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§234.01 事業上の損失


1.事案の検討

⑴ 本件判決(事業所得貸倒分不当利得返還請求事件)は、どのような理由を挙げてXらの請求を退けているか。

(ケースブック租税法〔第6版〕306頁)

 「その回収不能による損失額を、当該回収不能の事実が発生した年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきものとされ、これによって納税者は実質的に先の課税について救済を受けることができたのである」ことを理由として、Xらの不当利得返還請求を退けている。

⑵ 先行する取消訴訟の上告審判決が言及している昭和37年法律第44号による所得税法の改正は、§232.01判決が言及しているものと同一の改正である。§232.01判決と本件判決との結論は整合的であると考えられるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕306頁)

 雑所得貸倒分不当利得返還請求事件の判決は、雑所得については、「貸倒れによって前記の意味の課税の前提が失われるに至ったにもかかわらず、なお、課税庁が右課税処分に基づいて徴収権を行使し、あるいは、既に徴収した税額をそのまま保有できるとすることは、所得税の本質に反するばかりでなく、事業所得を構成する債権の貸倒れの場合とその他の債権の貸倒れの場合との間にいわれなき救済措置の不均衡をもたらすものというべきであって、法がかかる結果を是認しているものとはとうてい解されないのである」と判示し、事業所得と異なり、雑所得については、貸倒れ損失による過年度の税額が多くなってしまったときに、救済の途が残されていないことを問題視している。
 このため、そのような途の残されている事業所得については、不当利得返還請求を認めなかった、事業所得貸倒分不当利得返還請求事件の判決と、そのような途の残されていない雑所得については、不当利得返還請求を認めた、雑所得貸倒分不当利得返還請求事件の判決の結論は整合的であると考える。

⑶ 本件でXらは、昭和36年以降Aには事業所得がなく、債権の回収不能による損失を、その損失が発生した年分の事業所得の必要経費に算入する方法では救済されなかったと主張していた。もし、債権の回収不能が生じた年度にAが事業を廃止していたとしたら、本件はどのように考えるべきか。また、現行法はこの点についてどのように対応しているか。所得税法63条参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕307頁)

 本件判決の考え方をあてはめると、債権の回収不能が生じた年分、すなわち、廃止後の年分の必要経費に算入することとなるが、事業を廃止しているため、本件でXらの主張するのと類似した状況となり、税額の軽減を受けることができないという問題が生ずる。
 現行法の下では、事業を廃止してから債権の回収不能が生じたときは、事業を廃止した年分およびその前年分の事業所得等の必要経費に算入することが認められている(所得税法63条)。また、これに対応して、更正の請求が認められている(同法152条)。(佐藤〔第4版〕240頁)

2.現行法の理解

⑴ (略)

(ケースブック租税法〔第6版〕307頁)

⑵ ① 所得税法51条2項、同施行令141条2号と所得税法64条2項とを比較し、異同を指摘せよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕307頁)

 所得税法51条2項と同法施行令141条2号は、「保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなった」ときは、その損失の生じた日の属する年分の不動産所得、事業所得または山林所得の金額の計算上、必要経費に算入することとする。
 これに対して、所得税法64条2項は、保証債務を履行するために資産を譲渡し、「その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくないこととなった」ときは、その資産の譲渡に係る譲渡所得の計算上、回収できなかった金額は、なかったものとみなすとする。そして、同法152条は、その譲渡所得に係る確定申告を行なっていたときには、その確定申告に係る税額を減額するための更正の請求を認める。
 このため、求償権の回収不能に対応した税額の減額を認めるという点で、両規定は一致するが、その方法が異なり、前者は、回収不能の発生した年分の所得の必要経費に算入する方法をとるのに対して、後者は、譲渡所得の発生した年分の所得から控除する方法をとるのである。

② 所得税法51条2項、同施行令141条3号と所得税法152条、同施行令274条とを比較し、異同を指摘せよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕307頁)

 所得税法51条2項、同法施行令141条3号は、無効な行為あるいは取り消すことができる行為から生じた所得の減少については、その無効な行為により生じた経済的成果が失われ、あるいは、取り消すことができる行為が取り消された年分の必要経費に算入して、税額を減らす措置を設けている。
 これに対して、同法152条、同法施行令274条は、同じく、無効な行為あるいは取り消すことができる行為から生じた所得の減少については、過去に、それらの行為に起因して生じた年分の所得を、更正の請求の手続により、減らす措置を設けている。
 このため、両規定は、無効行為あるいは取り消すことができる行為から生じた所得が、後日、失われたことによる減額の調整を行う点で一致するが、その方法が異なり、前者は、経済的成果が失われた年分の所得の必要経費に算入する方法をとるのに対して、後者は、それらの行為から所得が発生した年分の所得から控除する方法をとるのである。

⑶ ⑵のような違いは、それぞれ所得のどのような性質の違いに着目して設けられているものと考えられるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕307頁)

 不動産所得、事業所得、山林所得について、所得税法51条2項の規律が採用されているが、これらの所得が、反復、継続して行われる取引活動から得られる所得であることに着目し、回収不能あるいは無効行為等による経済的成果の喪失等が発生した年分の所得の必要経費に算入する方法が採用されている。これに対して、それ以外の所得については、損失により失われた所得を減額し、いわゆる「未必の所得」に対する課税を調整する方法を採用している。(なお、佐藤〔第4版〕227頁参照)。

3.所得税法上の貸倒損失

 (略)


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