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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第83回

大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第83回

第3章 正義っぽいのを振りかざすな

「大人の男だけが座れる場所」から

伊集院 静の言葉 1 (246)

 銀座の、赤坂の、神楽坂の鮨屋でオヤジの前に平然と座って、酒を飲めるようになるまで、___俺がどれだけ懸命に働いて来たかが、おまえたちにわかってたまるか。
 子供が働くか?
 それはグリーン車にふんぞり返って座っている若者、子供にも言える。
 ひとかどのことを成して、長くきちんと生きてきて、初めて座ることができる場所が世の中にはあるのだ。
 だから私は成金が嫌いなのである。   

  大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                



「大人の男だけが座れる場所」から

伊集院 静の言葉 2 (247)

 去年、ようやく恰好がついてきた銀座のK鮨に電話を入れて、訪ねる日時をふたつ出したら、どちらも満杯と言われた。
「そんなに忙しいのか」
「ひとつは貸切りがありまして……」
「貸切りだと? そんなことを受けてるのか」
 後日、相手を叱った。
「銀座の鮨屋が客を貸し切らせてどうするんだ。バカか、おまえは」
「はあ……」
「鮨屋はどんな時でも一席は空けておくものだ。店を育ててくれた客がいるだろう(私のことではありませんよ)。キャバレーじゃあるまいし」
 聞けば貸し切ったのは成金である。
__ほらみろ。金で何でも手に入ると思ってやがる。だからこいつらはゲスなんだ。
 それからしばらくK鮨のことを友に聞かれると、あそこは閉店した、と答えた。    

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               



「学者の常識と大人の良識は違う」から

伊集院 静の言葉 3 (248)

 春の嵐で、この夜は一人で銀座に出た。
 こういう夜は、どの店も暇だから、待遇がイイはずだ。そうでもなかったか。
 その日は十年前の、秋の嵐の夜だった。
 巨人対ヤクルト戦の最終ゲームが台風で中止になった。この日、私は初めて松井秀喜選手に招かれドーム球場に出かけた。ところがゲームは中止になった。
 それで二人で銀座に出た。
 人影がなかった。二人して数寄屋橋にあるおでん屋 ”Oぐ羅” に行った。以前から松井君と一緒の時に、店の主人と会わせたいと思っていた。主人はかつての社会人野球の名捕手であった。人情家で、野球好きで、男はくありたいという大人の男である。
 主人は松井君が初ホームランを打った時、スタンドにいてあまりに嬉しくて生ビールを周囲の人にご馳走したという松井贔屓だ。
 客のいない店に四番バッターと入った。
 その時の主人の嬉しそうな顔。それ以上に女将さんが喜んでいた。松井君と知り合って、おそらく生涯でこんなに私も嬉しかった夜はなかった。
 スラッガーは店が気に入ったのか、その後で友人を連れてぶらりと店に訪れた。
 その前に店を訪ねたいと連絡があった。
__ああ、ちゃんとしてるな。 

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               


⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』
2012年12月10日第1刷発行
講談社

表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。
伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。
伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「ひとかどのことを成して、長くきちんと生きてきて、初めて座ることができる場所が世の中にはあるのだ」

この言葉を知った時、私には「初めて座ることができる場所」はないと確信しました。

何一つ立派なことはしてきていません。ただ精一杯生きることに専念してきただけです。

ふと思い出したことがありました。
かれこれ30年くらい前の話です。

私は1991年4月29日に結婚しました。結婚後、妻(2015年8月8日死去)とドイツ料理店『カイテル』に訪店した時のことです。

オーナーシェフのカイテルさんと奥様(お主人はドイツ人で奥様は日本人)にお会いしました。お二人ともとても気さくな方々で、話しやすかったことを思い出します。カイテルさんは日本語が堪能でした。

ドイツの家庭料理を味わい、私たちは心の中までポカポカ温まった気持ちになりました。食後、私はご夫妻にお願いし、お二人の写真を記念に撮りました。

2度目の訪店時に、前回撮ったご夫妻の写真を額に入れてお渡ししました。ランチタイムに伺ったのですが、食後、カイテルさんから、ご夫妻がよく利用されていた料理店にディナーで招待されました。

驚きました。そこまでしていただくとは夢にも思いませんでした。感激しました。私たちは皆、楽しいひとときを過ごしたことは言うまでもありません。

時が経ち、私は転職したり、転居したり、妻を亡くしたためカイテルさんご夫妻になかなかお会いする機会がありませんでした。数十年が経過しました。

今日(2023年6月7日)、伊集院さんの言葉に誘発され、直接関係があるわけではありませんが、『カイテル』のことを思い出したのです。近況を知ろうと思い、Bing AIに質問してみました。

すると、『カイテル』は閉店していたことを知りました。2019年にオーナーシェフのカイテルさんが亡くなっていたからでした。

ただし、新たな情報を得ました。カイテルさんの息子さんがあとを継ぎ、同じ場所で『ワインカフェカイテル』を運営していることを知りました。

いつの日か、その店に行ってみたいと心の底から想っています。

私の思い出の店 『カイテル』と『ワインカフェカイテル』


『ワインカフェカイテル』の画像



🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p.212


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


⭐ 原典のご紹介



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