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「僕のカラダから羽化したモノは少女の姿をしていた」 ロスト・カラーズ 第11話




あの日 その手を離さなければよかった

あなたのその手を その指を、、、

そうすれば あなたはあたしの側で

あたしの腕の中で死を迎えたのに、、、


今こそ この手を離す時なんだ

あたしのこの手を この指を、、、

そうすれば あたしは旅立てる

何者にも囚われぬ世界に、、、


あたしの役目は終ったの

また あなたに逢えるその日まで、、、


* * *


エマさんは、涙を流していた。
その耳を僕の心臓にあてて、その鼓動を聴いていた。

「アリサ、、、あなたなのね、、、あなたはここに生きているのね、、、マオくんの胸の中で」

不思議な感覚だった。何かが生まれようとする感覚?
違う。例えるなら「蛹から蝶が羽化する」感覚だ。

何だ?これは?僕の腕が?手が?指が?細くなったようだ。まるでエマさんのように、、、?

その僕の「変化」にエマさんが気付いたようにゆっくりと顔を上げて、その綺麗な瞳で僕を見るのだった。

「ア、アリサ、、、」
エマさんの僕の顔を見る目が、瞳孔が大きくなった。

「そんな、、、マオくん?、、、いいえ!アリサ!?」
エマさんはそう叫んで僕を抱きしめた。
亡き我が子を抱きしめる母の思い、、、いや、目の前の現実を、僕の姿を見ない為に抱きついたようだ。

「ママ、、、泣かないでママ、、、」
僕の口から声が出た、、、ママ?誰だ?アリサ?

僕は細くなった自分の手でエマさんの肩をつかみ、離れるようにほどこした。
だけどエマさんは、僕を強く抱きしめたまま

「ダメよ!マオくん!アリサに囚われてはダメ!」
そう叫んで抱きしめた腕をほどき、僕の目を見た。

その瞬間のエマさんは「母」の顔ではなく「女」の顔をしていた。そして

僕にキスをしたんだ。

その「女」の柔らかな感触、絡まる熱さに、僕の中で何か湧き上がってくる感覚があった。
その大人の「女」の情熱的というのか官能的というのか、、、僕にとっては初めての衝撃がこの背中を突き抜けていった。そして

僕は目覚めた。
目を開けたその先の真っ暗な都会の空には月も星も何も見えなかった、、、

* * *


誰かの靴音とマオの脱力した身体が揺れが同じリズムを刻んでいる。
マオは、自分を抱きかかえて歩く人物の顔を確かめようと頭を起こしたのだけれど、その人物のバックに外灯の光が重なり眩しくて一瞬だけ目を瞑った。


そして再びマオ目を開けた時、目の前には眩しい太陽を背にJが立っていた。
そこはJの「家」を出た森の中だった。
ちょうど木々の間からビルの向こうに沈もうとしている太陽がJと重なって見えていた。

「マオくん。君は何を思い出した?それは君にどんな変化を及ぼした?そしてそれは本当に君の過去の記憶なのか?」
逆光になったJの表情をマオは読み取る事が出来なかった。

「私には、もう時間がそれほど残されてはいない。焦りと言うのか、自ら定めた掟を破りシステムに介入してしまった。『 LINA 』はそれを許さないだろう。それがこの一巡の地球(せかい)にどんな影響を及ぼすのか、結果的に破滅の道への時間を縮めてしまっただけかもしれないが、、、」
目の前のJは容姿を変えていた。白い「作務衣」のような様相をした別の人物になっていた。

「このJという男は、これからもJであることに変わりはない。そして君もマオだということに変わりはない。君たちの住むこの世界は今までと変わらず時が流れてゆくだろう。この世界に『生きている』全ての人間は迷い苦しみ藻掻きながら生きてゆくのだ。そして答えを見つけるだろう。『自分がこの世界で成すべき事を』それが『生きる』ということだ」
だんだんと白い作務衣の男は薄れてゆき、その姿は完全にJとなった。

「マオくん。最後に一つ、君に『真実』を教えよう。あの写真家 スドウ タイゲンは君の実の父親だ」
それを聞いた瞬間、マオの背中の体毛が逆立ち背骨が湾曲し始め、そのまま地面に引っ張られるように倒れこみ、マオは意識を失った。

そこからどうやって、その場所に辿り着いたのかマオには記憶が無かったが、あの冷たいコンクリートの上で藻掻いていたのだ、、、

そして、その男はマオを見つけ抱き上げると、自分の車まで運ぼうとしていた。
外灯の眩しさも消え、薄暗さにようやく目が慣れてきたマオはその男の顔を認識した。

「さ、崎谷さん、、、」

「マオ。気がついたか?まさかお前があんな所に倒れているとはな。俺も驚いたよ」

その男は「崎谷 重吾(サキタニ ジュウゴ)」
かつてマオと生活を共にした関係だった。

「お前が俺の所からいなくなってから、俺には穴が空いちまった。その穴は何をしても埋まらねぇ。金でも女でも暴力でも、、、お前に似た奴を買ってもみた、、、だが足りねぇんだ。穴がデカすぎてよ、、、俺はお前のアレを見ちまったからな、、、」

「サキタニさん、、、それは、、、」

「すまねぇ。あれは言わねぇ約束だったよな。マオ」

「僕は怖いんです、、、誰かと一緒にいるのが、、、」

「わかってるよマオ。とにかく、お前の体が癒えるまで俺が面倒みるから。今は黙ってろ」

言い方は荒いが、サキタニはそれでも精一杯の優しさを表現していた。

それは今のマオには痛いほどの優しさだった、、、




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