「白い女の子」 ロスト・カラーズ第3話
その少女は真白な陶器のような肌をしていた
皮下の血の色がほのかに透けて見え柔らかだった
その少女はさらりと長い黒く美しい髪をしていた
それは人の手によって作り出されたかのような
それらを見る私の心の囚われに気付いたかのように
少女は目深に被った白い大きな帽子を取った
そうなんだ、その女の子はピンクのリボンの付いた大きな白い帽子を被っていたんだ。だから私は、その目深に被った帽子から見える腕の白さと、肩から胸元にかかる長い黒髪に目を奪われたんだ。
そしてその白い大きな帽子を取った女の子は、何ともいえない愛らしい雰囲気を醸し出していた。
女の子の黒髪には、70年代風の幅広の白いカチューシャが小粋に留められていて、顔にはピンクの大きなハート形のサングラスがかけられていた。洋服はピンクと白のフリルの付いたワンピースに子供用の白いブーツ。まるでアメリカの「おしゃまな女の子」という感じだった。
「その子は君のお子さんなのかい?」 私がそう尋ねると。
「ああ、名前は美雪(ミユキ)今6才なんだ」 とサトシは答えた。
「もしかしてその子は、あの、、、」と、私が言いかけると。
「ミユキは加奈(カナ)の子じゃないんだ。カナはね、、、」
「ウサギさんになったんだよ」
それまで黙っていたミユキちゃんが、可愛らしい声で言った。
カナは、サトシと幼なじみの女の子だった。色白で長い黒髪をいつも二つに分けて、高い位置でくくっている、いわゆるウサギちゃんヘアをしていた。それが異様に似合う可愛い子で、他人に全く興味の無い私ですらよく覚えている程に学校でも1番の美人だった。
いつも二人は一緒にいて、カナはサトシの事が大好きだった。それ故にサトシは学校中の男子学生達に顰蹙をかっていて、友達は私くらいしかいなかったんだ。まあ当のサトシも友達なんて欲しくはなかったようだが。
私はといえば、学生の頃から「生物学」にしか興味がなく、いつも本を読んでいて友達は必要なかった。お互いにそういう所から気の置けない間柄となり、「コイツになら何かあった時に話せる」という関係になっていったんだ。
(あのカナがウサギさんになったって?どういう事だろう?)
その事をミユキちゃんに聞こうとした時。
「ミユキ。このおじさんはね、どうぶつのことならなんでもしってる、どうぶつはかせなんだよ」 と、サトシが言った。
「ほんとに?!おじさん!」
ミユキちゃんはサングラスをかけたまま私を見て声をあげた。
私は「どうぶつはかせ」ではなく「生物学」専攻だ、しかも「おじさん」でもない。だが「動物に詳しい」のは該当しているし、彼女から見れば自分の父親と同い年の対象が「おじさん」なのは仕方ないことか。
「うん。どうぶつのことなら、なんでもきいておくれ。こたえてあげるよ」 そう私が言うと。
「あのねおじさん。ウサギさんのめはどうしてあかいの?」 と聞いてきたんだ。
子供のよくする質問だ。赤い目のウサギは子供にとっては神秘的な存在らしい。
「そうだね。ミユキちゃんのめは、くろいだろう?それはね、めのなかにある、、、」
私が説明しようとすると、ミユキちゃんは、何かを訴えているかのようにサトシを見上げた。するとサトシは、「いいよ」とは声に出さずに合意の合図を送っていた。
ミユキちゃんは、私にさらに近づき私の顔を見上げ、そのピンクのハート型のサングラスを外してこう言ったんだ。
「ミユキのめもあかいんだよ。ウサギさんといっしょなの」
そう、美雪ちゃんの目は赤かったんだ。
まるで雪ウサギのように、、、
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