AIと添い遂げるつもりなら、絵は練習しておけ

はじめに

AIイラストに関して侃々諤々の議論がなされていますね。
最初に言っておくと、自分は割と穏健派です。
使わずに否定するのもイヤなのでstable diffusionを使う為にわざわざPCも新調して、試しに使ったりもしました。(面白くないので使わなくなってしまいましたが…)

AIイラスト生成者にそこまで悪感情は無く、i2iで勝手に他人の作品を読み込ませるような蛮行をしない限り、まあ良いんじゃないの?くらいに思っています。

学習モデルの問題などありますが、これは立法側に対して文句を言うべきところであり、現行法の範囲で行われている以上使用者に対して何か言うべきところではないとも思っています。(作家狙い撃ちのLoRAは除く)

とはいえ、社会的、倫理的な面で抵抗がある以上、まともな企業が利用に二の足を踏んでしまうのも事実です。
これはオプトイン方式の学習モデルなどで将来的に向けて解決されていくべき問題でしょう。今回の主題はここではありません。

今回の主題

さて、AIイラストを信じている皆様の中には
「これから一般化していくので乗り遅れるな!」みたいな言説があります。

これは「一部は正しい」し、「一部は誤り」であると思います。
正しい一部は「これから一般化していくので」という部分
間違っているのは「乗り遅れるな」です。

AI肯定派の皆様や、かつて私が憧れたナコルルの絵を描かれていた大御所様が「デジタルイラストによってアナログの仕事が奪われたのと同じ」という言説をとなえているのを散見します。

そして、エロゲーバブル華やかなりし時代を思い出した時、思った事があるのです。
今回はこの「デジタルイラストの隆盛」の歴史から「絵は練習しておけ」という事をお伝えしたいと思います。

デジタルイラスト黎明期

最初に念のためお断りしておくと、これはあくまで個人的な歴史観です。
エロゲバブルの終り頃にグラフィッカーの末端として色塗りの仕事に携わり、その後もお絵描きを続けてきた私の個人的な目線でのお話です。

雨後の筍のようにエロゲー会社が乱立し、毎週毎週大量の新作がリリースされていた時代、この頃は色塗りの仕事が溢れるほどありました。

photoshopを使えて、色塗りができれば絵がヘタクソでもグラフィッカーの仕事にありつけたのです。
この頃のエロゲーの塗り方というのは、かなりシステマティックに体系化されていて、多少勉強すれば誰でもできるようになっていました。

「原画家」と呼ばれるエロゲーグラフィックのヒエラルキーの頂点に居るお方が、素晴らしい絵を作ってくれるので、そこそこ塗れていれば素晴らしい絵に見えたのです。
また、買い手もまだ目が肥えていなかったのもあったでしょう。

あ、ちなみに、液タブなんて無くて、この頃は板タブ。しかも白と水色のちょっとダサい色の初代intuosです。
正直なんであの色にしたのかwacomさんに聞いてみたい。

話が逸れました。
さて、何が言いたいかというと、この頃は「デジタルツールを使える」というだけでちやほやされて、色塗りなら仕事にありつけたし、ヘタクソなデジタルイラストでもまあまあ見てもらえたのです。

つまり「ツールを使える事自体がアドバンテージだった時代」です。

だって、アナログ絵描きに上手い人は山ほどいましたけど、アナログツールでは逆立ちしたってデジタルイラストは作れないからです。

これって、今の状況と似ているのです。
AIイラストは、逆立ちしたってクリスタでは描けないんです。
photoshopでも描けないしpainterでもムリです。
そう、違うツールで作るものだからです。

AIイラスト生成者の皆様におかれましては、尋常ならざる美しい絵(それが画として良いものになってるかどうかは別として)を生成できるというだけで、いいねをもらえたり等、ちやほやされている状況です。

これは、デジタルイラストが描けただけでちやほやされた時代と同じです。

では、少し時計の針を進めましょう。

そして彼らはやってきた

デジタルで描けるという事がアドバンテージだった時代というのは、そうそう長くは続きませんでした。

saiの登場はある意味大きなパラダイムシフトだったように思います。
フルデジタルで絵が描けるようになったのです。ビフォアsaiの時代は、線画はアナログで描いてスキャンして使うのが一般的でした。
それくらいsaiの手振れ補正と線画機能は素晴らしかったのです。

