見出し画像

Follow your arrows~381系特急「やくも」の思い出

去る6月15日を以て、岡山~出雲市間を結ぶ特急「やくも」号での381系特急型電車の定期運用が終了。
1982年7月1日の伯備線・山陰本線伯耆大山~知井宮(現西出雲)間電化開業以来、実に42年間にわたったその波乱万丈の歴史に幕を下ろしました。

近年はなかなか乗車する機会に恵まれなかった381系時代の特急「やくも」ですが、10代~20代の時期に4度ほどお世話になった思い出があります。
今日は、特急「やくも」号での381系の活躍ぶりを、自らの乗車時の思い出を中心に振り返ろうと思います。


1.1996年「やくも10号」出雲市→岡山

幼い頃から子ども向けの鉄道図鑑やポスターを通して親しんでいた特急「やくも」ですが、実際に乗車が叶ったのは1996年8月、中学1年生の夏のことでした。
家庭の用事の関係で、中学の部活の合宿を途中離脱して出雲大社のユースホステルから帰宅することになった際、特急「やくも10号」に出雲市から岡山まで全区間乗車しました。

国鉄特急色381系の特急「やくも」(2022年に撮影した復刻塗装編成)

「やくも10号」の車両は国鉄特急色の381系。
合宿中たびたびお世話になった山陰本線をしばらく東に進んだ後、伯耆大山から初乗車となる伯備線に入ります。
伯備線に入って最初の停車駅は根雨駅。
「ねう」という耳慣れない駅名を耳にし、何故この駅に特急が止まるのかと不思議に思ったものですが、後に鳥取県日野郡日野町の中心駅だと知りなるほど納得したものです。
当時は車内販売もまだまだ健在の時代、車内販売で購入したつぶつぶグレープジュースの味が今も忘れられません。
一時期国鉄→JRの車内販売の定番で、街中の自動販売機でも見かけた缶入りのつぶつぶグレープジュースも、今では韓国食材店以外ではめっきり見かけなくなりました。
いくつものカーブとトンネルを越えて走ること2時間以上。「やくも10号」は無事に終点の岡山駅に到着。
ここで母親と合流し、山陽新幹線の「グランドひかり」の階下席で帰阪しました。

2.1999年「スーパーやくも13号」岡山→米子

パノラマグリーン車を先頭とする特急「スーパーやくも」(1996年)

夏合宿の帰途に特急「やくも10号」を利用した3年後のこと。
高校1年生の2学期中間テスト明けに同じクラスの鉄道ファン仲間との話の流れで、三ノ宮→姫路→岡山→倉敷→米子→鳥取→上郡→三ノ宮のルートで日帰り旅行を実施することが決定。
この時、岡山から米子まで乗車したのが、特急「スーパーやくも13号」でした。
前回、1996年の出雲合宿の復路に乗車したのが国鉄特急色の特急「やくも」だったので、次こそは特急「スーパーやくも」に乗ってみたいとかねて願っていたわけですが、その願いは思いのほか早く実現することになりました。
乗車当日、岡山駅で待ち構えていた「スーパーやくも13号」は名物のパノラマグリーン車を連結していない編成(注)で、一瞬拍子抜けしました。
(注)グリーン車は編成の中間に組み込み

特急「スーパーやくも13号」(1999年)

もう25年も昔のことなので記憶がかなりあやふやなのですが、6号車の普通車指定席に乗り込んでみると「スーパーやくも」の愛称に違わず、以前乗車した国鉄特急色381系の「やくも」と比べて座席周りがゆったりしていたのを記憶しています。
後で調べたところ、1996年時点の381系「やくも」の普通車のシートピッチ910mmだったのに対し、「スーパーやくも」の普通車のそれは1000mmでした。
「スーパーやくも13号」の米子までの停車駅は倉敷と新見のみ。
倉敷からの伯備線の車窓には蛇行を繰り返す高梁川が寄り添い、川の下流から中流、上流へと移り変わる景色を見ながら、ちょうど同じ頃漢文の授業で教わった中国の古典「桃花源記」に描かれた幻想的な風景に思いを巡らせたものです。

