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118 骨と関節の結核感染症

kelley​​118章、Mycobacterial Infections of Bones and Joints- 骨と関節のマイコバクテリア感染症

ここでは結核だけ取り上げます

・結核の世界的罹患率は、症例発見の改善と治療の拡大により近年低下しているが、抗結核薬に対する耐性は依然として脅威である。リウマチ専門医は、TNF阻害剤やその他の生物学的製剤の使用が拡大する時代においても、結核疾患には注意すべきである。
・筋骨格系結核(Musculoskeletal tuberculosis )は慢性の限局的な感染症で、脊椎に感染することが最も多い。稀に股関節や膝など他の関節にも感染することはある。
・マイコバクテリアを含む感染が除外されていない場合、亜急性の関節炎や腱鞘炎への局所および全身のステロイド治療は注意すべきである。
・筋骨格系結核の診断は非常に難しく、多くの場合、骨や滑膜の病理検体と培養のための生検を必要とする。PCRは有効である。
・ツベルクリンテスト(The tuberculin skin test: TST)は、TNF阻害剤による治療前に潜在性結核をチェックするのに有用であるが、偽陽性や偽陰性がある。IGRA(インターフェロン(IFN)-γ放出アッセイ)は、TSTと同様に高感度で特異的であると思われるが、TSTより高価であり、TST同様に偽陽性と偽陰性の可能性は残る。
・非結核性抗酸菌も、生物学的療法を行う上で注意すべき重要な病原体である。

キーポイント

はじめに

・結核をはじめとする筋骨格系のマイコバクテリア感染症は、米国をはじめとする先進国のリウマチ医にとって大きな課題である。1999年以前は、ほとんどのリウマチ専門医は、マイコバクテリア感染症の症例を1例も診ることなく過ごすことができた。
・しかし、1999年に米国でTNF阻害薬が導入され、結核感染は予想外に増加した。その後、ツベルクリン反応(TST)とインターフェロン(IFN)-γ放出測定法(IGRA)によるスクリーニングが開始されたことにより、結核の再活性化は激減した
・結核以外のマイコバクテリア感染症では、スクリーニング検査がないため、免疫抑制療法中の警戒はより重要である。
・マイコバクテリア感染の増加を促すもう一つの大きな力は、HIVの流行である。抗レトロウイルス療法以前の時代には、米国では肺外結核の21%がHIV感染症であった。発展途上国では、HIVの流行によって骨関節結核が増加している。これらの症例は、血行性伝播、急速な進行、肺感染との併存が多い。 
・そのため結核菌患者にたいしてのHIV検査はルーティーンですべきである。
・効果的な抗レトロウイルス療法が導入されて以来、米国ではHIV患者の結核および非結核性抗酸菌(NTM)感染の合併は激減している。
・結核は先進国では珍しい病気である。米国では1990年以降、結核の罹患率は着実に減少しており、現在では結核患者の大部分は輸入結核(外国生まれの人に発症した結核)と考えられている。 世界的には、結核は依然として世界で最も死亡率の高い感染症の一つである。 2017年には推定1,000万人が結核を発症し、160万人がこの病気で死亡した。世界中で結核は10番目に多い死因であり、単一の感染症による死因としてはHIV/AIDSをも上回る第一位である。
世界人口の約4分の1にあたる17億人が結核に潜在感染している。 さらに多剤耐性結核(MDR-TB)と広範囲薬剤耐性結核(XDR-TB)の増加は大きな問題である。
・世界経済のグローバリゼーションは、先進国と発展途上国の人々の接触を促進している。結核の流行地域から米国への移民は、現在も潜在結核患者が増えている理由になっている。
筋骨格系マイコバクテリア感染症の診断の難しさは、その疾患の希少性だけではない。症状は緩徐進行性で疼痛、発熱、悪寒、その他の顕著な症状を伴わないことがある。さらに、一般培養では菌が分離されないため、最初からマイコバクテリア感染の診断を考慮しなければ、診断が見落とされる
・このような理由から、21世紀のリウマチ専門医は、経験の浅い疾患群についても十分な知識を持つ必要がある。

