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僕の退職ストーリー その2

<退職プロジェクト発動>
さて、退職表明と共に、極秘プロジェクトを計画し始めた。
それは僕の最後の乗務列車に、Facebookで繋がっている友人を呼び、乗りに来てもらおうというものだ。
その準備段階として、勤務担当の方にぜひ最後の列車は思い入れのある特急列車で終わらせて欲しい!と熱願。
もう最後なので、なりふりは構っていられない。
というのも乗務最終列車の最後部車両を、出来ることなら僕の友人たちで占拠してしまおうと考えていたから。
乗務行路の希望・最終日の希望日も伝え、それに合わせて極秘イベントを立てる。
この人は!という方に声を掛け、Facebookのクローズイベントを立てたのだ。

結局勤務上の都合で、希望の乗務列車は少し異なることになってしまう。元々この列車!と考えて人数分を抑えていた切符はとりあえず放流し、急遽イベント内容を変更。
僕の乗務する行路をこっそりグループ内で公開し、もう好きな時に好きな列車に乗って来てくれい!!という形に切り替えた。

まあ結果論から行くと、こちらの方がドキドキ感があって面白かったかもしれない。

退職Xデーの1カ月前からは、なぜか勤務も特急列車ばかり。そんなに特急列車に乗務したいなら退職前にとことん乗っておけ!という勤務担当の方からの愛のムチだろうか。
実はこのころ、退職の準備だけでなく、急遽開催することになったえみポンとの結婚式(ご両親からめっちゃ笑顔でぜひやろう!といわれたら、ノーとは言えなかったw)の準備、そして、元々ここでやろうと構想していた古民家の買取交渉決裂に伴う、新たな物件探し、そして、世界一周新婚旅行の準備と、タスクが山積みの状態で退職を迎えることになった。
今までの人生の中でも、トップクラスに大忙しな数カ月だったのは間違いない。
こうしてついに2月7日、10年少々の鉄道員人生を締めくくる、最終乗務へと臨むのだった。

<最終乗務行路1日目>
いよいよ出勤。いつも通りのルーティンをこなしてホームへと向かうが、ちょっとワクワク感があるのがいつもと違うところ。普段の仕事ならばあり得ないことだ。果たしてどんな2日間になるのだろうか?
そんなところはなるべく外に出さないよう、ポーカーフェースを貫いたつもりではあるが、まあ多少は雰囲気が漏れ出ていたかもしれない。
勿論、業務自体はしっかりと行わなければいけない。先月は同じ行路を何度も乗務しているとはいえ、油断は禁物だ。

最後にあてがわれた泊まり勤務は、まずはターミナル駅まで便乗(要するに移動するだけ)で向かい、そこから臨時特急の乗務を1往復。終点の駅では4時間を超える長い休憩が待っている。
今日の乗務はそれで終わりで、宿舎で翌日の乗務に備える。
そして翌日、増結・車内改札サポート要員として再び特急乗務、そして帰りは便乗という行路だ。
睡眠時間もそれなりに取れるし、体力的には楽な行路である。

ホームに出場すると、いつもの駅弁の立ち売りのオッサンに声を掛けられる(駅弁会社の社長さん)儲かってますか~?といつもの軽口に、全然売れんわ!という掛け合い。
田舎ならではの楽しいひと時である。
しかし、この駅弁立ち売りももう間もなくなくなるとのこと。
僕も一足早く、お役御免になりますよ!というとビックリ顔。事情を話すと、そうか…お互いにお疲れさんやね・・・と。
それでは最終乗務、行ってきますね!と、便乗の列車に乗り込んだ。

ターミナル駅に到着。あまり特急の発車までは時間がなく、空席情報をチェック。やはりこの日は結構な混雑だった。
少し早めに特急列車が発車するホームへと向かう。すると…いた!
事前にここで乗るね!と予告は受けていたので想定の範囲内だったが、おしょうとYさんがこの後車掌室に一番近い位置となる、自由席の乗車位置に既に並んでいる。しっかり一番前だ。
あろうことかおしょう、ウサギちゃんの被り物をして、これは確実に僕の笑いを取りに来ている。とんでもないこと考えてきたなw
ホーム据え付け、ドアを開けて反対側の乗務員室へと手慣れた動きで出発前の業務をこなす。
エンジン音を轟かせて、いよいよ出発。
明日は改札業務なので放送をすることはない。車内放送マイクを握るのもあと少しだな…と実感を今更にして感じながらの、始発放送だ。

