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Eternal Snow -雪の女王-


  はじめに

 この作品はH.C.アンデルセンの作品『雪の女王』を独自の解釈でアレンジしたものとなります。
 基本的なストーリーの流れは原作とほぼおなじですが、登場人物の名称や設定および世界観などにはかなりの変更が加えられています。
 ご理解のうえ閲覧のほどおねがいいたします。






  序章  - 悪魔と鏡 -

 このおはなしは、性悪しょうわるな魔法使いの悪魔がおもいついた、あるイタズラから引き起こされたものがたりです。
 いまもむかしも、はるか天上の世界には大勢の神さまや天使たちがいて、わたしたちが住んでいるこの地上の世界を見守っていました。
 そんなおごそかな監視の目をおもしろくおもっていなかったのが、地上でさまざまな悪事をたくらむイタズラ好きの悪魔たちでした。
 かれらはその監視の目からのがれるため地底の世界に引きこもり、悪知恵を出し合ってどうすれば天上界の神々や天使どもを出しぬいて、地上の人間たちを苦しめることができるのか、そんなことばかり考えていたのです。
 あるとき、ひとりの悪魔がこんなことを言い出しました。
「ここに一枚の鏡がある。この鏡になにか悪い魔法をかけて、地上の世界に送り込んだら、おもしろいことにならないか?」
 もうひとりの悪魔がニヤニヤわらいながら答えます。
「そいつはなかなかゆかいな考えだ。それで、どんな魔法をかけるのだ」
「その鏡にうつったものは、どんなにうつくしいものでもみにくく、汚らしく見えてしまうというものはどうだ? さらに、うつくしくんだ心の持ち主ほど、その鏡をのぞきこんだとき、より冷酷無比な人間に変貌へんぼうしてしまうような、そんな魔法がいい」
「ふむ、わるくはない。しかし、それだけでは少し弱いな。その鏡の魔力に魅入みいられたものには、同時に強大な魔法の力をあやつる力を与えてみてはどうか? 荒んだ心をもった人間が強大な力を手にしたとき、どのようなことが起こるのか、これは見ものだぞ」
 そうしてできあがったのが、おそろしい魔法の力がこもった一枚の悪魔の鏡です。悪魔たちは人間のすがたに化けて、この鏡を地上の世界へ解き放ちました。
 いちばんはじめにこの鏡を手にしたのは、しがない古物商をやっている貧相な男でした。性格はひかえめで、金もうけなどあまり考えていない男でしたが、その鏡を手にしたとたん、人が変わったようにあくどい手段とふしぎな力をつかって荒稼ぎをするようになりました。そしてみるみるうちに財を成し、あっというまに富豪の仲間入りをはたしたかとおもうや、その名はさる高名な貴族にまでとどくようになったのは、もはや当然の成り行きというべきでありましょう。やがて一国の王族と肩をならべるまで出世した男は、そのお近づきの記念として悪魔の鏡をその国王にゆずりわたしてしてしまったのですから、さあたいへんです。
 もとは威厳いげんにあふれ、人民に対しても心優しく、たくさんの支持をあつめていた国王は、その日をさかいに卑屈な冷血漢れいけつかんへと変貌し、強大な魔力をあやつって人々の心を支配すると、つぎつぎと近隣諸国に侵略戦争をしかけるようになったのです。
 多くの血がながれ、罪のない人々がえや疫病に苦しみ、そして武力による破壊をおそれるようになりました。
 そんな地上世界の混乱を地底から観察していた悪魔たちは、ゆかいでゆかいでたまりませんでした。
 ですが、天上界の神さまたちがそのような惨状を見過ごしておくはずがありませんでした。少しおくれて異変に気がついた天使たちがこのことを報告し、これは悪魔どものしわざにちがいないと判断した神さまは、すぐさま悪魔どもをひっとらえ、ギュウとしめあげたうえですべて白状させました。
 こうして鏡の存在を知ることとなった神さまは天使たちを地上の世界へつかわし、悪魔の鏡をさがしだして回収すると、それをこなごなにくだいて二度と人々の手にわたらないようにしたのです。
 鏡の魔力にあやつられていた人たちはみんな正気にもどり、地上の世界にはふたたび安寧あんねいの時がおとずれました。
 これにてめでたしめでたし、といいたいところなのですが、これですべてが終わったわけではなかったのです。
 じつのところ、悪魔の鏡はもう一枚存在していました。
 これは悪魔たちが鏡の力を地上の世界で実験したあと、その結果がじつにうまくいったため、つぎは天上界にこの鏡を送り込んで、神さまや天使どもをこまらせてやろうとたくらんでつくった鏡でした。
 しかし、その前に悪事がばれ、痛い目にあってすっかり意気阻喪いきそそうとなってしまっていたかれらは、つぎはもっと悪質で凄惨せいさんなイタズラをして神々に復讐ふくしゅうをしてやろうとくわだてていました。
 そんなわけでもう一枚の鏡はいつのまにやら悪魔たちの念頭からすっかりわすれ去られ、天上の神さまたちもその存在に気がつかないまま、長い時間だけが過ぎてゆきました。そのあいだに、だれかが売り払ってしまったのか、あるいはそのへんに捨ててしまったのか、鏡の所在はわからなくなってしまったのです。
 ただひとつはっきり言えることは、悪魔の鏡は世界のどこかにまだ存在しており、いつまた、それがだれかの手にわたったとしてもおかしくはないということです。
 そしてこのものがたりは、ここからはじまるわけであります。





(つづく)