結核低蔓延国になった日本

・日本の結核の疫学を調べるとゆるやかに減っている。
・2021年に人口10万人当たりの結核届出率は9.2となり、結核り患率(新登録結核患者数を人口10万対率で表したもの)10.0未満とされる結核低まん延の水準を達成した。
・年齢別のデータは以下の通り。結核の多くは高齢者だが、若い人も稀にいる。

https://jata.or.jp/rit/rj/412-03.pdf

バイオをいれる再活性化が怖い我々としては、結核既感染の割合は知りたいところ。こんなところを見つけた。

・年齢別結核既感染率
青なので、50歳以下は5%以下ぐらい、65歳ぐらいで10%、85歳で50%.....なんと、超高齢者の半分が既感染。もちろん治療を完遂している方も含めてだとは思うが、やはり要注意。

https://jata-ekigaku.jp/wp-content/uploads/2021/10/arc_kikansen.pdf

・結核の発病の病態は、多くが潜在性結核から再活性化されたもの。生物学的製剤やプレドニン20mg<がリスクということは注意しているがマクロな視点のデータも知っておきたい。

潜在性結核感染症治療指針

・AはLTBIは治療適応、これをみるとレントゲンの未治療の陳旧性結核病変の方がTNF阻害薬よりリスクが高いことがわかる。吸入ステロイドをやっている喫煙者は要注意。胃切除あたりも押さえておきたいところ。

Direct Involvement of the Musculoskeletal System- 筋骨格系への直接的関与

Pearl: 筋骨格系結核感染は、ほとんどの場合、数ヵ月、数年、数十年前に血行性に骨や関節に播種された感染が再活性化したものである。

Comment: Musculoskeletal TB infections almost always represent reactivation of infection acquired months, years, or decades earlier, which had hematogenously seeded bones and joints.
・筋骨格系の結核感染は骨、脊椎、末梢関節、軟部組織に、慢性経過で限局性の病変として発現する。
・ほとんどの場合、数ヵ月、数年、数十年前に血行性に骨や関節に播種された感染が再活性化したものである。
・つまり、かなり肺からの筋骨格に血行性に飛んでいた結核菌が、再活性化されたものが、筋骨格系結核である。
・診断は数ヵ月から数年遅れるほど難しいのだが、その理由のひとつは、初期症状が軽いために検査・つまり生検の閾値をなかなかこえないことにある。

Myth: 筋骨格系結核感染はしばしば熱や寝汗を生じ、炎症反応も上昇する。

Reality: Constitutional symptoms are typically subtle or absent, and laboratory indicators of inflammation are often normal. 
全身症状は軽いかほとんどないケースも多く、しばしば炎症反応は上昇しない。発熱、寝汗、体重減少は稀である
・関節液の貯留もごくわずかであることが多く、滑液が得られたとしても非特異的な炎症を示す。

Myth: 筋骨格系結核感染の多くは肺病変を認める

Reality: Characteristic pulmonary or extrapulmonary findings are not always present; for example, less than 50% of osteoarticular TB presents with evidence of active or past pulmonary disease.
・結核を疑う肺所見や肺外所見が常に存在するわけではない。活動性または過去の肺疾患を疑う病変があるのは、骨関節結核の50%未満である。
・ツ反やIGRAは手がかりにはなるが、特に衰弱した患者や免疫抑制状態の患者では陽性率は下がる。HIVとの重複感染はよくある。特にHIVの肺外結核の割合は多く、通常の16%に対してHIV患者は60-70%が肺外結核である。
・診断は病理学的診断ならびに組織培養に大きく依存する。

Pearl: 筋骨格系の結核で最も多いのは脊椎である。

Comment: The clinical patterns of musculoskeletal TB include spondylitis, osteomyelitis, peripheral joint infection, and soft-tissue abscess. In a series of 230 consecutive cases of TB from the pre-antibiotic era, 5.2% had skeletal involvement; the spine was affected in 60% of these cases. 
・つまり脊椎カリエス
・筋骨格系結核の臨床パターンには、脊椎炎、骨髄炎、末梢関節感染、軟部組織膿瘍などがある。結核の治療がなかった時代の結核230例では、5.2%に骨格病変がみられ、このうち60%が脊椎であった。つまり結核の3%が脊椎カリエスという計算になる。

Pearl: プレドニン15mg以上を2-4週以上使用するとツベルクリン反応は著名に減弱させる

Am J Respir Crit Care Med 2000;161(4 Pt 2):S221‒47. PMID:10764341

Kelleyのツ反の偽陰性の原因
・Increased age (>70 yr)
・Steroid use (prednisone ≥15 mg/day)
・Hypoalbuminemia (<2 g/dL)
・Azotemia
・Impaired cellular immunity
・HIV infection
・Other debilitating diseases

プレドニン15mg以上を2-4週以上使用するとツベルクリン反応は著名に減弱させる、それ未満の量では問題なかったというデータが、プレドニン15mgを4週間以上使うと細胞性免疫障害が生じる、と言われる所以である。20mg以上4週間と言われることもあるが...