未だに線画だけはsaiで描くという作家さんも居るくらいですからね。

PCのスペックもあがり、ソフトの性能も上がって画材的な表現も可能になりました。

そして、彼らはやってきたのです。

神絵師の時代です。
実は世の中には絵の上手い人は、山ほどいました。

ソーシャルゲームの発展とともに「絵柄統一してなくても良いじゃん」という時代になって、美しい絵を描けるイラストレーターが大量に求められた時代、次々と時代の寵児のような神絵師が現れました。

デジタルイラストが一般化するとともに、どちらかといえばファインアート寄りの世界に居たようなイラストレーターの方々まで、デジタルの世界に出てきたのです。
「デジタルツールを使いこなせる、ガチで絵が上手い人」が激増したのです。
ツールの性能が、彼らの創作意欲を満たせるレベルになってきた事もあるでしょう。

デジタルツールの習得、つまり板タブの使い方やペイントソフトの習得はせいぜい2~3か月もあれば十分です。

しかも道具というのは「使いやすさ」が重視されるので、洗練されればされるほど、習得の障壁は下がっていきます

反面、「絵を描く技術」というのは最低でも年単位の練習が必要です。
さらに絵は道具の進化や技術的な蓄積とともに、洗練されればされるほど、ゴールが遠のいていきます

エロゲバブルの頃と現代では、そもそも要求されるクオリティが段違いになっています。

私は、デジタルで描けることにあぐらをかいて、絵の練習を怠り、マトモに人間描くのもニガテというただツールが使えるだけのヘタクソに転落しました。

そしてその後も練習をおろそかにしながら、趣味程度に絵を描きつつ最近まで全くの別業界で働いていました。

AIも一般化すればそうなる

さて、何が言いたいかというと、見出しの通り「AIも一般化すればそうなる」という事です。

メインに使う。アイデア出しに使う。補助に使う。
色々使い方はありますが、もしイラスト生成AIが一般化したらどうなるか?

「ツールを使えるだけの人に価値は無い」のです。

将来この技術が受け入れられて一般化したのならば、遠からず神絵師達はやってくるのです。
絵が滅茶苦茶上手い人がAIを味方につけて無双する」のです。

その時、絵が描けないけどAIで生成はできるというだけの人の席は、そこにありません。

今だけ我が世の春を謳歌して、いずれ神絵師たちに道を譲って時代のあだ花のように消えていく気持ちで居るのならば良いのです。

そうではなく、AIイラストと添い遂げる覚悟で、今後もAIとともに絵を作っていきたいのであれば…「絵を練習するべき」です。

キャラくらいは最低限描けるようになって
絵を描きながら構図や演出、画面構成を学び、身に着けて絵の良し悪しを判断できる観察力も身に着けるべきです。

私が言うのもおこがましいですが
今の美少女系AIイラストはあまりにも画面構成がダメです
塗りの技巧という面では、すさまじい面があります。
反面、表現の面では恐ろしいほど稚拙です。

特にシチュエーションの説明力が低く、多くのAIイラスト生成者の方がtwitter投稿時に説明的な文章を添えているのが印象的です。

大事なのは絵で説明する事で、絵に説明を付ける事ではないのです。

そうした点に気づけない、気付いても修正できない人は神絵師が入ってきたときに末席に移動させられます。

なんなら、ツールを使えるだけの人は、中堅の絵描き相手でも、相手がAIを使い始めたら太刀打ちができません。

まだ2~3年の猶予はあるはずなので、その間みっちりと絵の勉強と練習をしておけば、ギリ可能性があるかもしれません。

これは本当に、過去にデジタルに神絵師が増えてきた時代に感じた実体験そのままの事です。

ツールごときが使える程度の事にあぐらをかいていると
本当に修得が難しい技術を持ってる人がツールを使いこなした時に歯が立ちません。

AIだろうが何だろうが、少なからずイラストレーションに興味があるのであれば、ぜひとも絵の練習をしていただきたいです。
そして、私がかつて味わったような思いをしないでいただきたいなぁと思う次第です。


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