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山路を登りながら -自己に潜る期間としてのXSCHOOL- #3

3回目の更新です。

とはいえ前回の記事のわたしの記憶は未だ小学校1年生の時のままです笑
ここから数回に分けて、30年近く現在に引き寄せていく作業になります。。。(途方もない🥺)

***

小学校低学年の頃の話です。
時は90年代初頭、TVアニメでは美少女戦士セーラームーンが放送開始になり、教室の後ろのロッカー付近でいつも友達と「ムーンライト伝説」をそらで歌っていた。

今でも幼い頃に覚えた歌はしっかり歌える歌が多いが、最近はめっきり歌詞が覚えられない。
小さい頃に覚えたものは大人になっても意外と残っているものだけど、何度もTV画面に映る歌詞を読んだり、歌詞カードを見たりするその周りにあった風景やその時の印象的な出来事。
文字情報だけでなく、きっとその場面に立ち会った新鮮な記憶とセットになっているからだ。

はじめてのダブルブッキング

小学校2.3年生の時だった。
クラスにも馴染んできて、どんどん同じクラスの生徒とも放課後や休日に遊ぶことが多くなってきた。

しかし、自分から誘うということは少なく圧倒的に誘いにのるタイプだったので、ついにその誘いのタイミングが重なる時がやってきた。

I君は、スポーツマンの印象でみんなからも慕われていた。
「ちびまる子ちゃん」で言えば大野くんのようなタイプだと思ってもらえると分かりやすいだろう。
教室の後方で一緒にセーラームーンを歌っていた仲でもある。

T君も同じスポーツ万能タイプだが少し神経質なところがある。
頭脳明晰で成績もよかった。(その後彼は名門大学に進学し、就職活動中に都内のワタミであまり美味しくない枝豆を食べながら難しい研究の話を聞いたのを覚えている)
小学校低学年の神経質なんて可愛いものかもしれないが、わたしの中の印象では頭が切れるが故、どこか人を寄せ付けない感じがあった。

I君とT君は仲がいい。
その時、わたしはまだ自分で仲がいいと断言できる同級生がいなかったので
そんな2人を羨ましく思っていた気がする。

ある日、I君が誘ってくれた。
I君「井上くん、明日の放課後ウチで遊ぼう」
わたし「うん、いいよ」

その後、T君もわたしに声を掛けてくれた。
T君「井上くん、明日の放課後遊ぼう」
わたし「(…あれ?大丈夫だっけ。あとで確認してみよう)いいよ!」

I君とT君が一緒に話している中に、わたしもいる。
I君「今日井上君と遊ぶんだ。」
T君「え、俺も約束したんだけどな。」

少し険悪なムードが漂う。
I君とT君は少し責めるように問いかける。
「井上君、先に約束したのどっち?」

わたしは混乱していた。
I君のような気もするし、T君のような気もする。
そして、「先に約束をしたのはどちらか?」という2人からの問いだけが残り、その場をどうやって切り抜けたかは覚えていない。

これが、わたしの人生ではじめてのダブルブッキングの記憶だ。

恥を晒すようだが、今でもその傾向は少なからず残っているように思う。
ただ「断れない」という理由だけなく、瞬時の判断が鈍るような、脳がギシギシと音を立てて周りのものを巻き込みながら不自然に回る感覚。


それがきっかけなのか、I君とT君は次第に距離をとるようになっていった。
実際のことは判らないが、わたしの目にはそう映って、記憶に深く刻み込まれた。

人生で最初のダブルブッキングの記憶として記事を書いたつもりだったが、またそんな事も思い出して自分が人間関係を壊すきっかけになってしまったという申し訳なさや後悔、それを今でも引きずっていたことに気付いた。

XSCHOOLでは、「医療」について考える中で「家族」との向き合い方、
「他者との向き合い方」 についても何度も考えることがある。

こうして「他者との記憶」を丹念に紡いでいくと、当時のわたしの心の葛藤や気持ちの揺れが、「手つかずのまま」残っていることも発見した。


わたしは課題の中でスーザン・ソンタグの著書「他者の苦痛へのまなざし」より引用させてもらった。

"あらゆる記憶は個人的なもので複製不可能であり、個人とともに死ぬ。
集団的記憶と呼ばれるものは、記憶することではなく規定することである。これが大事なのだ、それはこういうふうにして起こったのだ、というふうに。"

上記の文章は"写真にまつわる記憶"の文章なので、本来の文脈とは異なるが、こういったごく個人的記憶も、多くの人の目に触れることになれば集団的記憶になるのかもしれない。

規定されるとすれば、それは単なる「ダブルブッキングが引き起こした、少年たちの心の乖離」なのか。

これを読んでいる人たちの頭の中で、どんな場面が産まれているのかを問いたい。


わたしとI君、T君、そして教室にいる周りの人たちは、
どんな顔をしてそこにいるのだろう。

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