Pearl: 結核性脊椎炎で、頚椎病変は稀である

Comment: Cervical spine involvement is relatively rare, accounting for only 0.4% to 1.2% of cases of extrapulmonary TB in the United States. Bone Joint Lett J 2014; 96-B: pp. 1366-1369.

左 T2, 右 T1

 ・筋骨格系の結核の50~60%は脊椎にくる。HIV患者の脊椎カリエスの48%から67%が下部胸椎および胸腰椎であり、腰椎がもっとも多い。
・感染は通常、椎間板に隣接する単一の椎骨の前部から始まる。進行は2〜5ヶ月の期間にわたり、海綿骨から皮質骨へ拡がり、その後椎間板空間を越えて隣接する椎骨へと進む・
骨破壊は椎骨の崩壊を引き起こし、通常は前方に発生し、亀背変形をもたらす。神経弓の関与や脊髄内膿瘍も発生することがある。

病変部位のパターン:
1. 椎体に局在
2. まれに骨や靭帯の後方構造に局在することも
3.  椎間板や、
4 椎体前部組織への進展はよくある
5 靭帯の下方向へ進展すると前椎体表面が侵される

・麻痺または対麻痺は1-27%で生じる。

Pearl: 結核性脊椎炎の鑑別は化膿性および真菌性骨髄炎、原発性および転移性腫瘍、サルコイドーシス、多発性骨髄腫、好酸球性肉芽腫である

Comment: The differential diagnosis, which is extensive, includes pyogenic and fungal osteomyelitis, primary and metastatic tumors, sarcoidosis, multiple myeloma, and eosinophilic granuloma.

・診断は物をとるまで分かりません。結核なのか真菌なのかサルコイドーシスなのか。

Myth: 骨生検の培養で診断はつく

Reality: Mycobacterial colony counts in bone biopsy specimens are relatively low. Only 40% of smears and cultures from psoas abscesses are positive. 

・骨生検標本の結核のコロニー数は少なく、ある大腿骨の骨生検のデータでは40%のみが培養陽性であった。
・別のデータでは結核を疑う臨床的・レントゲンの基準を満たした患者のうち、73%~82%で組織学的特徴をみとめ、そのうち80%~95%で培養陽性だった。

Pearl: 骨標本における結核PCRの感度は高く、診断確定までの期間も早い。

Comment: Experience with direct amplification tests in spinal TB is encouraging. In a series of 319 cases of spinal TB from China, the GeneXpert nucleic acid amplification assay demonstrated a sensitivity of 85.2% and specificity of 100%. In a series of 69 patients with spinal TB from South Africa, the GeneXpert nucleic acid amplification assay demonstrated a sensitivity of 95.6% and specificity of 96.2% and reduced the time from biopsy to confirmation of the diagnosis from 35 days for culture to 48 hours. 
・PCRのデータはとてもよい。
・中国の結核性脊椎炎のデータでは、PCRの感度は85.2%、特異度は100%であった。 
・南アフリカのデータ(69人)では、PCRの感度95.6%、特異度96.2%。診断確定までの期間は培養は35日であったが、PCRは48時間だった
・結核は増速速度が遅く、1個の菌が2個になるのに15時間程度かかるので、培養陽性までは1-2ヶ月かかるんですよね。のんびーり、のんびーり。

Pearl: 大腸菌増殖速度は結核菌のおおよそ45倍

・だからPCR大事。大腸菌は20分で2倍、結核は15時間で2倍。誰かに伝えたくなる豆知識。

Pearl: 結核性骨髄炎(Tuberculous Osteomyelitis)では、大腿骨と脛骨がもっとも多い

Comment: Although any bone can be involved, the femur and tibia are most commonly affected. 

