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大糸北線の生きる道

先日、アーミーの退職記念ツアーの際、大糸線(糸魚川⇒南小谷)に乗車する機会があったので、その時の様子と現状、今後の可能性ついて記してみたい。

<現状>
「制限25」
何かの工事徐行などでは時々あり得る速度ではあるが、これはれっきとした大糸北線の一部区間に存在する、正規の速度制限だ。
(この時同行した瑛美ちゃんなどは、雪で徐行しているの?と思ったくらい)
JR西日本では、一部の閑散線区にて行っている手法で、恐らくレールの交換時期が近付いている区間で、なるべくレールへのダメージを減らすために、速度を落としての運転を恒常的に行っているのだ。
実際、先頭から様子を見ていても、そんな速度まで落とすべきカーブではなく(本来なら50km制限ぐらいか)、直線であっても速度を落としている場所さえあった。


南小谷~糸魚川間の営業キロは35.3キロ。
行き違いが可能な駅は、根知駅のみ。
ただし、平岩駅で折り返し運転が可能なように信号回路が構成されている。
昔は、関西からスキー列車など、白馬へ向けての観光列車が直通した時期もあったようだが、今では皆無。
この区間はJR西日本としては、新幹線開業に伴い他線区から切り離された、いわば離れ小島。
この乗客減の情勢下もあり、経営が苦しくなっているJR西日本としては、経営の切り離し=路線の廃止を地元に提案している状況だ。

実際にどれだけ赤字なのか。
営業係数という指数がある。これは、100円を稼ぐのに幾らの経費が掛かるのかを現した数値だ。
公式なデータは現在、公表されていないが、2013年ごろのデータを元ではあるが、識者の試算により850を超えている。ということは、100円を稼ぐために850円を投資しているということ。そのころから利用者が増えているとは考えにくいことから、現在ではさらに悪化の一途をたどっているかもしれない。
因みに今春。JR西日本は赤字線区の営業係数を公式に発表する方針だそう。
恐らく今後、沿線自治体と今後のローカル線の運営方法を協議するにあたっての、一つの資料としてだろう。

実際に地元の利用者はどれだけいるのだろうか?
好きで乗る趣味者はともかく、自家用車が利用可能な地元民であれば、ほぼ確実に使わないであろうと思われる。
なぜなら圧倒的に、車の方が速い。
南小谷~糸魚川間で見ると、列車の場合、最速でも56分。しかもほとんどの列車が1時間~1時間5分ほどを掛けて走っている。
対して自家用車は、Googleマップでの経路検索時間で47分。しかし実際には、平均60キロぐらいで走ることも可能な道路条件なため、工事・降雪時などでない限り、40分ほどで走ることは充分可能であろう。
(制限速度違反ではあるが、80キロぐらいで飛ばす地元車もある)

例によって本数も少なく不便。7往復+平岩までの区間列車2往復
日中は3時間ほど運転間隔が開く時間もある。
増発に関しては、設備面からかなり厳しいこともある。
行き違い設備のある駅は、根知駅のみ。
根知駅~南小谷間の所要時間は糸魚川行きが43分、南小谷行きが48分ほど。
折り返し時間を勘案しても、同区間は1時間40分が最小の運転間隔になる。実は、現状のダイヤを維持する形で増発することは、不可能なのだ。

災害に対する耐性も、道路と比べると脆弱であることが予想される。
この地方は豪雪地帯。以前は道路交通に対して、鉄道は雪に強いというイメージがあったものの、特にローカル線を中心に、近年ではそのイメージが覆っているように思う。
そもそも大雪が予想される際には計画運休をするケースが多い。
対して道路に関してみると、相当な大雪であればともかくだが、除雪体制も整っていること、また、豪雪区間ではトンネル・スノーシェッドの区間も多いことから、鉄道よりは災害に対する耐性は高いのではないかと考えられる。

因みに、新潟県でディスティネーションキャンペーンを開催した時に、大糸北線でも増発実験をしたのだが、その増発分は、バスにて賄われた。
その際の時刻表を確認してみると、全便が56分での運転となっている。
おそらく、ダイヤ的にはある程度余裕を持っていることが考えられる。
渋滞の可能性もほぼ無い地域でもあることから、遅延もそこまで考えられない。
前述の通り、設備面から増発が出来ないための措置でもあるものの、結果的に…

