見出し画像

「十分」をジップンと読む理由

「十分」をジュップンと読むのが一般化していますが、これは本来ジップンと読むべきものです。その理由は、歴史的仮名遣で考えると理解できます。

「十」は現代仮名遣いではジュウですが、歴史的仮名遣ではジフと書きます。末尾の-フは、日本漢字音の元となった中古音で[-p]となることを示しています。これを入声(にっしょう)といいます。

撥音([ン]の音)を除き、日本語は全て母音で終わるので、入声音[-p]はそのままでは馴染みません。そのため、[ウ]の音を挿入して-フと記されてきました。この[ウ]の音がいつしか、元のハ行ではなくワ行の音として認識されていった(ハ行転呼といいます)のが、[ジュー]という発音が生じた経緯です。

しかし、この現象が当てはまらない場合があります。それが、無声音が後に続くときです。日本語では、カ行、サ行、タ行、パ行の音が無声音にあたります。この場合、挿入されていた[ウ]の音が外れて、促音([ッ])になります。別の言い方をすると、後ろに無声音が続くことで、日本語音に馴染ませるための母音挿入の必要がなくなり、元の入声音[-p]が保たれるかたちになるのです。

十回 ジッカイ
十銭 ジッセン
十頭 ジットウ
十分 ジップン

皆様からの尊いご寄付は、今後の執筆活動に活用させていただきます。なにとぞご支援を賜りますようお願い申し上げます。