おしょうとYさんの待ち構える自由席号車へ。次の停車駅で方向転換をするため、ここからは最後の僕の姿を酒の肴として楽しむ二人の生贄となるのだ。
しかしここでまさかの事態?が。なんと上司が次の駅から添乗してきたのだ。
時折実施される添乗だが、よりによって最終日にやってくるとは。
目の前にはこちらの気も知らず、被り物を被ったおしょうとYさん。うわ…笑っちゃいけないヤツや。

平静を装い、車内改札の続き。
とうとう二人の改札の順番、するとおしょうのウサギ耳がピコん!と跳ね上がる…
おい、やめんかい!
なんだこいつらは!という目で突き刺さるような上司の目線。勘弁してくれよと思いつつ、必死のポーカーフェイスでにこやかに車内改札を終える。
乗務員室に入ると上司が
「なんだ?お前の仲間か??」
「ぜひ最終乗務に乗りたいって言ってくれたので…(イベントのことは絶対内緒!)」
「まったくもう…」
まさしく苦虫をかみつぶしたかのような表情に縮こまる。

次の停車駅で降りていく際に、「最後までしっかりやれよ!」と激を飛ばして去っていったときはホッと胸をなでおろした。

最後の僕の仕事風景を写真に納めてくれたりと、大盛り上がりの二人。近くに座っていた外人さんから、どうしたんだい?と聞かれたらしく、僕が最終乗務だと答えたら、喜んでくれたとか。

終点に到着。お昼ご飯を一緒に食べようということになっていたので、片付けと次の乗務の準備を済ませて休憩時間だ。
拉致られて市内のラーメン屋さんでお昼ご飯。
仕事の休憩中にこんな仲間と一緒に時間を過ごすのはとても新鮮な感覚だ。

そのまま彼らは街を満喫し一泊、明日、僕が制服姿で一般の前に姿を現す、最後の姿を見届けに来てくれる。
実はほとんどがそこを狙ってくれていて、今夜はここに泊まるメンバーも多いらしい。
本来は、翌日の最終乗務列車をメインとしてそこに集まってもらう予定で呼びかけていたので、いわば明日がメインのようなものだ。
それにしても、この僕の最終乗務のために集まってくれた人の経済効果、なかなかなモノだと思うとちょっとニヤッとする。泊りがけで来てくれている人もいるし、明日、僕の乗務のために往復する人もいる。

山間部の冬の日暮れは早い。18時前の出発だが、もう辺りは真っ暗だ。
ターミナル駅行きの上り臨時特急。僕が本務担当を務める列車は、いよいよこれが最後だ。
なんとこの列車に乗って来てくれたのが佐久から駆けつけてくれたEさん。
明日の列車にも乗るのだが、僕の本務を務める姿を一目見たいと、一駅だけわざわざ往復してくれるのだそう。
指定席は本来は改札を省略しているのだが、Eさんだけは特別に改札。静かに1駅間のおよそ40分程だが、僕の乗務列車をお酒を片手に楽しんでくれた。

Eさんも降り、夜の帳の中を駆け抜ける列車。長年悩まされ続けていたシカも、今日は大人しくしていてくれるようだ。
もう今日は静かに終わるかな?と思っていたが、ラスト1区間、わざわざ乗りに来てくれた人がなんと3人も。
僕が放送する姿を真正面から動画で撮影されるのに気恥ずかしさを感じつつ、最後の終着駅放送。
いつもよりも早いタイミングでスタートさせて、噛み締めるようにゆっくりと放送。(それでも噛んでしまったのはご愛敬)
無事に最終乗務の1日目が終了した。

入社時からの友人、Kが「メシイケるやろ!」と誘ってくれ、新入社員研修の時にクラスで飲み会をやったりした思い出の中華を食らう。
ふとFecebookを見ると、高山での前夜祭組が大盛り上がりの様子だ。恐らく、おしょうやYさんの撮った動画などを酒の肴にしているのだろうか。
いよいよ明日、僕の鉄道員としての最終日だ。


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