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「その色彩が見える君なら赤とはどんな色をしている」 ロスト・カラーズ 第7話




そこは ただ しん と しずまり かえっていた 、、、

やはり、此処は外界と切り離された地だと思わされる、、、

どちら側から足を踏み入れるのにも橋を渡らねばならない、、、

流るる水が結界のごとく、、、


私は写真家の須藤大元(スドウタイゲン)
モノクロフィルムのみを使い「銀塩写真」の世界を追求している。
今は「空海」が開創したこの高野山の奥の院の杉の森に入り新しい作品を模索中だ。

その杉の森の中に敷かれた古い石畳の道を、いったい何人の修行者が歩いたのだろうか。

この先この石畳の道を何人の命の迷子達が歩いてゆくのだろうか。

その日は、私の後にも先にも人はおらず、ただしんと静まりかえっていた。

高くそびえ立つ杉の木が覆い尽くす此の地には、日の光の全ては届かない。

此の地の空の気は日の浄化を受けないのだ。

樹齢千年を超える杉の木が続く此の石の道の途中に「時空の切れ目」があり

そこを知らずに通り百年の昔に辿り着いていたとしても

その事には気づかないであろう、、、


そう

其処に

其れは現れたのだ


* * *


「ふう、、、」

事務所を兼ねた休息部屋に戻ったケイとニヤ。
ケイは一人掛けのソファに座り込んだ。

ニヤは冷蔵庫から瓶入りのナチュラルスパークリングを取り出し、ケイが座るソファの左側の肘掛けに座ってからグイッとひと飲みして言った。

「ケイ。あれはどういう意味なんだよ」

「ああ?何が?」

「ピッキング・リィナに言ってたろ?赤い色が見えないんだって」

「あれ?言ってなかったっけ?俺が色盲だって事」

「何それ?聞いてないよ」

と、ケイの膝の上に黒い影が飛んできた。
黒猫のニアだ。
ニアはひといき鼻をクンクンさせてから、ケイの右手を舐め始めた。

「何だよニア。くすぐってぇな」

ニアは、ケイの右手にかすかに残った「血」を舐めているのだった。

「あれ?ちゃんと落ちてなかったのか。血が好きなんてやっぱ変なヤツだなニアは」

ニアは舌を止めて「ナァー」とケイを見て鳴いた。

「おまえに言われたかないよ。ってニア言ってるぞ」

ニヤが代弁する。

「ちぇっ、、、色盲って赤い色が認識できないって知ってるだろ?」

「ん、聞いた事ある」

「でさ、ニヤも相当変わってっから当てはまんないけどさ。普通の人間ってのは、赤い色を見るとそこから色々感じるんだよ。情熱、興奮、圧力、恐怖。それは生まれた時から摺り込まれてる感覚なんだ。だから血の赤を見ると恐怖を感じる、、、けど、血の色がグレーに見えたらどう感じる?、、、オイルに汚れてるくらいにしか感じないぜ、、、つまりそういう事さ」



* * *


不労者たちのコロニーがある公園の森の奥

この都会の森の中の道には命の迷い子達が時間も月日も止まったままで、ただ漂っているだけだった

その森の奥にある「家」の中

「マオくん。サトシは色盲だったのだ。私はその事をその日サトシから聞くまで知らなかった。私にとってはサトシがどんな人間であろうとサトシだったから知る必要も無かったからね。だが、サトシが小学1年の時に書いた作文がとても印象的で、子供心にもその作文から『サトシと友達でよかった』と思えたのだよ」


「赤い ふうせん」 いしもと さとし



ゆうえんちのピエロがね

「ふうせんをあげよう」って言ったんだ

青いの、赤いの、きいろの

みどりの、ピンク、水いろ

いろんなのがあったけど

ぼくはやっぱり赤いのをもらったんだ

赤いのがスキなんだ

みんなは、ひもをもってるけどね

ぼくは、りょう手でもつんだ

なぜだかしってる?

赤いろはね、あったかいんだよ

赤いろはね、おひさまのいろなんだよ

そしてね、おかあさんのいろなんだよ

だからぼくは

ふうせんを、おかあさんだとおもって

だっこしようとしたらね

とんでっちゃった

空にむかって

あー、そうか

おかあさんは、そこにいるんだよね

空の上にいるんだよね

とどくかな?

おかあさんのところまで

赤いふうせん

おかあさんもスキかな?

赤いふうせん

おかあさん

ぼくはげんきです






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