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ゆい
ずっとおかしいと思っていた。わたしがおかしいのかそれともこの世界がおかしいのか。
知らないおじさんに「かわいいね」と言われるとゾッとして吐き気がした。
祖父母と両親とランドセルを買いに行った時、ピンクじゃなくてブラウンを選んだらみんな少しがっかりしているように見えた。
漫画の主人公が男の子を好きになって、告白して手を握ってキスをして背景がお花畑になるのが理解できなかった。
修学旅行の夜はみんなの恋バナを聞きたくなくて耳栓して寝た。
お兄ちゃんが読んでる漫画雑誌に水着の女の人のグラビアが載っているのは何のため?
初潮がきて絶望した。死にたいと何度も思った。でも死ねなかった。
中学生になって六花と出会った。
名前の通り雪の結晶のように透明で硬質な美しさと、触れたら溶けてしまうやさしさをあわせ持つ女の子だ。
六花の前でだけはわたしは「女の子」でいられた。世間だとか常識だとか価値だとかそんなものは関係ない。自衛する必要もない。六花はわたしを絶対に傷つけない。
中2の夏、わたしと六花はテニスの練習試合の会場に向かうためにバスに乗っていた。バスは混んでいた。真ん中あたりに立っていたわたしの背後に男が不自然に近づいた。嫌な予感がする。
と、すぐ横に立っていた六花がわたしの手をグッと引いた。
「次降りるよ」六花は後ろの男を睨みつけながらわたしの耳元で言った。
あの日から、わたしは六花のために生きるって決めた。六花がいる限りわたしは死にたくならない。六花が男の子を好きになってつきあってキスしてもセックスしてもかまわない。六花がしあわせならそれでいい。
ただ、六花を傷つけるやつは絶対に許さない。
この先わたしは別の女の子を好きになるかもしれないし、もしかしたら男の子を好きになるかもしれない。
多田のことは友だち以上には思えないけど、彼の恋人になる人はしあわせだろうなと思う。ミカと多田がうまくいけばいいなって思ってる。余計なお世話だけど。
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