「風と雲 〜清宗異聞〜(六)」

(六)海洋島(ハイヤンタオ)

弥太郎の船には高麗の荷が山積みされ、出港の準備は整った。見送りの人々が手を振る中、王虎が出港し商船二隻が後に続いた。富山浦から海洋島までは三日の行程だ。高麗の陸地を右に見ながら黄海へと進む。遼東半島の東南海中に七十二の島があり、その中で最大の島がハイヤンタオだ。風をしのぎ大船が停泊できる天然の良港がある。海寇たちが集い、宋や高麗、日本の商人も来島している。ペルシャをはじめとする遠国の商人も多い。東洋最大の密貿易の拠点であり、その賑わいは富山浦や博多をも凌いでいる。国を通しての貿易は自由ではない。宋では高価な商品は専売品として国に買い上げられ、それを商人が買うという仕組みになっている。国の儲けが大きい。だから商人にすると闇で買い付けた方が安く買えて、高く売れるのだ。闇市場としてハイヤンタオが担っている役目は大きかった。
航路の途上には大小様々な島が浮かんでいる。パクたち海寇は手漕ぎの快速船を使い船に乗り付け、舷側を登って船上を制圧するのが手口だ。島影に隠れて潜み、海流の流れに乗って殺到する。この海域を過ぎれば黄海を横切りハイヤンタオに至る航路に乗る。島がある航路はここ一両日で通過する。
(そろそろだな。)
弥太郎は確信し、皆を後部甲板へと集めた。今回は王虎だけではない。ほぼ武装のない二隻の商船を守る。そのため、あらかじめ両船には兵を配置してあった。それぞれの船に景清と盛嗣が侍大将として乗り込んでいる。王虎には水兵の他は巴、山吹をはじめとする少数がいるだけだ。
(もういつ来てもおかしくはない。)
弥太郎は進路上の島々を見つめている。皆が張り詰めた気持ちで通り過ぎる島を睨んでいる。
船団は二隻が左右に広がる形で先行し、王虎が追走している。いずれも帆船だが、商船は速度も回転性能も劣っている。王虎は帆の上げ下ろしを頻繁にして、速度を調節しながら走っている。

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