レントゲンとMRI(Coronal T1 C+)

・骨髄炎は血行性の感染で生じる。骨幹部病変が一般的で、大腿骨と脛骨がもっとも多い。
・病変は破壊的溶解性病変は悪性腫瘍と誤診されることがある。
・X線では、約50%で隣接する薄い硬化層を伴う空洞形成がみられ、時にsequestrumを含む。症状が乏しいため骨病変の範囲を特定するのは難しい。テクネシウム99シンチは感度は高いが、偽陰性もありうる。ツ反は80%で陽性になる。
・1986年の121例ケースシーリーズでは、生検培養は33%陽性、乾酪性肉芽腫などの結核特異的な組織学的特徴が46%に認められた。乾酪性肉芽腫と培養両方認めたのはわずかに21%。

Pearl: 結核性関節炎は股関節や膝関節などの大関節を侵す単関節炎であり、その他の関節にはあまり認めない

comment: The typical pattern of tuberculous joint involvement is a monoarticular arthritis involving the large joints, most commonly the hip and knee. Other joints less commonly involved include the sacroiliac, shoulder, elbow, ankle, carpal, and tarsal joints. Infection begins in the synovium,
結核性関節炎の典型例は大関節(最も一般的なのは股関節と膝関節)を侵す単関節炎である。その他の関節、仙腸関節、肩関節、肘関節、足関節、手根関節、足根関節などの病変はあまりみられない。
・破壊制だが化膿性と比して、進行はゆっくりである。
・結核性関節炎の診断はしばしば見逃される。診断までの期間の中央値は8ヵ月であった。J Rheumatol. 1986 Feb;13(1):187-9.

Pearl 結核性関節炎の滑液培養の感度は高い

Reality:  The diagnosis may be facilitated if the organism is observed on an acid-fast smear of synovial fluid, but only 10% to 20% of reported cases are positive. In contrast, synovial fluid cultures are frequently positive. 

・滑液の抗酸菌塗抹検査の感度は10%から20%であるが、関節液の培養はしばしば陽性である。
・滑膜生検では(開放生検法)では、90%以上の症例で肉芽腫性の組織学的特徴と結核培養は陽性となる。
肉芽腫性滑膜炎の鑑別:非結核性抗酸菌症、サルコイドーシス、結節性紅斑、ブルセラ症、クローン病、異物反応

治療中の結核の出現、Emergence of Tuberculosis During Treatment of Rheumatic Diseases

Pearl: エタネルセプトはインフリキシマブよりも結核再活性化のリスクは低い可能性がある

Comment: Etanercept may be associated with a lower risk for TB reactivation than infliximab: 10 cases per 100,000 person-years of exposure with etanercept, versus 41 per 100,000 person-years with infliximab, according to an analysis of Food and Drug Administration (FDA) data. Similarly, British and French registries have identified a greater risk for TB associated with the use of adalimumab and infliximab than with etanercept. 

・TNFは結核菌の封じ込めるための肉芽腫の形成と安定化に重要な役割を果たしているため、TNF阻害薬により結核の再活性化が生じる。
・エタネルセプトはインフリキシマブよりも結核再活性化のリスクが低い可能性がある。
・FDAのデータ解析によると、エタネルセプトでは10万人年当たり10例であったのに対し、インフリキシマブでは10万人年当たり41例であった。Clin Infect Dis. 2004 Aug 1;39(3):295-9.
・同様に、イギリスとフランスのデータでも、アダリムマブとインフリキシマブの使用に関連する結核のリスクは、エタネルセプトよりも高いことが確認されている。Ann Rheum Dis 2010; 69: pp. 522-528.,  Arthritis Rheum 2009; 60: pp. 1884-1894.
・発症1/4という、エタネルセプトは少し安全かも、と言われる根拠の一つである。
・これらより新しいTNF阻害薬はデータ不足。

Pearl: 非TNF生物学的製剤の結核再活性化リスクは極めて低い( quite low.)

