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③ デキ婚

高校卒業後に地元の部品メーカーに就職したオレは良く田口美貴とデートをしていた。

大人びて明るくて元気で面白い田口美貴はチョーシ者のオレにはピッタリだった。公園行ったりショッピングモール行ったり、親の車でドライブしたり、高校時代には野球漬けで出来なかったフツーの日常がたまらなく楽しかった。
田口美貴は「久富クン、好きだよ!」と繰り返し言ってくれた。
あの祝勝会の夜、キスしてしまった二人が先に進むのは余り時間がかからなかった。

3番セカンドだった成績がそこそこ優秀だった北川は堅実に東京の食品メーカーの子会社に就職していた。
樋口幸子の事は気になっていたが、卒業後、お惣菜メーカーに就職し、平日が休みで土日が勤務のシフトだった。高校野球部時代の中心人物だつた安藤は父親の経営する印刷工場に入った。そして、2人は付き合ってるとは聞いたが、あの祝勝会の夜まで樋口幸子が好きだった筈のオレは正面切って、その話を樋口幸子と安藤に聞くことも無かったし、オレと田口美貴も付き合っていた事は有名だったし、マネージャー含めた野球部OBで「イカ天」で集まるときも大勢で騒いでいて、田口美貴と樋口幸子は「グチグチコンビは仕事の愚痴言いま〜す」と盛り上げていたが、今さら、4人でそんなことを真剣に話すことはなかった。北川はあまり野球部OB会に来られなくなっていた。オレの彼女の田口美貴は安藤の印刷工場で働いてたが、一年足らずで辞めて美貴の母親のやってるスナックを手伝っていた。

卒業後、3年経った春の日に田口美貴が夜のベッドの上で珍しく殊勝にオレの二の腕を掴んで「久富クン、、、」と言った。
「ん?」
「久富クン、聞いて。アタシ、アレが来ないの」と美貴は言った。
オレは驚いたが「子ども?美貴、やったよ!オレたち結婚しよう!」と美貴を強く抱きしめていた。
人生で初めて、誰かに先駆けてやってやった!と言う想いで、安藤や樋口幸子よりも、勿論、北川よりも、早く表舞台に出た気分だった。

(「④ スナック「たまにグチ」に続く)

https://note.mu/takigawa/n/n1c9662fa358b

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