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たくさんのサイトウさん

質問
サイトウ(「斎藤」、「斉藤」、……)という姓のサイには、なぜ複数の字体があるのでしょうか。

まず、字体そのものについては、「斎」と「齋」、「斉」と「齊」の2つのグループに分けられます。それぞれ、前者が新字体、後者が旧字体です。つまり、「斎(齋)」と「斉(齊)」は別の字なのです。

姓としては、「齋藤」が起源のようです。氏姓制度を研究した太田亮が編纂した『姓氏家系大辞典』によると、この姓は、斎宮寮(さいぐうりょう)の頭(長官)を務めた平安中期の貴族、藤原叙用が「齋藤」を名乗ったのが始まりとされています。斎宮寮とは、伊勢神宮に巫女として奉仕していた、斎宮と呼ばれる皇女の世話係のことです。「齋(斎)宮寮の藤原氏」なので「齋藤」というわけです。その後、手書きで書き崩していくうちに、異体字で後に新字体となる「斎」ができ、「齋藤」と「斎藤」の2種類の表記が併存することとなりました。

「斎(齋)」の字は「身をきよめる。ものいみする」(『全訳漢辞海』第四版)という意味です。「礼」や「祈」などの示部(しめすへん)の漢字と同様、「示」の字がある「斎(齋)」も神事や祭礼に関するものであることがわかります。

一方「斉藤」は、明治に入って姓を登録するようになったとき、「斎」を「斉」と混同したことにより生じたもののようです。さらに、「斉」の旧字体である「齊」も使用されるようになり、「齊藤」も名乗られるようになったとのことです。

もっとも、文字の成り立ちからいえば、「斎(齋)」と「斉(齊)」との間に全く関係がないわけではありません。「斉(齊)」は「稲や麦が穂を出して上が平らにととのったさま」(『全訳漢辞海』第四版)を表す象形文字で、「整ったさま」の他、「(神に供える)穀物」(同)という意味もあります。「斎(齋)」は意符の「示(神事)」と音符の「斉」を組み合わせた形声文字です。

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