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56 滑液分析、滑膜生検、滑膜病理検査

Kelley 56章、Synovial Fluid Analyses, Synovial Biopsy, and Synovial Pathology 


キーポイント

・白血球数、細胞診、偏光顕微鏡、グラム染色、培養による関節液分析は、特に急性単関節炎において重要である。
・滑膜生検は、特に慢性単関節炎において重要である。
・一般に滑膜炎の病理組織学的特徴は非特異的であるが、一部の疾患は組織病変により診断できるものもある。
・免疫組織学やその他の分子生物学的手法を用いて滑膜組織を分析することにより、滑膜炎のメカニズムの理解は深まっている。

はじめに

 関節炎をきたす患者から採取した関節液および滑膜組織の分析は、診断のために重要な診断情報を提供し、リウマチ性疾患の病因およびメカニズムに関する様々な研究課題に取り組む上でも貴重である。多くの末梢関節では関節液や滑膜生検は可能であるが、最も頻繁に採取されるのは膝関節からである。本章では、関節液および滑膜組織サンプルの採取と分析に用いられる技術について述べる。

健常人の滑液

pearl:膝のような大関節の滑液は、正常でおよそ5ml以下である    

Comment:In a large joint such as the knee, the volume of synovial fluid is estimated to be less than 5 mL. 
・膝関節炎で関節穿刺をすると100cc以上抜けることはざらにありますが、正常だと5ccもないんですね。予想より少ない。
・少量の滑液により関節軟骨の表面に薄い界面を形成する。これにより関節は摩擦のない動きが実現されている。
・滑液の粘性は主に滑膜細胞から合成されるヒアルロン酸によるものである。ヒアルロン酸は高度に重合し、分子量は100万ダルトンを超える。

Myth: 滑液の成分はおおよそ血漿レベルと同等である

Reality: Most of the small-molecular-weight solutes such as O 2 , CO 2 , lactate, urea, creatinine, and glucose diffuse freely through the fenestrated endothelium of the synovium and are normally present at levels comparable with plasma levels. Evidence for active transport of glucose has been found. The total protein concentration of normal synovial fluid is 1.3 g/dL. The concentration of individual plasma proteins is inversely proportional to the molecular size, with small proteins such as albumin present at approximately 50% of plasma levels, and large proteins such as fibrinogen, macroglobulins, and immunoglobulins present at low levels.
・血漿レベルと同等なもの:O2、CO2、乳酸、BUN、Cre、グルコースなどの低分子は自由に拡散するため血漿と同レベルに存在する。
・血漿レベルより低いもの:血漿蛋白濃度は分子サイズに反比例する。アルブミンのような小さいタンパクは血漿の50%程度、フィブリノーゲン、免疫グロブリンのような大きなタンパク質はより少ない量である。総じて、滑液の総蛋白濃度は1.3g/dL程度である。

関節穿刺

Pearl: 感染が疑わしいが関節穿刺で液が引けない場合は、少量の滅菌生理食塩水を注入することにより、培養に必要な滑液をえることができる

Comment:Instillation of a small amount of sterile saline may help to obtain enough fluid for culture in situations in which infection is highly suspected, yet direct aspiration is difficult.
・関節穿刺で液が引けないときの裏技ですね。
・関節穿刺の詳細は滝澤先生の57章を参照してください。
・しっかり穿刺したければ、①局所麻酔をして太い18Gを用いる、②2.5ccぐらい小さなシリンジで穿刺する、③それでもだめなら生理食塩水を注入する、です。
・関節液評価のアルゴリズムの全体像は以下の通り。結晶(crystal)、グラム染色をまずチェックし、培養を待つ。臨床的にはすぐできるこの3つがもっとも重要で、その後白血球数を確認する。

関節液分析のアルゴリズム

関節液の見た目- Gross Examination


・粘性と透明度をチェック

非炎症性は後ろが透けて見える
https://www.med.upenn.edu/synovium/Documents/smllsynovial_fluid_ACR_for2008workshop.pdf

Pearl: 非炎症性では印刷された文字が読めるほど透明である

Comment: floridly purulent fluid will be completely opaque because of the very high number of leukocytes present, but synovial fluid that is transparent to the point at which printed text can be read through it is seen in non-inflammatory settings. 
・混濁の程度は炎症の強さと白血球濃度に依存する。
・化膿性や結晶性では完全に不透明であるが、変形性関節症などの非炎症性では印刷された文字が読めるほど透明である。たしかに上の写真だとNon-Inflammatoryの場合は後ろの線が透けて見えている。

粘性について:正常ではヒアルロン酸が含まれているため注射針から液を垂らすと、長い糸状になるほどの粘り気がある。炎症があるとヒアルロン酸は消化されるため粘性はない。
血液が混じった場合:手技による外傷の結果の場合は、血液と関節液は混ざらずに、黄色い滑液のなかに赤いスジとして血液が確認できる。血腫の場合は上の写真のBloodyのように真っ赤である。穿刺したときに血が引けて、なんと外傷か!と骨折に気づくこともある。

・白血球数の2000、5万のカットオフは有名だがはたして正常な滑液の細胞数はいくつ?

