見出し画像

Joanne Reeve のジェネラリズムの触り

Facebookではいま、Joanne Reeveの「Medical Generalism, Now! 」で盛り上がっている。英語で読んだぜと、ドヤ顔したくなるような、そんなジェネラリストの心を擽る、我々を正当化させてくれる、控えめに言ってモンスター級の名著だといっていい、とまだ全体的な拾い読みと、一章最後までの精読の段階だがそう確信させてくれる。

ジェネラリズムとは何か。私の実体験としては、学生時代にココキンを一緒に書いた、人生会議の名付け親である紅谷先生から、患者中心の医療の「かきかえ」を教えてもらった。その後、亀田ファミリークリニックの岡田先生から家庭医の初歩を少し聞いて、あとは独学でいろいろ学んできた。Ikigai-BPS、ポジティブヘルスなどを得て、やはりBは大事で、PもSも大事だと思っている。Pは精神科/心療内科の本を読んできていてその奥深さにいまだ処理できていない情報や概念が多い。超急性期病院にいるのでSは苦手意識がある。

亀田の岡田先生スライド

BPSのBについては、佐藤健太先生が「慢性臓器障害の診かた、考え方」のなかで、ジェネラリストはどういうものなのか、総合診療科の専門性についてかなり踏み込んだ議論をしていて、これもとても勉強になった。慢性臓器障害と老年症候群をまずは極めろと。

さてここで、化け物級のJ Reeveが総論を再定義する。Medical Generalism, Now!のPreface、序章に、医学生の時期からEBMの限界を感じで、一度医学生をやめようと1年フェードアウトし、その後、医師になりさらにEBMの医療の課題に再度直面し、その後20年、ジェネラリズムとは何か、ひたすら考え、臨床や研究に打ち込んできた、と。年季が違う。

Pubmed でJ Reeveを調べると、驚くべき論文の量。文字ばかりのMedical Generalism, Now!を最初から読むのは辛いので、まずは彼の過去論文とその参考文献を読み漁ってみた。読んでみると当たり前だが、論文にまとめられていることが本にそのまま載っているところが多数あった。

短いreviewはこんな感じ

ソフト・スキルではなくテーラーメイド・ケア

患者中心の医療とは何かと誰かに尋ねると、彼らは一般的に、いわゆる「ソフト・スキル」、つまりコミュニケーション、共感、関係性に基づくケアの重要性を説明する。確かにこれらは重要である。研究や臨床経験から、人間関係の治療的価値は確認されている。しかし、ある患者から私は改めて考えさせられた。ヘレンは乳がんで死期が迫っていた彼女は妻であり、母であり、会社員でもある多忙な女性だった。末期がんは彼女の日常生活を一変させた。ヘレンは、臨床チームとの関係をどれほど大切にしているかを感動的に語った。彼らの共感、ケア、そして彼女の病気が『がん以上のもの』であることへの理解が、かけがえのないパーソナルケアを生み出した。しかし彼女は、同じ専門家たちが個人的なケアを個人的な医療に反映させることに失敗したことを批判した。彼女は、専門家たちが臨床的な決定に対して『エビデンスに基づいた』正当性を繰り返し提示するが、明らかにその人に合ったアプローチを作ることができない(あるいはする気がない)と話した。そのため、ヘレンは「ベルトコンベアーから抜け出せない」と感じていた。
ヘレンの話は、個人的なケア、つまりソフトスキルは重要だが、不十分であることを浮き彫りにしている。患者中心の医療には、疾患ガイドラインを超えた個別化されたケア、つまり「ソフト」ではない実践モデルも必要なのだ。しかし、同じ臨床医が、職場がそのような働き方を妨げているとも言う。ですから、文脈についても考える必要があります。

この文章は第一章にそのまま引用されている。
・患者中心の医療はジェネラリストにとって非常に重要であるが、別に専売特許なのではなく、患者中心の医療はスペシャリストにとっても重要なこと。つまり当たり前のこと。
・さらに、患者中心の医療で、ソフトパワー、つまり共感力やコミュニケーション能力が強調されるが、それは必要ではあるが、本当の患者中心の医療の実践では十分ではない。ソフトパワーが得意でも優しいやぶ医者では残念でしょ。
・ジェネラリズムとはもっと知的なプロフェッショナルであり、ソフトパワーは使いつつ、EBMも有用性と限界を把握して、その上で患者の立場に立って何が患者にとっていいかを一緒に考えることができる知識労働のエキスパートであると。

このようなクリエイティブなことができるようなジェネラリストを我々は育成していかなければいけない、のだと。こんなことを書いていないで早く2章読めよと言われそうなので、2章を読んでから寝ます。

Generalism, Now! ハードカバーも買って置いておきたくなる、そんな本です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?