高梁川沿いの伯備線の車窓(2007年)

時刻はお昼過ぎ。車内では昼食として岡山駅で調達した「桃太郎祭ずし」をいただきました。伯備線に入ってから車内販売のお姉さんが回ってきたので、3年前と同じ「つぶつぶグレープジュース」は無いですかと尋ねてみましたが、あいにく取り扱っていないとのこと。
どうやら、車内販売のジュースはいつの間にか「つぶつぶグレープジュース」から「ポンジュース」に変更されていたようです。

思い出の味「桃太郎祭ずし」(2007年特急「やくも7号」にて)

念願の「スーパーやくも」への乗車を果たした私ですが、後にちょっとしたオチが待ち受けていました。
実はこの2年前の1997年より、特急「やくも」用の381系についても、多客時に「スーパーやくも」の増結に使われることがあることを考慮し、車内のアコモ改善が順次実施されていました。
このアコモ改善車ですが、塗装が白地に緑帯・黄色帯(新やくも色)に塗り替えられるとともに、普通車のシートピッチは「スーパーやくも」と同じ1000mmに拡大されていました。
車体塗装や停車駅数が異なる「スーパーやくも」と「やくも」ですが、気が付けば普通車の座席についてはどちらの列車も大差のない状態になっていたわけです。

「新やくも色」に復刻された381系の特急「やくも」

3.2007年・2009年 「やくも7号」・「やくも3号」

その後久しく特急「やくも」を利用する機会はなかったのですが、就職直後の2007年に芸備線の乗りつぶしと急行「みよし」の乗り納めをした時(乗車区間:岡山→新見)と、2009年に学生時代の後輩と「西日本パス」で2人旅に出た際(乗車区間:岡山→米子)に、特急「やくも」のお世話になりました。
すでに2006年のダイヤ改正で「スーパーやくも」は「やくも」に統合され廃止されており、381系電車については「スーパーやくも」塗装のものも「新やくも」塗装のものも大規模リニューアルの上で、白地にピンクと水色帯の「ゆったりやくも」塗装に生まれ変わっていました。

「ゆったりやくも」仕様の381系特急「やくも」(2007年)

塗装のイメージチェンジと合わせて最新鋭の683系電車に準じた座席・内装に改められ、チャイムも「鉄道唱歌」ではなく新しいものに置き換えられた「ゆったりやくも」仕様の381系
これはもはや国鉄型の特急電車とは別物なのでは?という疑念を一瞬覚えはしましたが、中学生・高校生の頃と変わらないモーター音や振り子装置による車体傾斜をしみじみ味わいつつ、下車駅までの時間を過ごしたものです。

岡山駅発車直後の特急「南風」車内から見た381系特急「やくも」(2021年)

結び

1982年から2024年までの42年間。
鉄道会社の懐事情、振り子電車という特殊事情もあってか、旧国鉄→JRの特急形電車としては異例の長寿を記録した特急「やくも」の381系電車

個人的に最後の十数年間は乗車の機会がなく、駅で写真を撮るのが精一杯な状況でしたが、国鉄の分割民営化、高速バスや航空機との競合など幾度もの環境の変化を乗り越えつつ、山陰地方や岡山県北西部に出入りする数多くの人々の足としての活躍ぶりを今一度讃えたいものです。

そして後継となる273系電車も、カーブの多い伯備線に対応した振り子電車として製造され、車内にはコンパートメント席を設けたり、座席コンセントWi-fiも完備するなど、由緒ある特急列車にふさわしい車輌に仕上がりました。
この273系が多くの人を無事故で運び続け、人と人、地域と地域の新しい出会いや交流を生み出すことを願って結びとさせていただきます。

273系「やくも」(友人氏提供)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?