「風と雲 〜清宗異聞〜(八)」

(八) 衛山島

翌日から情報収集の部隊が編成された。海図を作成する班、海寇の状況を探る班がそれぞれに動き出す。皆、地元の漁師舟に乗って漁民として島までの海路や島の様子を探った。海寇は商船は襲うが漁民は襲わない。上陸作戦は陸戦部隊が担当する。集まりつつある情報を整理しながら、皆で作戦を練った。現場の海域は暗礁も多い。海図には新たに見つかった暗礁が書き込まれていく。海流も複雑で、潮の満ち引きに合わせて変化する。秋も深まりつつあり、冬の季節風がいつ来るかも問題だった。海戦の日取りも風の様子を見ながら決定しなければならない。教能は毎日空を眺めて、明日の天気と風を読む訓練を続けた。船の修理は終わり、帆も換装され新品になっている。麻と綿を使用しているが、船大工の王が撚り方を工夫して、より太く丈夫な糸を編んでいる。今まで以上に風を良く受け、しかも丈夫だ。王虎は毎日のように海に出る。目的地の島へは向かわず、舟山本島へと航海する。そして島をぐるりと廻って帰港する。襲撃予定の衛山島は北東だ。舟山本島は群島の中で最大の島で、海寇の本拠地でもある。舟山襲撃を匂わせる作戦だった。王虎がやって来るたび、さりげなく漁船が接近して来る。海寇たちが探りを入れていた。王虎が沿海制置使の肝入りだという話は、海寇たちにも知れ渡っている。舟山本島の海寇たちは警戒し、守りを固めている。兵も集められ、宋の軍隊との決戦に備えて陣地も調えられている。そんな舟山本島の状況も大体のところは把握できていた。

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