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§224.02 事業所得の意義⑴ ––– 給与所得との区別


1.「事業」の意義

⑴ 一般に考えられる「事業」の例としては、どのようなものがあるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕254頁)

 事業の例としては、一般に、不動産業、金融業、農業、工業、飲食店経営などが、考えられる。

⑵ 所得税法施行令63条と本件判決から、「事業」に共通の性質として、どのような要素を読み取ることができるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕254頁)

 本件判決は、事業所得とは、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」をいうとする。所得税法施行令63条12号は、キャッチオールとして、対価を得て継続的に行う事業が事業所得に含まれることを確認している。

2.区別の意義

 本件において、Xが受け取る顧問料が給与所得とされるのと事業所得とされるのとでは、課税上どのような違いがあるか。どのような場合だと、Xは、顧問料が給与所得にあたるとされる方が有利だと考えられるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕254頁)

 給与所得とされると給与所得控除を活用することで税額を抑えることができるのに対し、事業所得とされると必要経費を控除することで税額を抑えることができる。顧問料が給与所得にあたるとされる方が有利なのは、実額としての必要経費の額が、給与所得控除の控除額を下回る場合であると考えられる。

3.譲渡所得との区別

 資産を譲渡したことから得られた所得が譲渡所得か事業所得かという区別は、譲渡した資産の性質から決まるか。たとえば、土地を譲渡して事業所得になる場合はありえないのか。逆に、明らかに事業を行っている者が資産を譲渡すれば、得られた所得は必ず事業所得に当たるか。§224.03 N&Q 4.⑴参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕254頁)

 譲渡した資産の性質からは、決まらないと考える。たとえば、譲渡所得の典型例は、不動産(土地)を譲渡したことから得られる所得であるが、不動産の売買を業として行う事業者は、不動産の譲渡から得られる所得を、譲渡所得ではなく、事業所得として確定申告することが求められる。なぜなら、譲渡所得課税の趣旨は、所有期間に係る増加益を清算して課税するものとされるが、不動産を業として売買する事業者の売却益は、所有期間に係る増加益ではなく、その不動産に価値を付加して儲けていることが多いと思われ、事業所得(あるいは雑所得)として課税することが適切である。このように、土地を譲渡して事業所得になる場合はあり得る。なお、明らかに事業を行っている者が資産を譲渡していたとしても、その事業の実態を踏まえ、譲渡所得課税の趣旨に適するのであれば、譲渡所得とされる可能性があるのではないかと思われる。とはいえ、明らかに事業を行っているのであれば、その所得は、経常的、計画的に発生する所得であろうから、事業所得とされるのが原則ではなかろうか。(なお、佐藤〔第3版〕92-93頁参照)

 譲渡した資産の性質によって決まるのではないとすると、譲渡所得と事業所得は、どのようにして区別されるか。§222.04参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕254頁)

 資産の譲渡であっても、企画遂行性と反復継続性のあるものについては、譲渡所得ではなく、事業所得と捉えるべきである(佐藤〔第4版〕210-211頁参照)。このため、企画遂行性と反復継続性の有無により、資産の譲渡が、譲渡所得あるいは事業所得に該当するのかは区別される。

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