Comment: Non-TNF biologic agents have been associated with TB infection, although most of these cases occur in regions with endemic disease. Despite labeling recommendations for screening prior to therapy, cumulative clinical trial and post-marketing data suggest that the risk of reactivation is quite low.
非TNF生物学的製剤も潜在性結核感染症のスクリーニングと治療はするが、臨床試験および市販後の累積データから、再活性化のリスクは極めて低いことが示唆されている。Mediators Inflamm. 2017:2017:8909834.
・おそらくTNF阻害以外の生物学的製剤は、細胞内生物に関連する宿主防御に密接に関与しないため結核の再活性化のリスクが低いと考えられている。
・動物実験では、アバタセプトはマウスの結核菌に対する反応能力を損なわないことが分かっているが、人間のデータは存在しない
リツキシマブによる治療後に結核のリスクは増加しない。J Rheumatol Suppl. 2014 May:91:56-64.
・トファシチニブで結核を発症した症例があるが、そのほとんどは結核流行地域であった。結核罹患率の低いまたは中程度の地域ではまれであった。
・ステロイドの使用も結核感染のリスクである。イギリスのデータではステロイド使用は結核リスクの5倍となり、低用量の7.5mg/日でもリスクとなった(Arthritis Rheum. 2006 Feb 15;55(1):19-26.)が、フランスのデータでは10mg/日以上のプレドニゾンは結核リスクは上がったが、それ以下では関連はなかった。

Pearl: TNF阻害薬開始後の結核の再活性化は通常6ヶ月以内に起こり、しばしば肺外結核である

Comment: Reactivation of TB in the face of TNF inhibitor therapy typically occurs within 6 months of treatment and often manifests as extrapulmonary disease. 
TNF阻害薬治療に直面した結核の再活性化は、通常、治療後6ヵ月以内に起こり、しばしば肺外結核である。透析後にTBが多いこと、HIVで肺外結核が多いことを思いだす。
・潜在性結核感染(LTBI)のスクリーニングと治療を行うことで結核の発病が78%減少した。 Arthritis Rheum. 2005 Jun;52(6):1766-72.
・潜在性結核のアプローチは標準化されていないが、一般にはツ反またはIGRA陽性で、胸部レントゲンが正常で、結核治療を受けたことがない患者では、TNF阻害薬を開始する少なくとも1-2か月前から治療を行う。
・レジメン:イソニアジド9ヵ月、リファンピン4ヵ月、またはイソニアジド+リファペンチン3ヵ月。
・CDCではRFPレジメンおしなのだが、これはINHの肝障害リスクが高いことが理由とされている。しかし遺伝的な問題で日本人は比較的INHの肝障害が起きないため、依然としてINH6ヶ月が第一選択になっているという。
https://www.cdc.gov/tb/topic/treatment/ltbi.htm

ツベルクリン反応

Pearl: BCGを打っていても、ツベルクリン反応が20mm以上になることは稀である。TNF阻害薬投与前であれば硬結5mm以上でも陽性と推定すべきである。

Comment: Nevertheless, a TST result of 20 mm or greater is rarely the result of BCG.  In addition, if faced with a high-risk situation, such as the initiation of TNF inhibitor therapy, one should probably make a presumption of LTBI even if the diameter of induration measures as little as 5 mm.

結核学会より、pearlの通り硬結(induration)20mm以上であればBCG+でもツ反陽性と考え治療を行う。

・ツベルクリンとは正式には精製蛋白誘導体(PPD)というタンパク質で、結核菌の抗原を粗く混ぜたものである。偽陽性と偽陰性の両方の結果に悩まされ、潜伏感染と活動性疾患を区別することができず、さらには重症の活動性結核では陰性となることがある。
・ステロイド(プレドニゾン15mg/日以上)は、潜伏結核患者ではツ反を陰性にすることがある。さらには高齢者や栄養不良の患者でも偽陰性をきたすことがある。
・非結核性抗酸菌症やBCGワクチン接種歴(日本人の9割)がある場合にも偽陽性が生じることがあるため、日本ではツ反の解釈は悩ましい。
・BCGワクチン接種患者でも、ツ反陽性率は時間とともに低下する。しかしBCG接種後15年も経過しても反応を維持する患者もいる。とはいえ、20mm以上のTST結果がBCGの結果であることはまれである。
・さらに、TNF阻害剤治療の開始など、リスクの高い状況に直面した場合、硬結の直径が5mm程度であっても、おそらくLTBIと推定すべきである。まー実際は、なかなか皆さんツ反はやっていないように思います。うちはT-Spotです。

Myth: ツベルクリン反応で硬結5mmとすれば潜在性結核のスクリーニングとしては十分である

Comment: The important message for rheumatologists is that the TST is an important but imperfect screening tool for latent TB infection, with a sensitivity and specificity in the range of 70%. A negative TST should not eliminate the clinician’s vigilance in monitoring patients treated with TNF inhibitors for reactivated or new-onset TB, especially in high-risk populations.

