夏の日の写真
「古い写真」というと私の場合、フイルムの写真になる。10年前、多摩美でデジカメなら1日千枚撮れると意気込んで実際900枚撮っていた時期があったが、あの時の写真はどこに行ってしまったのだろうか?結局作品を作るために改めて引っ張り出すのはそれ程撮らなかったフイルムの写真ばかりになってしまう。
多分夏。暑い日。学食と共通教育の校舎の間の陸橋から撮った。知り合いだったか、それともたまたま通りかかった人か。何気ない写真。その何気ない写真に気持ちが向かうのは時間が経ったからだろうか。モラトリアムだ。そして何も先がわからない中で、でもシャッターだけは切っていた。
そんな写真をプリントする。そして現れる10年前の世界にカッターの刃を入れていく。今回は直線の切れ込みだが、直線は簡単。簡単な分、改めて見ると「筆跡」が曲線より個性をより写すようにも思う。あまり直線を切らないんだけど、これは直線にしたいと思った。ザクザクザクザクと切っていく感じは、何か多摩美で忘れたものを思い出そうとしていく感覚だろうか。
写真を光にかざす。
10年前の写真を、それが映った場所の地球の裏側の光から撮るというと大仰だな、と思う。ただ紙に光が宿るだけだ。そして影も宿る。
この道を左に曲がってずーとっと降りて行ったらバス停。逆に反対方向に行ったら1年半しか在籍しなかった山岳部の部室棟がある。そんな過去を思って胸が塞がるような気持ちになった時、この切れ込みの光がいい感じに思えた。
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