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「その魂を持つ君は誰なのか」 ロスト・カラーズ 第6話


そこは暗い、、、グリム童話の森の奥のように暗い、、、もう夜が明けようとしているのに。

フライパンから抜け出た得体の知れない粘液を垂らす排気口、、、へしゃげたアルファベットまみれで派手なアルミ缶の飲み口、、、ちぎられても愛想とエロをふりまくピンクチラシのギザギザした切り口、、、その「口」たちから出てきた人間の「飢え」を満たそうとする欲望がその視界を歪めてくる繁華街の裏路地。

そこに血にまみれたリィナがいた。
彼女は普段から黒い服を好んで着ているため服に付いているかどうかは分からなかったが。
その白い首から胸元にかけて、その白い腕と白い足に真っ赤な液体がべっとりと付いていた。

その黒薔薇の姫を誘う金髪の貴公子の背中ごしに

「血なんか怖くないんだ。僕の目には見えないんだ、赤い色が。だから平気さ、大丈夫。怖がらないで」

ケイはやさしく、リィナに手を差し伸べた、、、

* * *

「メグミはもうハタチ!それくらい知ってるわ。リョウがいつも子供あつかいするんじゃないのさ!」
メグミは解離性同一障害だった。
今は10年ほど前の9歳の自分に固定されているみたいだ。
二卵性双生児の「姉」だったメグミは、小さい時から「弟」にお姉さんぶっていたこともあり、9歳の頃にはもう実年齢の2倍「18歳の女」を「演じて」いたらしい。
だから口調や仕草が9歳と18歳が混在しているので外見が20歳のメグミと生活していると不思議な感覚がしてくるんだ。

メグミと出会って今まで2回、彼女「本人」だという人物と話をしたことがあるのだけれど、彼女はマオのことは知らないと言っていた。そして時に触れ今のメグミにマオのことを聞いても「知らないよ」と答える。とすれば、僕の知らない第3のメグミが(名前がメグミとは限らないが)いて、マオは彼女を愛していたという事になる。もちろん実年齢相当の「本人」だという人物が「意図的に嘘をついている」という可能性もある。
ミカミ先輩が僕の所にメグミを連れてきた日。あの日に僕が「マオ」の名前を口にした時、メグミがうわ言のように言った言葉。

「あなたの胸にマオが、、、その胸の中に刻まれたその傷の、、、いつか聞かせて、、、」

意識がはっきりとしていなかったメグミが途切れ途切れに言った言葉の意味、、、
聞き返そうとしてもメグミの記憶には残っていなかったあの言葉の意味は、僕の知らないメグミが知っているんだ。

見た目が全く同じ人間でも、その人間が「本人」であると証明する手だては「記憶」だけだと思う。肉体を構成する「DNA」ではない「記憶」の固まりである「魂」だけなのだと。
あの時「小さなノート」に書かれていたあのページは、カナさんの「誰」だったのだろう?それともカナさんではない同じ体を持つ「誰か」だったのだろうか、、、


「あたし と あのこ」

僕がまだ 小さな女の子だった時

入院していた病院で

初恋のひとに 出会ったんだ

白くて 細くて きれいだった

髪をふたつにくくって

ウサギさんみたいで

やさしい おねえさんだった

いっぱい遊んでくれて

いっぱい話をしてくれて

いっぱい絵本を読んでくれて

だけど ある日

いなくなったんだ


ぽっかり開いたベッドの下で

僕は見つけたんだ

この小さなノートを


それは

時には 大きく

時には 小さく

ある日は 力強く

ある日は 儚げに

涙の痕や

血の痕や

破り取られた

ページもあった


小さなノートは

小さな少女

そのもののように

、、、




これはその 

最後の頃の1ページ





みにくいアヒルの子は 

大きくなって 美しい白鳥に


みにくかったあたしは

大きくなって 美しい少女に

なったけれど


パパとママには 愛されなかったの


赤い目のあの子は

パパとママには 愛されたけれど

幸せなんかじゃなかったのね


それでもあたしは なりたかったの

赤い目に


智の好きな雪ウサギ

赤い目の雪ウサギ

雪ウサギになりたかったの

智に愛されたかったの






あなただけに






あたしだけに






も一度逢いたい






いやだ 

いやだよ


あたし

いやだよ

、、、




そこから先はもう 

文字にはなっていなかった

、、、




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