・潜在性結核にたいする感度と特異度は70%程度であるため、ツ反は重要ではあるが不完全な潜在性結核感染のスクリーニング手段である。ツ反が陰性であっても、TNF阻害薬による治療を受けている患者、特に高リスク集団において、再活性化または新たに発症した結核に対するモニタリングをすべきである。

IGRA(インターフェロンγ遊離試験)

Pearl: IGRAは同一被験者において異なった結果を出すことがある

Comment: Within-subject result variability is an issue, especially when the TB antigen response is near the cut-off value.
Am J Respir Crit Care Med. 2013 Jan 15;187(2):206-11.

・IGRAはT細胞を用いた新しい検査法で、特定の結核菌抗原で刺激された全血単核球によるIFN-γの産生を測定する。
・QuantiFERON-TB Gold Plus (QFT-Plus) やT-SPOT.TBを含むIGRAは、ツ反と比較した場合、同等以上の感度とより高い特異性を有する
・IGRAはまた検査解釈のために患者が48~72時間後に再来院する必要のあるツ反と比べて簡便である。
・そのため多くの施設でLTBI(潜在性結核)のルーチンスクリーニングにおいて、ツ反の代わりに行われている
・IGRAの問題点もある。IGRAは1.2-28.6%で不合格結果を出す。特に結核抗原反応がカットオフ値付近の場合、一人の患者においても結果のばらつきが生じる。ばらつきが生じる他の原因としては、試薬のばらつき、血液量、血液チューブを静かに振ったか激しく振ったか、処理の遅れなどがある。
・おそらくここの不合格とは、「判定不可/不能」のことをいっていると思う。「判定不可」と似ているものとして、「判定保留がある」。
判定保留とは:陽性と陰性の中間値。この場合は再検査を行うが、再び判定保留の場合は、LTBIの治療をするか医師の総合的な判断に委ねられる。
判定不能:患者側で何らかの免疫応答低下が見られる時や不適切な検体の取り扱いで検査不能となる。他の診断方法、T-spotだったらQFTやツ反を試みる。

・IGRA陽性は、ツ反陽性よりも結核リスクは高い、と書いてあるがそういえばどのぐらいのリスクなのだろうか。
・IGRA陽性で結核を発病するpooled PPV(陽性的中率)は 1.32-2.7%。Chest 142 : 63-75, 2012, Thorax 71 : 652-658, 2016
ここにTNF阻害薬などのリスクによって陽性率は変わってくる、そういうことか。

・IGRA陰性・ツ反陽性はBCGワクチン接種疑い、IGRA陽性ツ反陰性はステロイドによる影響、を示唆していることがある。
・とはいえ、IGRAまたはTSTのいずれかが陽性であった患者は、LTBIの可能性があれば治療を考慮すべきである。 

NG: 潜在性結核を届け出なしで治療をする

Reality: LTBIと診断した場合は、 改正感染症法第12条第1項による届出を行う必要があります。公費負担が受けられず揉めることもあります。法的にも公衆衛生上も問題です。届け出ることによって患者は公費負担と、治療の継続性と適切な管理が得られます。

・治療といえば興味深いデータがある。潜在接結核感染症治療のNNT25。1人の発症を防ぐのに25人治療が必要。下の図は、それに加えて、結核暴露→潜在性結核感染症→晩期発症、の割合が分かる。

医学のあゆみ Vol. 280 No. 6 2022. 2. 5

Pearl: IGRAはTNF阻害薬を受けている患者において新規の結核感染を評価するためのモニターとしての価値がある

Comment: IGRAs have also been studied in patients receiving a TNF inhibitor to identify newly acquired TB infection. 
・IGRAは、TNF阻害薬を投与されている患者において、新規の結核感染を評価するためにも使用されている。
・特に結核蔓延国では、TNF阻害薬による治療を受けている患者に対して、毎年IGRAをモニタリングすることを推奨している。最初に書いた通り、日本はもう蔓延国ではないのでモニタリングなし、でいいのだろうか。実際モニタリングしているとかあまり聞かないし、やっていない。
・治療中の結核のルーチンモニタリングはおそらく年1回ぐらいが賢明である。ツ反ではなくIGRAを使用することで、予防的治療を必要とする患者数を制限できる可能性がある。
・これは医師でも有用で、結核暴露の可能性があった場合、IGRAが陽転化している場合は、感染したと考えることができる。


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