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【読み切り】『鹿野くんって美味しそうだね』防衛本能としてのデフォルメ

「狩谷」という名前からして、狩人を想起させる。フリフリの吹き出しと、重すぎる愛の描写で1ページ目から面白いのが伝わる。

鹿野くんって美味しそうだね  莎々野うた

信頼できない語り手と、「食べたい」という目標設定がされたことで、生まれるサスペンス。猟奇的だけど、主人公のコンプレックスやトラウマのおかげで「可哀想」となって、感情移入が誘発される。塩梅がうまい…。

最初の鏡ごしの鹿野くんや、鹿のイラストへの友人のツッコミなど、最初から伏線がある。作者もあまり隠す気は無いと思うし、気づいたとしても「この主人公何するんだ?」と気になって読み進めてしまう。

大神くんで負った傷から「男は狼なのよ」の歌のごとく、世界の見方を変える主人公。カップルをバカにする男3人への眼差しと共通するものがある。人間の表向きの強い主張とは、見たくない現実を見ないために、都合の良い現実として解釈する。いわば、無自覚な防衛本能だと思う。

鹿野くんって美味しそうだね  莎々野うた

絵がうまいし、綺麗。それでいて、ページを開いた時のインパクトもあって、良い。一瞬「何が起こった?」となって、妄想も込みで描かれていますよ、というのがきっちり最初から示される。

「食べて一体化したい(願望)」は、エンタメとしては面白いけど、説得力をもたせるのが難しいなあとも思った。人の歴史を遡れば、偉人の肉体を食べて、自身の身に宿らせようとしたこともあるし、それ自体は不自然ではない。「君の膵臓をたべたい」は、タイトルで惹いて、そこまでを丁寧に語った物語だった。

「食べる」ことと「性愛」を結びつけたのが、『BEASTERS』だった。人間は食事からは逃げられない。食べるという誰もが理解できて、容易に共感できるものは、色々な広がりがありそうだ。本作もそこに切り込んでいて、発想自体が面白い。


鹿野くんって美味しそうだね  莎々野うた

作中ずっと「ハート」の目が強調されているからこそ、最後はその呪い(願い)から解かれるんだろうなと予想していた。このシーンを大きく主張しない、控えめさが良い。ただ、最後は「鹿野くんそのもの」が目に写ったほうが、「理想の愛」ではなく、「相手そのもの」を受け入れることに繋がりそう(という私の好み)

最終的に成長したのが鹿野くんで、主人公は受け入れられて救われる話だったけど、主人公の成長も見たかった。
※でも、そうなると鹿野君の問題を主人公が優しく包むか、少女漫画的恋愛の否定みたいな方向になるから、読切ではページ数的に厳しそう

次の作品も早く読みたいです、ご馳走様でした。

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