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【後編】サーモン養殖産業の源流では、いかしたグローバル企業が活躍している

 前回の種苗会社に続き、サーモンの養殖用飼料を生産するグローバル企業を紹介したい。餌は、サーモン養殖の良し悪しを決めるといっても過言ではない。なぜなら、餌は商品としてのサーモンの質を高めるだけでなく、環境へのインパクトにも大きく関わっているから。飼料メーカーSKRETTING(スキレッティング)を訪問し、そのことを再認識するとともに、現代のメディアのあり方についても考えさせられた。話が壮大だね。

 スキレッティングへの訪問は、日本にいる時から付き合いがあったサーモン養殖会社Cooke Acuaculture Chile(コック)の海面養殖部長、ホルヘ・ウィルソン氏のお陰で実現した。ホルヘは、冗談ではなくぼくの命の恩人。今回の滞在では、サーモン養殖の関係者に話を通してくれ、なぜかぼくより熱が入っている。ちなみに、コックはスクレッティングの顧客の一社。現在、チリにおけるサーモンの養殖会社は買収をへて十数社に集約されている。チリで知り合った関係者が、別の知り合いと繋がっていることはよくある。

 朝6時起床。仕度をして、ホルヘの車でPargua(パルグア)という小さな街へ行く。パルグアは、チロエ島に渡るフェリーが往来する場所でもある。3年前にチロエ島にバスで上陸した時にも通ったはずだけど、土地の名前はまったく記憶していなかった。

 7時に出発。連日、朝6時起床だったので眠たい。ただ、前日は初めて会ったヘンドリックス社のカルロスと、車で片道4時間をともにしたことを思えば、ホルヘは楽勝。やはり気心が知れている。だからといって助手席で眠ってしまうわけではないけど、沈黙が不自然じゃない。パルグアに向かう途中、学校教員のデモ(チリでは教員の給料が低い)により足止めをくらったが、8時半ころには先方より早くスキレッティングに到着した。入り口で車を消毒し、工場内へ入る。この日もよく雨が降った。

 スキレッティングのクリスティアンとロベルトが、施設を案内してくれた。施設内の写真撮影は事前に許可が必要で、許可不要な部分だけをカメラに収めた。簡単にいえば、施設は上から流した材料が下から出てくる時にはペレット状の飼料になる構造をしていた。人間が食ったものがうんこになるのと同じようなもん(冗談です)。材料は全て、トレーサビリティがコードで管理されている。「食卓に上がったサーモンが、どこの原料から作った餌を食べて育ったかを知ることができる」(クリスティアン)。ペレットになったものは、半自動的に袋詰めされる。袋にも番号とコードを印字。各袋の飼料は、出荷前に品質管理部門で分析し、問題がなければそのまま出荷される。

左からホルヘ、クリスティアン、ロベルト。

 餌は与えるだけ消費されなくてはならない。でなければ費用対効果が悪化するので、魚の状態によって最適なタイミングで給餌する。そしてその餌は、最適な速度で沈むように設計されている。「海面養殖の生簀では、サーモンに食べられることがなければ、生簀を抜けて海へ流れ出る。流れ出た餌は、海の富栄養化を招く恐れがある。環境汚染を招かないためにも、餌がゆっくり沈むようになっている」(ホルヘ)。

サーモンの成長にはタンパク質が欠かせない。かつてはペルーから魚粉を輸入し、飼料の主原料として使用していた。現在は大豆といった植物由来のタンパク質に、かなりの部分が置き換わっている。

グリーンピースが制作した「サーモン養殖の裏側に迫る」という動画がYoutubeに挙げられている。7年も前の動画だ。ペルーのチンボテという街が、魚粉工場が原因の公害で悩まされているという内容になっている。今のチンボテの状況がどうかは不明だし、動画で取り上げられている工場がチリのスキレッティングに魚粉を販売しているかは定かでない(動画の中にはスキレッティングの名が登場している)。ただ、スキレッティングで見たスライド資料では、ペルーから入ってくる魚粉の使用料は、7年前から現在までに半減していた。

 チリのサーモンの養殖については、さまざまなネットメディアで数年前の記事を閲覧できる。リテラシーのある人であれば、数年前のネット記事の現在における価値が分かる。一方で、数年前の記事を現在の事実として受け止めてしまう人も残念ながらいる。ネットメディアでは古い記事に「この記事は●年前のもので、現在における信憑性は保証できません」と記載した方が良いのではないかと思う。グリーンピースの動画にはつい3週間前にもコメントが付いていた。

※この記事は6月27日現在における事実をもとにしており、未来において変化しうる情報を含みます。

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