、「白い何か」がウサギを包み込み、その体を持ち上げた

それは、「白い手」だった

真白な手がウサギを持ち上げていく、その先を僕は見上げた

そこには、美しいひとが立っていた

真白な服を着ていた

真白な肌をしていた

真白な長い髪だった

まるで雪のようだった

真白な美しいひとが立っていた

その真白なひとは、抱き上げたウサギをそっと撫でながら、僕に話しかけてきた

「あなた、雪ウサギが好き?」

「うん」

「そう、わたしも好きよ」

「どうして?」

「白くて、ふわふわしてて、目が赤いからよ」

「ぼくとおんなじだ」

「私はあなたの事をよく知ってるのよ。さとしくん」

「え?」

「あなたは、冬になるといつもここに来て雪ウサギと遊んでいるでし ょう?」

「うん」

「私はいつも見ていたのよ。あなたの事」

「、、、」

「今日はあなたとお話がしたくて、この子に連れてきてもらったのよ 。あなたを」

そう言いながら、真白なひとは雪の上に座った

どうしてこのひとは、僕の名前を知っているのだろうか?そんな事が気にならないくらいに、僕は見とれていた

「なんてきれいなひとなんだろう、、、」
僕は心の中でそう思った

「あなた、私に何か聞いてみたい事はないかしら?」

どうしてそんな事を言うのだろうと一瞬、僕は思ったんだけど、なぜか自然と口から出たんだ。聞いてみたいことが

「ぼくね」

「ぼくはね あかいいろが わからないの」

「みんなは わかるのに ぼくには わからないの」

「あかいいろと くろいいろの ちがいがわからないの」

「だから うさぎさんの あかいめをみていたら いつかわかるよう になるのかなって おもってるの」

「ねえ どうしてぼくは あかいものがわからないの?」

「いつになったら みえるようになるの?」

「いつになったら、、、」

真白なひとは、静かに僕の話を聞いてくれた
そして、抱いていたウサギを雪の上に下ろすと、僕を手招きした

「さあ、私のそばにおいでなさい」

真白なひとは僕の手をとると、ひざの上に僕を乗せてくれた

「さとしくん。私の目を見てごらんなさい」
僕に顔を近づけ

「私の目は何色に見える?」
と、僕に聞いてきた

「くろ みたいないろ かな?」

近づいたその顔は、すごく綺麗だった。今まで見たことが無い、美しい顔をしていた

「私の目はね、赤い色なの。雪ウサギと同じ赤い目なのよ」

でも、僕には分からなかったんだ それが何だかとても悲しかったんだ

「さとしくん。あなたの目は赤い色は見えないの。どんなに頑張っても、赤い色は見えないの。悲しいけどね、見えないのよ」

真白なひとは、僕にやさしく言ってくれた

そして、やさしく微笑んで

「でも大丈夫。私が赤い色と黒い色の違いを教えてあげる。そしたら見えなくても赤い色が分かるようになるわ。さとしくんにも」

「ほんとに?」

「ほんとよ。いい?赤い色はね、、、」

「うん」

「赤い色は、温かいのよ」

「あたたかいの?」

「そう、そして黒い色はね、冷たいのよ」

「つめたいの?」

「そう、赤い色はね、太陽の色なの。そしてね、お母さんの色なの」

「たいようのいろ?おかあさんのいろ?」

「大きくて、温かいのよ。太陽とお母さんは」

「でも、ぼく、、、おかあさん いないんだ、、、」

僕がまた、悲しそうに言うと

「知ってるわ。さとしくんの事ならなんでも知ってるのよ」

「ぼく、、、おかあさんに あいたい、、、」

「ごめんね。さとしくん」

そう言うと、真白なひとは僕を抱きしめてくれた

温かかった。すごく暖かくて、優しかった

「でも今は、私をさとしくんのお母さんだと思っていいのよ」

僕はもう一度その美しいひとの顔を見上げて

「ほんとう?」そう言った

「そう、それでいいの。だからもう泣いていいのよ、さとしくん」

「お母さん、、、あいたかった、、、ぼくのおかあさん、、、」

「智、、、さとしはわたしのかわいいこ、、、みんな、、、みんなわたしのかわいいこ」

僕は泣いていた。とてもとても悲しかったんだ。

「大丈夫よ。あなたには、本当のお母さんがいなくても。もうすぐ、あなたを愛してくれるひとが現れる。だから大丈夫よ」

「うん」

その声を聞いて、僕は何だか安心した。そして、何だかとても眠くなってきたんだ

「そのひとが現れたら、ここに連れて来てね」

「うん」

「とても可愛いひとよ。とてもあなたを愛してくれる、可愛いひとよ」

その声が、遠くに聞こえるようで、僕は心地よかった

そして、そのまま眠ってしまいそうになった

「あなたにこれをあげるわ。赤い宝石よ。いつかきっと赤い色が見えるようになるためのおまじない。そしていつかあなたの大切なひとが現れたら、これをあげなさい。その時まで大切にもっていてね」

そう言って僕の手に握らせてくれた
それは何だかとても温かかったんだ

握っているとすごく安心して、僕は眠ってしまった

「私に逢いたくなったら、またここに来なさい。いつでも待ってるからね。さとしくん」

その声が、夢の中で聞こえていた
僕の夢の中で、、、 、



しばらくして、僕は鼻がくすぐったくて目が覚めたんだ

目を開いて見ると、鼻をくすぐっていたのは1羽の白いウサギだった
体を起こしてみると僕の周りだけなぜだか雪が無く、僕は草の上に寝ていたんだ

立ち上がって周りを見渡してもそこには誰も見当たらず、ただ不思議そうに僕を見る1羽の白いウサギがいるだけだった

「ねえ、きみ。まっしろなおねえさんをしらないかい?」

そうウサギに聞こうとして、気が付いたんだ
僕の手に、何かが握られている事を

それは指輪だった
小さな宝石のついた指輪だった

僕にはまだ見えないけれど
赤い宝石の指輪だった

その指輪は、僕の手の中でとても温かかった

また逢えるだろうか

あの白いひとに

雪ウサギのひとに

、、、




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