Pearl:正常な関節液の細胞数は180個mm^3以下でありそのほとんどは脱落した滑膜表層細胞である

Comment: Normal synovial fluid contains fewer than 180 nucleated cells/mm 3 , most of which originate as desquamated synovial lining cells. 

・細胞数のカットオフは200未満が正常、200-2000が非炎症性、2000<が炎症性と言われている。明確なカットオフはなく例外も多いので参考程度にしておくとよい。
・正常の関節液200未満の細胞数のほとんどは、白血球ではなく滑膜表層細胞なのだという。正常の関節液には白血球ってほとんどいないんですね。
・血算の白血球数の正常値はおよそ、3500~9000/μL、を参考に関節液の細胞数を想像してみjましょう。mm^3とμLの換算って分かりますか?
・答えは同じ、「1 mm^3 = 1 µL」です。つまり血算をイメージして、白血球数がやや低めまたは正常値ぐらい(2000<)であれば、炎症性、という肌感はどうでしょう。正常の関節液にはほとんど白血球がいないのですから。

各疾患の関節液分析の特徴

Myth: 白血球が5万を超えるのは化膿性関節炎ぐらいである

Reality: Leukocyte counts exceeding 50,000 cells/mm 3 are often seen in acute crystal-induced arthritis, particularly gout.
・白血球5万以上の場合は特に化膿性関節炎を念頭に動く必要がありますが、結晶性、特に痛風ではこのぐらいの高値はよくあります。
・文献的には、細胞数5万以上で化膿性関節炎の感度58-70%、特異度74-97%程度(PMID: 17405973)。まーこんなもんです。
同様に、白血球における多形核球の90%以上、というのも参考程度にしておく。

Pearl: 白血球における多形核球の割合が高いのは化膿性、結晶性、活動性RA、反応性関節炎、乾癬性関節炎である。

Comment: Synovial fluid samples from patients with active RA, reactive arthritis, psoriatic arthritis, and acute attacks of crystal-induced arthritis typically demonstrate a preponderance of polymorphonuclear leukocytes, although fluids from patients with early-stage RA may have a low leukocyte count with primarily mononuclear cells.
・一般に75%以上で炎症性を疑い、結晶性や化膿性のように炎症が強いと90%を超える。
・しかし、化膿性関節炎と結晶性を見分けるには役に立たない。化膿性関節炎の好中球90%<、感度54-70、特異度60-78(PMID: 21843213)。
・早期の関節リウマチや、全身性エリテマトーデスなどの膠原病、ウイルス性関節炎では単核球優位である。

Myth: 偏光顕微鏡によるピロリン酸カルシウム結晶の特定は容易である

Reality: 
・This is particularly important in the case of calcium pyrophosphate crystals, which are notoriously difficult to detect.
・Concordance between laboratories in the recognition of CPPD is substantially lower than in the case of MSU crystals. 
・ピロリン酸カルシウム結晶の検出は難しく、痛風結晶と比べても検査室間の一致度はかなり低い。
・手袋の粉やスライドの汚れなどの細胞外物質が、ピロリン酸カルシウム結晶と見間違うこともある。実際、グラム染色や偏光顕微鏡を見ていても、ピロリン酸カルシウム結晶なのかゴミなのか悩ましいこともある。
・文献を検索してみると一致率は80%程度、というデータが見つかった。プロによる研究なので現実はもう少し低いかもしれない。
The κ index of agreement with the reference standard between the observers was 0.84 for any crystal detection, 0.93 for MSU crystal sample identification, and 0.79 for CPPD crystal sample identification
Ann Rheum Dis . 2005 Apr;64(4):612-5. 

