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『随想録』から

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時評ブログ『随想録』https://ja.takeotamashiro.com では、政治、社会、時事、哲学を中心に記事を配信しています。
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2023年8月の記事一覧

話し言葉の血なまぐささ

話し言葉はその場で瞬時に発しなければならない上、形には残らないという性質から、語法や文法は崩れたものとなりやすい。戦前までの日本語は、文語と口語を截然と分かつことによって、書記言語が荒らされるのを防いできた。だが、明治以来の言文一致運動、表音主義に基づいた戦後の国語改革によって、話し言葉と書き言葉との区別が曖昧になり、書記言語が保ってきた語法文法の正則性が損なわれてしまった。更に、話し言葉特有の凌虐的な傾向が書き言葉に持ち込まれ、書記言語の有していた品位は堕落の一途を辿るばか

「底辺の仕事」が生まれるわけ

とある就職情報サイトが一時期掲載していた「底辺の仕事ランキング」。土木、建設、ごみ収集、介護などを名指しして、肉体労働である、誰でもできる、単純作業が多いといった特徴を挙げて「底辺」呼ばわりしたこの記事は、世間から囂々たる非難を浴びた末に削除された。 名指しされた仕事は、インフラストラクチャーを支える不可欠な仕事としてクローズアップされた「エッセンシャル・ワーカー」でもある。感染症による行動制限のさなか、この世に要らない仕事などないと我々は思い至り、「職業に貴賤なし」を再確

「私、馬鹿だからわかりません」

「私、馬鹿だからわかりません」──これを謙遜の言葉と取るのは大きな間違いである。実際はその逆で、尊大さ、他責性などを詰め込んだものだ。 そして何よりこの台詞は、相互理解を抛棄し、一切の対話を拒絶する不寛容の表れである。自らの凡庸さを棚に上げ、いやむしろその凡庸さを誇り、凡庸さを強制しさえする。それは、かつてオルテガが嫌悪した「大衆」の姿を髣髴とさせる。 記事はこちら 参考文献 ホセ・オルテガ・イ・ガセット(神吉敬三訳)『大衆の反逆』(ちくま学芸文庫)、筑摩書房、199

日本においてデモクラシーはいかに成立したか

ロバート・ダールは『ポリアーキー』で、自由化と政治参加という2つの次元を用いて、デモクラシー確立までの過程を測る指標を提供した。その正否を握るのは寛容のコンセンサスである。明治維新、藩閥政治、自由民権運動、大正デモクラシー、軍部の擡頭、そして戦後……。日本の政治が民主化に至るまでの道程を追う。 記事はこちら