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§223.02 給与所得の意義⑵ ––– 雑所得との区別

1.事件のその後

(略)

2.事案の検討

⑴ 本件判決と§223.01 N&Q2.⑶判決がともに指摘している「給与所得か否かの判断の考慮要素とはならない点」は何か。

(ケースブック租税法〔第6版〕227頁)

 本件判決は、提供される労務の内容が高度の専門性を要求され、本人にある程度の自主性が認められる場合であっても、給与所得となり得ると指摘している。そして、§223.01 N&Q2.⑶判決は、提供される労務の内容が、精神的、独創的なもの、あるいは特殊高度な技能を要するもので、本人にある程度自主性が認められる場合であっても、給与所得となり得ると指摘している。つまり、両判決ともに、労務内容の専門性等は、給与所得か否かの判断の考慮要素とならないと考えているものと思われる。

⑵ 本件判決の一般論を指摘せよ。また、本件判決は、どのような具体的な事実を一般論に当てはめて結論を導いているかを指摘せよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕227頁)

設問前段
 所得税法28条1項の主眼は、「これらの性質を有する給与」が給与所得に該当することにある。そして、これは、雇用またはこれに類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬および実質的にこれに準ずべき給付をいう。換言すると、労務の提供が自己の危険と計算によらず(非独立性)、他人の指揮監督に服してなされる(従属性)場合に、その対価は、給与所得とされる。

設問後段
 特定の学科目につき、特定の時限、特定の場所で、ある程度長期にわたり継続して、大学の学生に対して講義を実施する義務を負うものである。そして、講義の細部について拘束されないが、そのカリキュラムに示された大綱に従うべき義務を有する。このため、大学の一般的指揮監督に服すると判断した。(以上、従属性について)そして、報酬について、それぞれの大学の定める支給規定に従い、週における講義時間数に応じた月額の手当額があらかじめ定められており、これを毎月所定の日に定額支給していたものである。この手当は、夏季、冬季等の休暇中でも支給され、休講等があっても減額されることがなく、講義内容の優劣等はその増減の対象となっていない。このため、労務提供が自己の危険と計算によらずに行われていると判断された。(以上、独立性について)

3.給与所得とされた例

 大学教授が病院経営者等に対して行った指導等の対価が給与所得とされた例として、神戸地裁は、以下のように判示した。
 この判示においては、これまで分析した裁判例において取り上げられていた各種の要素が、本件の事実関係にどのように現れているか、また、判決が判断の決め手とした要素は何だと考えられるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕227頁)

 この事案では、大学教授をXが指揮命令していたという事実関係が希薄である。このように従属性が決め手とならないときは、非独立性の要件が重要となる。つまり、神戸地裁は、教授による派遣医師を通じた指導、情報提供の成果はXに帰属し、仮に不利益があったとしても教授が負担する性質のものではなかったことは明らかであるとし、教授は、非独立的な役務を提供していたと判断し、給与所得への該当性を肯定した。

4.給与所得の判断要素

⑴ §223.01および本項(§223.02)に挙げた判例・裁判例では、どのような事実が給与所得該当性の判断において重視されているか。それらは整合的なものだと考えられるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕228頁)

 「給与所得とは、従属的な労務提供により、非独立的に稼得された所得である」と考えられる。そして、従属性の要件が必ずしも決め手とならない場合には、非独立性の要件が重要となってくる。(佐藤〔第3版〕161-164頁参照)
 なお、「この説明からは、従属性の要件は不要であるように見えるが、非独立性よりも従属性の方が、一般に外形的に明らかであるという事情を考えると、思考の節約という点では、「従属性」の点も、なお、有益なメルクマールだというべきである。」とされる(佐藤〔第3版〕166頁参照)。

⑵ 様々な就労形態、賃金支払形態を考え、その対価として支払われる金銭が現在の裁判例に照らして給与所得に該当するか否かを検討せよ。たとえば、フレックスタイム、裁量労働制、在宅勤務、セールスマン、完全出来高制の賃金、会社利益連動型賃金などについて、どのように考えるべきか。
 また、1日ごとに企業と契約し、建設業等の作業に従事して1日ごとに金銭の支払いを受けるというような就労形態をとる、いわゆる日雇労働者の受ける金銭は給与所得に該当するか。

(ケースブック租税法〔第6版〕228頁)

設問前段
 フレックスタイム、裁量労働制、在宅勤務は、雇用契約を原因とする労務提供である。ただ、指揮命令が制限され、ある程度、労働者に裁量があるという意味で、従属性が希薄となる。しかし、雇用関係にある以上は、自己の危険と計算で、労務を提供しているとは言い難く、給与所得に該当すると考える。
 セールスマンも、雇用契約を原因とする労務提供であると考えられる。ただ、外回りが多いため、指揮命令が制限され、労働者に裁量が事実上認められているという意味で、従属性が希薄となる。しかし、雇用関係にある以上、自己の危険と計算で、労務を提供しているとは言い難く、給与所得に該当すると考える。
 完全出来高制の賃金については、従属性が認められる場合があったとしても、一月に売り上げを立てられないと、報酬がゼロとなる可能性がある。このため、自己の危険と計算により、営業という役務を提供していると考えられる。このため、この賃金は、事業所得と解されるべきである。
 会社利益連動型賃金は、会社の利益に連動している部分と、連動しない固定部分があるときは、自己の危険と計算で労務を提供しているとは言い難いと考える。これに対して、すべての報酬が、会社の利益に連動しているときは、どうであろうか。完全出来高制は、自己の売上などに連動して報酬が決まるが、会社の利益は、自己の売上だけではなく、他の従業員の売上やコストなど、多くの要素の影響を受ける。このため、自己の危険と計算による労務提供とは言い難いのではないかと思われ、給与所得に該当するのではなかろうか。

設問後段
 日雇労働者は、従属性を有する環境で労務提供しているものと考える。
 そこで、独立性の有無が問題となる。日雇労働者は、翌日の契約があるのか否か、わからない状況の下で、労務提供を強いられている。このため、常に、別の雇用者を探し、その危険により、次の仕事を探すこととなる。また、そのような職探しをするための時間を管理するために貯蓄に回す資金を捻出しなければならないなど、自己の計算で、労務提供のための財産的な基盤を用意しなければならない。このため、自己の危険と計算で、労務提供しているようにも思われる。
 しかし、自己の危険と計算とは、雇用者に対して提供する役務の内容について判断されているようである。このため、提供する役務の結果について、労働者が危険を負担しておらず、その役務提供に必要な設備等を労働者の計算で負担していないのであれば、やはり、非独立的に役務提供していると判断されるのではないかと思われる。
 したがって、通常であれば、日雇労働者についても、従属性と非独立性が肯定され、給与所得に該当すると判断されるのではないかと思われる。

5.関連裁判例

(略)

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