見出し画像

【読書メモ】富永よしえ「Patti Smith the doors of light Photographs / パティ スミス 光の扉」#私の読み散らかし

言わずものがな、僕はパティ・スミスに一度もお会いしたことがない。そりゃもちろんそんな簡単に会える御仁じゃないんだから、会ってなくて当たり前なんだけど、何故かこの #富永よしえ さんの写真集『Patti Smith the doors of light Photographs / パティ スミス 光の扉』を観ていると、とても身近なパティ・スミスを感じてしまう。会った事ないのに会った事あるような錯覚。

なんでこんな錯覚を覚えるのか。それはパティがレンズに見せるあの”自然な微笑み“のせいかもしれない。そう、この写真集では、撮影する写真家の富永さんと被写体のパティとの優しい心の交歓も綴られている。この親密な“私写真”でもあることが、この本の真価じゃないか、と思った。

今更僕が説明するのも、ですが、パティ・スミスは、70年代をものすごい勢いで駆け抜けたNYパンクのクイーン。だから結婚する前の70年代の音楽活動ばかりがどうしても語り草になりがち。でも09年公開の唯一のドキュメンタリーフィルム『Dream of Life』、 そして2010年から順次出版された著作、『JUST KIDS』『M Train』『Year of the Monkey(未訳)』の3部作を読むと、現在進行形のパティの横顔が見えてくる。

バロウズの秘書のジェームス・グラワーホルツから、初期パンク・ムーブメントで生き残った数少ない成功者として「パティは実際のところ凄いことをやってのけたんだよ。命を落とさずにロックンロールのまま死んだんだから」(『Please Kill Me』)と奇妙な賛辞も贈られていたが、やっぱりこのパンクロッカーというスティグマだけでは彼女を正当に評価できませんよね。

前述の著作群を読むと、息をするように自然に文芸と詩が溶け込んだ生活の中で、家族を心から愛し、柔らかで機知に富んだ文章を紡ぐ優れた文学者であることが良く伝わります。だから個人的には、ビート・ジェネレーション以降、ボブ・ディランに続く形でその感性を受け継いだ重要な現代詩人、と言ったほうがしっくりくる。16年のディランのノーベル文学賞受賞式での代役は完璧な指名だと思った。

さて、この写真集。01年~16年の15年間のパティ・スミスの軌跡が写されています。前述のドキュメンタリー映画と著作群と同時代で、まさに彼女の現在進行形が詰まってます。そして、撮影している富永さんとの心温まる交遊も通奏低音として綴られています。

印象的だったのは、富永さんに宛てたパティからのメッセージ。

yoshi are you in the city / i was in a car in New York / I thought you on the street / maybe it was your sprit / i am home / call if you are here

実際富永さんはNYに居なかったんだが、それでもプライベートで深く悩んでいた時だったようで、富永さんにとって大変救いとなったメッセージだったようだ。

で思い出したのが、エッセイ2作目『Mトレイン』の中にあったエピソード。パティが東京に旅行中、村上春樹に会いたいけど、「東京のどこにもムラカミを感じさせるものはなく〜(中略)〜ともかくここにムラカミはいないな、と私は思った」と書いていた。これを“霊感”というと野暮な語彙な気がする。僕はむしろ“詩人の感性”と言いたい。スピリチュアリティは文学と切り離すべきではない。そして文学もスピリチュアルを手放すべきではない。

彼女は、過去の偉大な小説家や詩人や芸術家の誕生日を覚えていたり、旅する先々で逝去した文豪の墓参りをする事はよく知られている。日本では芥川、太宰、三島の墓には行ったみたいだ。この写真集でも供花を片手に墓地を歩いているスナップがあった。さてどの文豪のお墓参りだったのでしょうか?

フジロック含むジャパンツアーのスチール群も秀逸。ステージの息遣いを感じる。静謐なポートレイトも素晴らしい。マイルドな詩人のうちから溢れる美しさ。そしてピースマークの力強さ!パンクといえば無政府主義のAマークなんてマクラーレン以降のマナー。先行する対抗文化を引き継ぐならピースマークでしょう。こんな胡乱で暴力的な時代にあって一番のラジカルは平和主義だ。

ただ個人的には、やっぱり彼女のその”自然な微笑み“のスナップに心奪われた写真集でした。メイプルソープに始まり、色々な写真家のパティ・スミスを見てきたが、この“微笑”は富永さんの写真でしか見れないかもしれない。滲み出るパティの母性が、同じく母であり芸術家(写真家)の富永さんの魂の深いところで共鳴したからこその奇跡の瞬間。

たしか詩人ポール・グローデルが同じく詩人ランボーを評して「反逆児から見者、そして ”神秘的な柔和さ“」みたいな事を言ってた。

富永さんが撮ったパティの微笑みを評するなら、まさにこれかな。

#PattiSmith #thedoorsoflight #PattiSmiththedoorsoflight #YoshieTominaga #パティスミス #光の扉 #パティスミス光の扉 #読書メモ

#私の読み散らかし