AV女優・宍戸里帆のトークイベントに行った話

4月4日。この日を無事に迎えられたことを心から幸運に思う。この日は、AV女優:宍戸里帆さんのトークイベントの日だ。個人的にはイベントというものがあまり好きではなく、告知があっても大概はスルーしてしまうだが、このイベントに限っては3月3日(木)に発売された前売り券を販売開始時間の12時に即買いして、今日という日が来ることをひたすら待った。

宍戸里帆さんを知ったのは、全くの偶然だった。Twitterで上がってきたつぶやきを、たまたま目撃したのがきっかけだ。「こんな娘がデビューするのか」という驚きと、好みの見た目が相まって速攻でフォロー。いろいろ調べると、ブログも書いているということなので一通り目を通した。自らの生い立ち、AVデビューまでの経緯、撮影前後の様子、AV女優という職業への思い云々。一緒にその場に居合わせているかのような臨場感のある文章から、彼女の真っすぐな気持ちを感じ取ってますます引き込まれていった。私は期待と興奮を胸に、3月1日のデビュー当日に宍戸さんの作品を手に取った。

デビュー作は衝撃的だった。ブログやインタビューで綴った言葉に嘘がなかった。「ようやく然るべき場所に落ち着いた」「何も変えてはならない。全てが異なるために。」「ありのままの自分を認め、自分らしく生きるためにAV女優になった」。これらの言葉に代表される思いの全てをカラミにぶつけるかの如く、宍戸さんは自らを解き放ち、映像の中で躍動していた。私は言葉を失い、本来の目的も忘れて画面にかじりついた。しかし、同時に嫉妬にも似た複雑な感情が自分の中に沸き上がった。

「人って、こんなに自由になれるものなのか」

撮影されていることなどの気にも留めてないかの如く、頬を真っ赤に染めて自分の快楽の追求のためにお互いの体を貪り合うその姿に、私は同じ年の頃の自分を無意識に重ね合わせた。そして視聴を終えた後、何とも言えない寂しさが私を容赦なく襲った。

「敗北感」。デビュー作のインパクトが忘れられず、悶々とした日々を過ごす中で至った心境がこれだ。勝ち負けの問題ではないことはわかってる。しがないアラフィフのおっさんが、親子ほども年の離れた何の面識もない女の子に敵愾心を燃やすことが如何におかしなことかも重々承知しているつもりだ。しかし、私も同じように望みながら得られなかったものを、宍戸さんは20歳という若さで手にしていることに、どこか釈然としない気持ちが沸々と湧いてしまった。30年近い世代の隔たりがあるとはいえ、育ってきた環境や人間的な性質に共通点の多い自分と彼女との命運を分けたものは何なのか。その答えを探る思いで、私はイベント会場に足を運んだ。

ぎりぎりになって慌てて行動するのが嫌いな私は、いつもの如く入場時間の30分前には会場の付近に待機した。仕事の時以外は滅多にしないコンタクトレンズを装着して、イベントの開始を今か今かと待ちわびた。

イベントの幕が明け、MCによる挨拶もそこそこに宍戸さんが登場。「緊張している」とは言うものの、自分の言葉で理路整然と語る姿が印象的だった。とても楽しげに話すその様子に、こちらの頬も思わずほころんだ。趣味である映画や音楽の話などに加え、AVイベントならではの赤裸々な話もたくさんしてくれた。基本的に男好きであること、元々AV男優のような男性が好みであること、撮影ではお互いが気持ちよくなることを意識していること、等々。様々な話題が飛び交う中で、私を惹きつけたのは以下の言葉だった(記憶をたどっての文章なので、概ねの内容ということでご容赦いただきたい)

「AV女優は自分のためにやっている」「自分が得意なことを職業にしただけ」「作品の見方は人それぞれ、好きに使ってほしい」「ゆるく見られるが、心の中では常にファイティングポーズをとっている」「業界のことを知らずにこの世界に入るのは許されない」「AV業界はいろいろな意味で罪深い業界、私も罪深い人になりたい」etc.

既にブログ等で語られている言葉も含まれていたが、本人から直接発せられた声で聴くのでは説得力が違った。終始笑顔を絶やさず明るく語っていたが、一つひとつの言葉の重みや強さは私の胸に深く刻まれ続けた。

そして何よりも、この職業を選んだ意味やそれによって置かれることになった自分の立場を熟知していることにとても驚かされた。彼女が発する言葉には、迷いや虚飾が一切感じられない。揺るぎのない決意の下で自分の生きる道を確立した宍戸さんを目の当たりにしたことで、彼女に対して自分の中に生じた隔絶の感の理由がようやく飲み込めた気がした。

思えば、私のこれまでの人生は妥協の連続だった。中学生のころ、ふとした拍子に演劇の舞台を踏んだことをきっかけに役者に憧れたことがあった。しかし、両親からの反対はもちろんのこと、為り方がよくわからないという、今から考えればとんでもなく軟弱な理由であっさり諦めてしまった。大学に入ると、宍戸さんと同じようにアカデミックな世界に興味を持って大学院への進学を志したが、それも挫折し、サラリーマンという最もなりたくなかった職業に就いた。それからは、様々な理不尽や不本意を受けながら満たされぬ思いをくすぶらせる生活が続いた。そんな中、フリーランスという生き方を見つけて抜け出すことに成功し、私もようやく然るべき場所にたどりつけたと感じた。しかし、それから年月を経てまた新たな行き詰まりを感じている。それは、自分が何者で何者になりたいのかということを突き詰めてこなかったからだろう。宍戸さんは、そんな私の中途半端さを、文字どおり体を張って教えてくれた気がする。

宍戸里帆さんとの出会いは、確実に私の人生を変えた。「悔いのないように生きること」それこそが、私が今やらなくてはいけないことなのだ。だから、自分の気持ちに正直に、やりたいことを諦めずに、これからの毎日をを過ごしたい。

私の中では、宍戸里帆という女優は成功する予感しかない。しかし、どのような形で成功するのか関心が尽きない。世にアダルトビデオという存在があることを知って以来、その世界の動向を見続けてきたが、AV女優という仕事を「目標であり、人生であり、生き甲斐」とまで言い切った人を私は未だかつて聞いたことがない。彼女がAV女優という職業に人生を賭ける姿は、何か革命的なことを起こす可能性を秘めていると信じてやまない。自分を偽らない生き方を貫くことによって私たちにどんな地平を見せてくれるのか、それこそが私が彼女に寄せる期待である。だから、私はAV女優:宍戸里帆という存在をずっと追いかけ続けたいと思う。引退するその日まで。

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