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§221.03 金融所得課税の一体化

1.引用文献の読み取り

⑴ 「金融所得課税の一体化」の必要性は、どのように説明されているか。

(ケースブック租税法〔第6版〕169頁)

 プロの投資家ではなく、今まで「貯蓄」を中心に資産運用を行っていた一般の個人にとって、より一層「投資」を行い得る環境を整備する政策的要請が、金融所得課税の一体化の必要性と説明されている。

⑵ 「金融所得課税の一体化」の具体的な内容を2点指摘せよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕169頁)

 ①金融所得の間で課税方式の均衡化をできる限り図ることと、②金融所得の間で損益通算の範囲を拡大することである。

⑶ ⑵で指摘された2点が、なぜ必要とされるのかを、引用文献の主張に従って説明せよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕169頁)

 金融所得間での課税方式をできる限り、一緒にする(均衡化する)ことが必要である。たとえば、配当所得について、その事業参加性に着目し、総合課税されていたが、一般投資家の金融所得の性格からすると他の金融所得との中立性の観点から、分離課税とすることで、他の金融所得と課税方式をあわせることが考えられる。
 損益通算の範囲を拡大することが必要である。たとえば、金融所得が、利子所得、配当所得、譲渡所得など、複数の所得分類に跨っているが、これら金融所得間での損益通算を拡大することで、投資リスクを軽減することで、一般投資家のリスク資産への投資を促進することが考えられる。
 以下のリンク先を参照した。

https://www.soken.or.jp/sozei/wp-content/uploads/2019/09/h1606_kinyusyotokukazeiittaika.pdf

2.現行制度の姿

(略)

3.源泉分離課税の拡大

 現行法上は、狭義の利子所得に限らず、法的性質が利子ではないが経済的に類似の機能を有する金融商品についても、源泉分離課税制度が適用される(租特41条の10、所法174条3〜8号)。これらを金融類似商品と呼ぶ。これらはどのような考慮から設けられた規定だと考えられるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕170頁)

 源泉分離課税の範囲の拡大は、一般投資家による金融類似商品(リスク資産)への投資を促進するために、課税方式を簡素化するという考慮が働いたものと思われる。また、上場株式からの配当・譲渡所得など金融商品について、源泉分離課税制度が適用されるとき、金融類似商品については、総合課税という一般投資家にとって煩雑な課税方式が適用されると、金融商品と金融類似商品間の課税上の中立性が維持されなくなるため、中立性を維持するという考慮も働いたのではないかと思われる。

4.定期預金利子の課税繰延

 現行法上は、郵便定額貯金(10年)、収益満期受取型の貸付信託(5年)などの利子については、その支払い時に一括して課税される仕組みとなっている。このような制度には、どのような欠点があると考えられるか。なお、この点については、預入期間が一定の長さをこえる長期の預貯金等については源泉徴収を行う税率を預入期間に応じて段階的に引き上げるという立法提案がかつて行われたが、法改正には至っていない(日経新聞平成7年11月1日朝刊5面参照)。

(ケースブック租税法〔第6版〕170頁)

 設問の満期時一括課税の方式によると、たとえば、100万円を年利1%で10年間定額貯金すると、1年ごとに発生する利子は課税されず、満額が、元本に組み入れられ、非課税の複利効果を享受することができる。そして、満期時に非課税の複利効果により上乗せされた利子に対して、一括課税されるため、支払時に課税される場合と比較して、課税額が低くなる。つまり、満期時一括課税方式の場合、先ほどの例のキャッシュフローは以下のとおりである。(なお、課税されないという前提でのキャッシュフローである。)

1年目 1,010,000円
2年目 1,020,100円
3年目 1,030,301円
4年目 1,040,604円
5年目 1,051,010円
6年目 1,061,520円
7年目 1,072,135円
8年目 1,082,857円
9年目 1,093,685円
10年目 1,104,622円

 これに対して、1年目で15%の源泉分離課税をされると、毎年課税される場合は、1,008,500円となり、元本に組み入れることができる金額は、10,000円に対して、税額分だけ減少することとなり、上述の場合と比較して、享受できる複利効果が低減される。このため、預入期間に応じて、段階的に税率を引き上げることで、支払時に課税される方式と、課税上の中立性を維持する方式が提案されたものと思われる。

5.相互参照

(略)

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