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【過去問】 事業からの所得の帰属①


1.問題

 次の各設例につき、その課税関係について論じなさい。
1.  AとBとは、夫婦で飲食店(ポップ&モム)を経営している。店舗の敷地の所有権や食品衛生法の許可などの名義は、夫Aとなっていたが、材料の仕入れについては、その時々の状況により、それぞれの名義A、Bを用いて取引を行っていた。このような場合、当該飲食店(ポップ&モム)から生ずる所得はどのように課税されるか。
2.  (略)

(司法試験サンプルテスト 平成16年第1問設問1)

2.出題趣旨

1.について
 所得の帰属について、事業所得の場合、敷地の所有権や食品衛生法の許可の名宛人という法律上の権利はどういう意味を持つのか理解しているかどうかを問う。

3.解答例

設問1
1.設問では、飲食店から生ずる所得が誰に帰属するのか問題となる。この点、所得の帰属は、原則として名義に従って決定すべきである。ただ、法律上の帰属につき、その形式(名義)と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を決めるべきことを定めたのが所得税法12条であると考える(法律的帰属説)。なぜなら、同条が「名義人」という表現を用いているからである。
2.設問の飲食店から生ずる所得は事業所得(所得税法27条1項)である。この点、資産から発生する所得については、その資産の真実の権利者に所得が帰属すると考えられる。しかし、事業所得は、自己の計算と危険のもとで事業を運営する経営主体に帰属する(農業所得帰属判定事件判決)。このため、かかる観点から飲食店の経営主体が誰であるのかを検討する。
3.まず、名義について検討する。
 食品衛生法上の許可はA名義であり、同法の行政処分の名宛人となるのはAであることから、Aの危険で事業が運営されているといえ、Aが経営主体と判断される蓋然性が高い。ただ、店舗の敷地の所有権がA名義となっているが、店舗の所有権がB名義で、Aの敷地上に借地権が設定されている可能性があり、敷地の所有権の名義からは経営主体を判断することは難しい。また、本件では、材料の仕入れについては、AとBが、その時々の状況に応じて、それぞれの名義で取引を行っている。このため、AだけではなくBの法律上の計算と危険で飲食店が経営されている可能性がある。
 したがって、本件のように親族で営まれる飲食店からの所得について、名義から判断することは難しいと考える。
4.そこで、本件のような親族で営まれる事業については、名義だけではなく、実質に着目し、飲食店事業に対して支配的影響力を有しているものを経営主体として特定する必要があると考える(歯科医院親子共同経営事件判決)。この判断にあたっては、飲食店事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合して、社会通念に従って、経営主体を特定する。
 この点、Aが敷地の所有権と食品衛生法上の許可を有していることだけでは、Aが支配的影響力を有すると判断することはできない。これ以外にも、たとえば、店舗の建設資金を出捐した者、什器備品の購入契約の名義、売上金を管理する口座の名義、AとBの飲食店事業における役割などを総合的に考慮することとなる。
 例えば、Bが店舗の建設資金を負担し、店舗の登記名義もBとなっており、B名義で什器備品の購入契約を締結しており、売上金もBの口座で管理し、飲食店のメニューの決定、従業員の採用の決定などをBが行っているような場合は、たとえ、店舗敷地の所有権と営業許可がA名義であったとしても、社会通念上、Bの計算と危険で、Bの支配的影響力のもとで飲食店が運営されていると認められる。逆に、上述したことがAによって行われているのであれば、社会通念上、Aの支配的影響力のもとで飲食店が運営されていると認められる。また、AとBが、対等の立場でこれら要素を負担しているとすれば、AとBの共同事業として、両者が経営主体と認められることもあり得る。

4.ケースブック租税法〔第6版〕との関係

 「§213.02 事業からの所得 –––––– 親子の場合」では、事業からの所得の帰属について詳しく問われている。
 まず、所得税法12条にどのように触れるのか悩んだが、名義に従って決めるのが原則であり、それだけでは決まらないときに、実質に従って決めるという方針を示すために法律的帰属説に触れてみた。その後の記述でも、同条との関係性を若干意識しながら、論述してみた。
 そして、事業からの所得については、資産からの所得(「§213.03 資産からの所得 –––––– 株式譲渡益」参照)と異なり、「経営主体」という概念の取り扱いが問題となることに、2.で触れてみたところである。
 次に、佐藤〔第3版〕315-318頁では、「経営主体」の判定について、第1段階として取引名義、第2段階として経営方針の決定に支配的影響力を有する者という基準をあげている。解答にあたっては、第1段階を、名義に従うという考え方を述べたものと捉えて、3.では名義という観点から経営主体の特定を試みてみた。しかし、親族で営む事業については、うまくいかないことを述べて、第2段階へと繋げてみた。
 そして、第2段階の支配的影響力の認定は、名義ではなく実質に着目していると前置いた上で、出題趣旨でも触れられているが、Bの事業となる可能性、Aの事業となる可能性、そして、(「§213.02」の「3.複数の事業/共同事業」で、共同事業の可能性についても問われているため)AとBの共同事業となる可能性に触れてみた。
 書き方に自信はないけれども、本件を検討することで、原則として名義(形式)で所得の帰属を決定し、名義(形式)と実質の相違のある可能性があるときは、実質に従って帰属を判定するという流れを作ってみた。


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