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ユメ・ネレイト:優雅にぶつける

花の都パリ、彼女は本を閉じて、はーと息を吐いた。

そんな彼女のアパートは、ヒカリというカフェの上の階にある。今のところ、ちょうどコーヒーのいい匂いが漂っている。

香りにそそられ、冷蔵庫をあけた彼女は「あ、そうだった、こいつ壊れてるわ。」と悟り、少しイラついた勢いで扉を閉じた。ミネラルウォーターが倒れる音を無視して。

なんという退屈な生活だ。という考え方から彼女は必死に目を逸らしていたが、今日はうまくいかないようだ。

やっぱり、猫を飼うか。ノルウェージャンがいい、彼女の身だしなみに相応しい。

まぁ、そんなのもタラレバの話で、彼女は現実主義者である。

そんな彼女の生活は我々普通の人からしては決して退屈なものではなかった。SNSという覗き穴から見えた彼女は、彩った毎日をしなやかな動きで満喫しているはずだ。

今日もその200年歴史のある窓からパリの汚い路面を避けて、鬱々しい光景をカメラで収める。ここにいて5年、彼女はパリになりきった。フランスに対する偏見を飾りにして華やかな自分を仕上げた。そのためにもパリは綺麗でなくても、優雅でなければいけないのだ。

そんな彼女を浪漫派だと思ったら大間違いだが、彼女は喜んでそう思われる。表の美しさと中身の強みの間に衝突的なバランスを取りたいのだ。つまり、彼女は庶民的なお嬢様で、淑やかなお転婆、彼女は誰よりも特別なのだ。

でも冷蔵庫は壊れている。正直壊れているのは冷蔵庫だけではないが、彼女は先ほど撮った写真にコメントを書き込み、SNSにアップしながら階段を降りた。

ヒカリのコーヒーで旬の無花果を楽しみたいのだ。

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