明日の風を纏う バスローブ
ケメコは、
忙しかった今日一日を、
振り返りつつ、粒子をシャワーで洗い流す。
外の世界でカラダに着いた様々な粒子、
・あの人の顔色
・あの瞬間の認識のズレ
・言葉にならないザワツキ
外の世界には、
様々な粒子がたくさん漂っているから、
それをシャワーで流す。
カラダに残し、纏うものと、
カラダから洗い流し、脱ぎ捨てるものに、
より分けて、
自分を
調える。
ケメコはシャワールームから出ると、
籠に用意しておいたバスローブを、
フワリと羽織った。
「 ん? 」
フワリと羽織ったはずなのに、
なのに、
な・の・に、
何処かフワリこない・・・。
そのピンクのバスローブ、
これは、確か・・・、
少し急いでいたから、
「まあ、悪くはないかなァ」で、
選んだ。
ほかに選択肢がなかったので、
充分にトキメかずに、
買った。
今思えば、
その時、余計な粒子を「背負った」
と言えば大袈裟だけど、
しっくり来ないものを「纏った」
気がする。
翌朝、
ケメコは、洗濯機からバスローブを出すと、
「 ほぅ 」
少しピンクが黒ずんでいる。
ケメコはバスローブを、
自分で少し黒ずませた。
状況に変化を与え、
新しいバスローブを買い換えるための、
キッカケを作るために。
「粒子」に働きかけ、
洗濯機の中で、衣類を選り分ける。
ケメコにとって洗濯機は、
単に洗うだけの機械ではない。
・選択する「機械」
・選択する「機会」
・明日のための「選択期」
でもある。
表向きの理由は、
他の服の色が、
バスローブに付いてしまったから・・・、
と言うものだった。
でも、ケメコは知っていた。
自分が空気中から粒子を集めて、
バスローブに何か変化を与えたこと、
自分が、その現実を作り出したことを、
ケメコは知っていた。
この世で起きている事は、
世間で言われているほど、
「自然でも偶然でもない」
自分が引き起こしているのだ。
1週間後、
ケメコは気分の良い一日の終わりに、
シャワーを浴びていた。
シャワー室から出ると、
新しい白のバスローブを、
フワりと羽織った。
新しいバスローブは、
過去を背負ってモヤっとはしていなかった。
心地よく、軽く、フワッとしていた。
ケメコはバスローブを羽織り、
そのままベランダに出て、
明日の風を纏った。