「自家用車はおろか、バスの方が速い。」
ということを、立証してしまった形でもある。

残念なことに、これが現在の大糸線の現状だ。


<今後の可能性>

贔屓目に見ても、四面楚歌。大糸線の未来には明るい兆しは見当たらないとは思う。しかし、まだ生き残る余地もないわけではない。もちろん沿線自治体が、どのようにこの鉄道を活かそうと考えているか?という所が重要ではあるが。

・白馬へのアクセス路線としての機能
会社境界の絡みもあり、現状では直通列車の設定は無いものの、以前は白馬への直通列車も設定されていた。
今後、北陸新幹線が大阪まで延伸開業した際、鉄路によって関西~白馬を最速で結ぶルートにもなることから、ある程度の需要は見込める可能性はある。
もっと踏み込むと、「松本~安曇野地区~白馬地区~糸魚川」のルートを介して、関西や関東から見ると、周遊ルートを形成することは十分可能。
これは今後の観光戦略としては、まだまだPRの余地があるのではないかと思う。

・観光路線&地域路線として生きる
もはや、大糸北線は、地域住民向けの路線としては、使命を終えているといっても良い。
朝晩のラッシュ時を除けば、バスでも十分に賄える輸送量なのだと予想できる。

運賃体制も大幅な値上げが必要。
通常運賃を大きく値上げして、(例えば南小谷~糸魚川を1000円)
日中の平岩~南小谷間は、観光停車などさらに速度を落として運転。
自動放送による観光案内など、乗って楽しい仕掛けを重視。
地域住民も気軽に利用できるようにするには、定期・回数券に関しては、現状と遜色ない割引運賃を設定が必要だろう。(定期、回数券は、地域住民のみ購入・利用可能とする)

一つの指針として、この辺り一帯が連携して、「鉄道のテーマパーク」として捉える方針もあってよいと思う。
糸魚川駅にはジオパーク・直江津にはD51レールパークといった、鉄道文化を伝える施設がある。これらと大糸北線とを組み合わせて、モデルルートを作るとウケるのではないか?
数少なくなっている国鉄型気動車を再配備して、上越妙高~直江津~糸魚川~南小谷を急行運転(といっても、急ぐわけではなくゆっくりと走ってみる?)するなど。
首都圏から考えると、沿線に宿泊して1泊2日で丁度よいボリューム感となるだろう。

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・冬季の区間運休も視野に
帰省などが考えられる、年末年始輸送後、1月初旬~3月中旬までは思い切って運休する。という考えはないだろうか。運休区間は、南小谷~平岩間だけでよい。
除雪費用などにもそれなりに費用が掛かることもあるのと、現状でも、道路交通に大幅な影響が出るような天候の時には、鉄道も運休となっている。
スキーなどの観光需要を拾うために、土日のみ、糸魚川~南小谷~白馬の直行バスを別途運行するのもアリかもしれない。

・経営母体について
現在、大糸線のあるこの地域には、JR西日本・JR東日本・えちごトキめき鉄道の3つの鉄道会社がある。
現状はJR西日本の運営ではあるが、北陸新幹線によって分断されたこともあり、離れ小島的な状態。非常に非効率的な状態にある。
大手企業の賃金水準にあるため、人件費も嵩むこともあり、同社において大糸線を運営するのは、もう限界が来ているであろう。
(他にも同様な路線は幾つもある)

一案ではあるが、財政的な支援は必要なところではあるが、えちごトキめき鉄道に経営を移管するのが、今後も事業継続するのであれば一番良いのではないかと思う。

理由は以下の通り。
JR東日本も一つの候補ではあるものの、同社も現状、苦しい経営状況にあることは同じ。南小谷で境界を接しているとはいえ、非電化区間が離れ小島になってしまうことから、乗務員運用面や車両運用面では現状よりも効率が悪くなることが予想される。

経営状態の苦しさには変わりはないものの、えちごトキめき鉄道は、糸魚川~直江津間の普通列車が原則、気動車での運転となっていることから、運用の効率化が可能ではないか。現状JR西保有のキハ120、えちごトキめき鉄道保有のET122気動車を互いに乗り入れることが出来るようにすると、運用が互いに柔軟になるのではないか。

潜在的な需要の掘り出しも期待できる。
例えば、2021年に糸魚川市内に、えちご押上ひすい海岸駅が開業。付近に高校や病院もあることから設置されたのだが、大糸線内からの需要もあるのではないかと思う。
しかし現状、大糸線内~同駅を利用しようとすると、初乗り運賃(190円)が加算される。このことから敬遠する利用者も一定数いると思うが、同一社線となり運賃が通算されれば、割高感は薄まり、ダイヤ次第ではあるものの、利用者が多少は増えるのではないかと思う。



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