【過去問】 必要経費と家事関連費・債務免除益
1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
(公表なし)
4.解答例
設問1について
1.甲の事業所得の計算上、本件支払に係る金額を、必要経費として控除できるのかが問題となる(所得税法37条1項)。
2.本件支払は、売上原価等の収入を得るために直接要した費用(個別対応の必要経費、同項前段)ではない。このため、事業所得を生ずべき業務について生じた費用(一般対応の必要経費、同項後段)への該当性が問題となる。
この点、同項の趣旨は、総収入金額のうち、課税対象を所得に限定し、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるためであると解される。このため、同項後段の費用は、収入を生み出す業務に直接関連し、かつ、その業務遂行上客観的に必要なものでなければならないと考える(ロータリークラブ会費事件判決)。
本件支払に係るガラス製置物の損壊は、生花卸売り業務に関し、丙社から受注した同社の記念行事を飾る生花を配達するときに発生した。このため、甲の生花卸売り業務との直接の関連性が認められる。また、生花卸売り業務において、配送時に、従業員の過失により顧客を含む第三者に損害を与えてしまうことは発生することであるから、その損害賠償金を負担することは、業務遂行上客観的に必要であると認められる。
このため、本件支払に係る金額は、一般対応の必要経費に該当する。
3.必要経費に該当しても、家事関連費等については控除が認められないところ、本件支払に係る額が、家事関連費とされる「損害賠償金」(同法45条1項8号)に該当しないか問題となる。
この点、所得税法施行令98条の2は、重過失によって生じた損害賠償金については、「損害賠償金」として控除を認めない。本件支払の原因となった社長室の高級なガラス製品の損壊行為であるが、甲の従業員乙が「誤って」惹き起こしており、これは故意と同視できるような重大な過失によるものとは考えにくい(民法709条)。加えて、甲において、乙に配送時の教育訓練をより徹底することも考えられ、相当の注意を欠いたことは否めないが、その程度は、故意と同視できるほどではないと考える(民法715条1項)。
したがって、乙の行為および甲の監督状況は、重過失によるものではなく、本件支払に係る額は、「損害賠償金」には該当しない。このため、事業所得の必要経費として控除されるものと考える(同法27条2項)。
設問2について
1.甲は、丙社に損害賠償金として300万円を支払った(民法715条1項)。ガラス製品の損壊は、乙の過失によるものであるから、乙は甲に同額を支払う義務を負う(同条3項)。かかる義務を甲が免除し、乙は対応する経済的利益を得ているため、乙の所得税の課税関係が問題となる。
2.乙の債務免除益は「収入すべき金額」(同法36条1項)にあたる。同項かっこ書きは、金銭以外の経済的利益を含めているからである。また、理論的にも、債務を免れることによって乙の純資産は増加しており課税されるべきである。そして、かかる経済的利益の価額は債務免除から乙の享受する300万円となる(同条2項)。
3.かかる収入金額の所得区分が問題となる。甲は、乙の債務を免除するにあたり、その理由を「あなたは、長い間、まじめに働いてくれていますから」と説明している。このため、甲と乙との間の雇用関係に伴って免除されたものと考える。このため、かかる収入金額は、この雇用関係に係る給付として、給与所得に区分すべきである(同法28条1項)。
4.甲は、「多数の従業員」を使って業務を営んでいるため、乙の給与の支払いにつき、給与所得の源泉徴収義務を負う(同法183条1項、184条)。平成18年6月2日に免除しているため、300万円に対応する所得税を徴収し、同年7月10日までに国に納付しなければならない。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
設問1は、「§231.02 必要経費の意義」(ケースブック租税法〔第6版〕279頁)で取り扱われている、一般対応の必要経費への該当判断基準等が問われている。設問2は「§231.01 収入金額の意義」(ケースブック租税法〔第6版〕275頁)で取り扱われている事項がテーマとなっていると思われる。債務免除益に対して課税される根拠が出題趣旨でも聞かれているからである。いずれも勉強した知識をあてはめるかたちで、解答例を作成してみたところである。
勉強が進んできたためか、若干、即興的に書けるようになってきたように思えるが、それが果たして正しいのか、よくわからないところである。参考答案をみていると、その論理の流れと随分違った書き方となっており、心配ではあるが、たぶん、こんな感じなのかなと思ったものを作成してみているところである。
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