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【前編】サーモン養殖産業の源流では、いかしたグローバル企業が活躍している

 6月26日、27日は、チリのサーモン養殖産業の源流ともいえる2社を訪ねた。一つはHendrix Genetics(ヘンドリックス)。25カ国に拠点があり、チリではサーモンの種苗会社として機能している。遺伝的な改良を重ね、よく成長し免疫力もりもりな養殖に適したサーモンの卵を、養殖会社に販売している。二つ目はSKRETTING(スクレティング)で、養殖用の飼料を生産する会社。2社には「サステナビリティ」が共通している。チリにとっては外資系企業になる2社での会話は、まるでどこかのNGOと話しているかのような感じ。地域や環境に配慮した取り組みをしてるんだなぁ、と関心してしまった。

 ヘンドリックスの施設を訪れた6月27日は、土砂降りだった。朝7:20に宿を出た。クソ寒い。。。滞在先近くのスーパーでヘンドリックスのカルロス氏と待ち合わせた。カルロスは親日的で、Whatsuppのメッセージで名前に「san」を付けてきたりする。ヘンドリックスでは養殖会社といったクライアントとの渉外を担当している。彼の車に乗り込み、いざ出発。

 施設があるのはCatripulli(カトリプジ)という、雰囲気でいえば富士五湖周辺のような場所にある。長いチリの真ん中のやや下、ラ・アラウカニア州内の小さな街。近くにはビジャリカ国立公園がある。滞在中のプエルト・モンからは車で4時間半。こんな車移動、南米ではざら(流石に通勤する距離ではない)。前日こそ(おいおい4時間も何話すんだよ)と思ったけれど、カルロスの人柄にも助けられて会話も弾み、実りある往路だった。彼の人柄についても、どこかで紹介してみたい。

 到着してすぐ、軽くレクチャーを受ける。てっきりヘンドリックスの事業内容について解説されるかと思っていたけれど、主な内容は地元の「マプチェ族」との、これまでの歩みだった。日本の明治時代くらいには、この地に「アラウカニア・パタゴニア王国」という共和国があり、チリやアルゼンチンから弾圧を受けていた歴史がある(人権団体のHP: https://www.mapuche-nation.org/blog/kingdom-of-araucania-and-patagonia/)。今でも差別や経済的な格差があるらしいけれど、短い滞在ではそれを感じ取れなかった。マプチェについてまとめた著名記事もあるので、参考までに。

 施設ができたのは1995年。ここで生産されるサーモンの卵は、遺伝的な最適化を目指してきた結果、餌の量に対する成長率が高く、病気に対する免疫も高い。この施設で働く従業員の約94%が、マプチェ族と何らかの形で関係しているらしい。何らかの形とは、ずばりマプチェ族である場合もあれば、その血を引いているだけの場合もあるということ。昔は文字を読むことがなかった彼ら。ともに働いていくために、教育面での支援を実施してきた。施設の近くには、ヘンドリックスの支援で開設したレストランもあり、雇用を生み出していた。

 マプチェ族の通年行事にも参加する。例えば「We Tripantu(ウィ・トリパン)」。6月21日に始まり、マプチェ族にとって正月にあたる。「各コミュニティがそれぞれの様式で土地に感謝し、豊作や健康のために祈りを捧げます。私たちも彼らと一緒に、例えば食事の準備したり、運営面で参加してきました」(カレン・オヤルソ領土管理責任者/写真右)。

 卵の品質チェックを行う場所では、シャイな二人の若い女性が働いていた。週6日間働く。勤務時間は8:30〜17:00で、1時間の休憩がある。「ちょっと寒けど、そこまで大変な仕事ではない」という。ジェニー(写真右)は、2年間の経験があって、ティサはインターン。

 その後は、母体となる成魚を育てる施設を見て回った。ICチップに記録された遺伝子データ、自動給餌システムといった最先端の技術がサーモン養殖産業を支えていた。

 従業員の手取りは未経験で一月約600ドル(約40万6200チリペソ、2019年6月28日のレートで算出)から。チリの統計によるとラ・アラウカニア州における17年の平均月給は、男性で48万3456チリペソ、女性で37万2976チリペソ。おそらくこの数字は額面給与だけれど、平均値と考えると、ヘンドリックスの従業員はわりとしっかり生活できていることが想像できる。

 チリにとってのサーモン養殖は、日本にとっての自動車製造のようなものだとよく思う。まあでも日本は「自動車なんてCO2出しまくる産業は悪だ!チャリ作れ!チャリ!」とか環境保護団体から過剰にいわれたりしない。その点、チリのサーモン養殖は損しているなとも思う。ただ、一大産業であることは確か。生産から消費という一筋の流れは細いように見えて、実は超ダイナミック。一筋の流れに、多方から集まったいくつもの線が凝縮されている。社会・経済・環境へのインパクトの中に、人の暮らしがある。社会科見学をただの遠足だと思っていたぼくは、27歳にもなって仕事まで辞めて、こんな当たり前のことを学んでいる。

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