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§213.03 資産からの所得 ––– 株式譲渡益


1.事件のその後

(略)

2.事案の検討

 本件判決が、昭和47年における有価証券取引による所得が「すべてXに帰属した」と判断した理由は判示の上でどのように表されているか。そのような判示が前提としているのは、本件においてどのような事実があったということか。

(ケースブック租税法〔第6版〕150頁)

設問前段
 「すべてXに帰属した」と判断した理由は、「昭和47年における野村、大和、新日本の各証券会社との間の有価証券取引については、その個別的、具体的な取引行為自体はWがこれを担当したものであるが、これらはいずれもXの包括的な委託に基づくものであって、その取引による所得はすべてXに帰属したものと認めるべきである。」と表されている。

設問後段
 XはWに証券関係の書類や印鑑等の一切を預けたが、Xの意思としては、Wにそれらの証券を贈与したわけではないこと、実際、Xは証券会社に対して売買の指示を出していたこと、証券会社の社員がXの株券を無断使用した際はXが対処し、Xにとって有利な条件で話をまとめたこと、国税局の調査開始後Xが証券会社に対して対応の依頼を行なっていることなどの事実があったことから、上述の判示となったものと思われる。

3.所得の人的帰属の判定基準

⑴ ひとの労働から発生する所得はその労働を行った者に帰属し、資産から発生する所得はその資産の所有者に帰属する、という命題は、現在の裁判例を適切に要約したものといえるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕150頁)

労働から発生する所得について
 夫婦財産契約と所得の帰属について判示した東京地判昭和63年5月16日が参考となる。同判決は、「ある収入が誰に帰属するかという問題は、……例えば、雇用契約に基づく給料収入であれば、その雇用契約の相手方との関係において決定されるものである」と判示しており、ひとの労働から発生する所得はその労働を行った者に帰属するか否かは、雇用者と労働者との間の法律関係により決定されると考えられる。そして、労働者が労務提供の対価として受ける収入は、労働者に帰属することになるであろう。ただ、「問題は、給与所得が、単に従属的に提供された労務の対価という範囲を超えて『従業員としての地位』にもとづく給付を広く含むと解されていることから……、給与所得については、だれが『その収益を享受』しているかの判断が非常に困難な場合があるということである。」(佐藤〔第3版〕325-326頁)との指摘がある。いずれにせよ、命題としては、現在の裁判例を適切に要約しているといえそうである。

資産から発生する所得について
 「資産から生じた所得の人的帰属を判断した裁判例のほとんどは、同様に、所得を生じる資産の私法上の真実の権利者を認定し、その者に所得が帰属すると判断しています。」(佐藤〔第3版〕313-314頁)と解説されている。このため、資産から発生する所得についても資産の所有者に帰属するという命題は、現在の裁判例を適切に要約しているといえるのではないか。

⑵ 共同作業や共有物から発生する所得についてはどのように考えるべきか。§213.02 N&Q 3.参照。なお、組合をめぐる課税に関する§231.04参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕150頁)

共同作業から発生する所得について
 共同作業から発生する所得については、前問のとおり、共同作業の発注者と共同受託者との間の契約において所得の帰属を明確にすべきである。ただ、その帰属先が、作業実態と整合せず、共同受託者のうちの一部に帰属されるときは、その経済的実態を踏まえて、帰属は判断すべきではなかろうか。なお、所得税法12条は、「資産又は事業から生ずる収益」について定めており、直接、適用することはできないが、共栄企業組合事件判決では、同条の前身規定について創設的規定ではないと判断していることから、「労務から生ずる収益」についても、経済的実態を踏まえて、所得の帰属を判断することは妨げられないのではないかと思われる。

共有物から発生する所得について
 共有物から発生する所得については、前問のとおり、共有持分に応じて所得が帰属することになると考える。「たとえば、賃貸用不動産が共有されている場合には、そこから得られる不動産所得は、原則として、共有持ち分に応じてそれぞれの共有者に帰属すると考えられます。」と解説されている(佐藤〔第3版〕314頁)。加えて、「遺産共有の状態で資産が譲渡された場合には、譲渡所得は法定相続分に応じて相続人に帰属するとした裁判例があります(横浜地判H3・10・30)。」と指摘されている(佐藤〔第3版〕314頁)。ただ、実際にこれを適用しようとすると問題が生じることには注意が必要であるとされる(佐藤〔第3版〕314-315頁のCase 3-12参照)。

4.夫婦財産契約と所得の帰属

 夫婦があらかじめ夫婦財産契約を結ぶことにより、婚姻中の所得の帰属を変更することができると考えられるか(民755条以下参照)。東京地判昭和63年5月16日(判時1281号87頁。評釈、倉見智亮・百選〈第6版〉59頁(2016)、山田二郎・判評361号183頁(1989))参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕150頁)

 夫婦財産契約によって所得の帰属を変更することはできないと考える。設問引用の判決も、「ある収入が所得税法上誰に属するかは、……当該収入に係る権利が発生した段階において、その権利が相手方との関係で誰に帰属するかということによって決定されるべきものであるから、夫又は妻の一方が得る所得そのものを原始的に夫及び妻の共有とする夫婦間の合意はその意図した効果を生ずることができないものというべきである」としている。なお、この判決の控訴審判決は、「夫婦財産契約によって『第三者との間の委任契約、雇用契約又は請負契約の内容が当然に変更されるものではない』ことを強調したうえで、『所得税法は課税単位を個人として、その者の稼得した所得について所得税を課することとしているのである。X主張の夫婦財産契約がこれからの原則を変更する効果を有するものではないことは明らかであ〔る〕』とし、夫婦財産契約が個人単位主義を変更しうる効果はないことをより明確に示している。」とされる(西山由美「31 夫婦財産契約と所得の帰属」租税判例百選[第5版](有斐閣・2011年))。

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