Pearl: 痛風結晶は非発作の場合でも検出される

Comment: Urate crystals have been detected in synovial fluid between attacks of gout.
・痛風発作のとき結晶量は多く、痛風発作が収まり始めると大幅に結晶量は減少する。ただ、非発作期でも結晶を認めることはある、らしい。

Myth: 結晶性関節炎を引き起こすのは痛風結晶とピロリン酸カルシウム結晶の2つである

Reality: 
・Deposits of hydroxyapatite or basic calcium phosphate are present within the joint and in periarticular locations such as around the shoulder area and are associated with osteoarthritis. 
・Synovial cholesterol crystals appear as flat, plate-like structures with notched corners ( Fig. 56.5 ), and lipid crystals have the appearance of Maltese crosses. Both can be strongly birefringent, both negatively and positively. Corticosteroid crystals can be highly birefringent and mimic urate or CPPD crystals. 

・ハイドロキシアパタイトや塩基性リン酸カルシウム、ミルウォーキーショルダー(ミルウォーキー肩関節症候群)を代表とした変形性関節症と関連した結晶である。
・seronegative RAと言われている肩の慢性単関節炎の高齢女性をたまにみますが、そんな臨床像です。これらの結晶は非屈折性なので偏光顕微鏡では検出できません。
・他、滑膜コレステロール結晶や、副腎皮質ステロイド結晶など、いろいろあります。ステロイドを打っている関節で見られるステロイド結晶は屈折率が強く、痛風結晶やピロリン酸カルシウム結晶と似ることもあるようです。

Myth: 化膿性関節炎のグラム染色の感度は低い

Reality:  The gold standard for diagnosing septic arthritis is still bacteriologic culture, which has a sensitivity of 75% to 95% and a specificity of 90% in cases of nongonococcal septic arthritis. 

・感度も特異度も高いです。淋菌性関節炎の感度が低いので、化膿性関節炎のグラム染色の感度は50%とされてしまいますが、通常の非淋菌性関節炎、いわゆる化膿性関節炎のグラム染色は75-95%と、かなり高いです。淋菌ではほとんど見ません。というよりも培養でも10%未満ですので、見えるわけがない。淋菌はPCRを提出します。

Pearl: 化膿性関節炎を疑ったら穿刺液は血培ボトルで提出する

Reality: The use of blood culture bottles further increases the yield of positive synovial cultures.
・胸水や髄液などの穿刺液全般に言えることです。

Myth: 関節液のリウマトイド因子、抗核抗体、補体検査は膠原病の診断に有用である

Reality: In particular, RA synovial fluids may be positive for rheumatoid factor even when serum is not, and complement levels are typically low as a result of consumption by immune complexes. These findings are not sufficiently sensitive or specific to be of value on a routine clinical basis.
・診断のための関節液のリウマトイド因子、抗核抗体、補体は研究はされているが、感度も特異度も不十分である。
・RAではリウマトイド因子が血清で陰性でも関節液で陽性になることもあり、補体レベルは低い。
・調べてみるとRA患者の関節液の抗CCP抗体のデータもたくさんあるようですが、やはり血清データと比例して上がるみたいですね。

血清と関節液の抗CCP抗体は比例してる
https://link.springer.com/content/pdf/10.4103/err.err_5_17.pdf

Pearl: 滑膜生検の組織で結晶を評価するためには、結晶を溶かすホルマリン固定ではなく、エタノール固定をすべきである。

Comment: Formalin fixation dissolves crystals, and if this is a diagnostic consideration, the specimen should be fixed in ethanol.
・エタノール固定だと長期間ピロリン酸結晶や痛風結晶が見られるようです。臨床的に結晶を見たい場合はエタノールで固定をしましょう。

Myth: 滑膜生検の病理組織学的評価は非常に診断的で特異的である。

Reality: The histopathologic interpretation of synovial biopsy specimens is often nondiagnostic and lacks specificity.
・単関節炎においても多関節炎においても滑膜の組織評価は非特異的です。特に多関節炎で滑膜生検が必要なることはあまりないです。
・慢性単関節炎の術後で関節リウマチ疑いと紹介を受けることがあります。結論としては滑膜増殖とリンパ球浸潤は慢性炎症を示唆するだけであり、鑑別を絞ることができないため、関節リウマチかどうかは組織以外で評価することになります。未治療であれば慢性単関節炎でRAを疑うことはありません。
・慢性単関節炎でもっとも重要なのは感染症の除外です。一般培養検査、抗酸菌培養検査を出します。慢性感染症として、抗酸菌感染症、真菌関節炎、スピロヘータ(ライム、梅毒)などがあります。肉芽腫が目立つのは結核以外にはサルコイドーシス、腫瘍も分かるかもしれません。結晶はエタノール固定、大事なことは怒涛の反復。

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