あなたは今幸せですか?私たちは幸福な<if>を憎み、取り憑かれていく。「ドクター・ストレンジMOM」ネタバレなし感想

 ※ワンダビジョン未見のものの感想です。

 MCUフェイズ4はどこに主軸をおかれていくのか、様々な予想がかわされたけど、ディズニーマーベルは少なくともそのうちの一つに「マルチバース」があったと思う。それはクロスオーバーが容易になり色んな話の展開をさせやすいといった側面もあるだろうけど、少なくとも今作はそのマルチバースという題材によって今日的なテーマ(主にメタバース)とのリンクが描かれていた。

 今の世の中は、まだまだ完璧ではないにしろ、安全で豊かな方向へ進んでいる。技術が進化し、みんなの基本的な生活インフラは整えられ、安全と社会性は保たれ、マズローのいうところの「承認欲求」や「自己実現の欲求」を意識するところまで届きやすくなった。しかし御存知の通り、今はそれが人との関わりにおいていざこざを引き寄せている。フェーズ4は、サノス以後の火種を描かないといけないわけだが、その一つとして説得力があった。

 ふいに尋ねられる「今幸せですか?」という問い。他人と比べてしまうと永遠に幸せになれないというが、その対象が自身のイフの世界にまで及んだら手がつけられない。自分が手に入らなかった幸せを別の世界線の自分が手に入れていたとしたら、自分は生き方を誤ってしまったからこうなっていたのだろうか?「もし」を始めたらその魔力には抗えない。

 今、人生のやり直しとまでは行かなくとも、その追体験をできるようになりつつある。SNSで名前を変えて得た人とのつながり、これは30年くらい前までは考えられなかった手軽なリスタートだ。しかしこれは、自分に様々な可能性があることを「突きつけて」くる。もっと良い人生があったはずと耳元でささやくようになったのだ。映画のようにもしマルチバースを覗き込むことができるようになったら、見せつけられる幸せなifに無感情でいられるだろうか。

 そして今後更に本格化していく「メタバース」はそういう側面を持っている。人の感情を学習しきったAIと、VRで見る景色が、別の人生を見せつけてくる。それどころか、仮想空間の進歩によっては別の人生が手に入るようのなるかもしれないのだ。

 ゆえにメタバースは今後間違いなく世界を席巻していくと言われている。シビルウォー冒頭でやっていたように、VRは本当のやり直しではなくとも、音と映像がリアルであればあるほど体験者の人生にはケアになる、これは本当だと思う。

 望んだことが手に入らなくても、一度切り、やり直しの利かないことで割り切れた人生なのに、それに抗う術が人類に与えられたら、それを成すための犠牲は、映画で描かれたこととは少しちがうとは思うが、世の中はきっと歪になっていくのではないか。そんな予見を示唆する作品だと思う。

 以下その他の感想

 基本的に延々やばい方向へ話が進み、一向に一息つけないのだが、翻って見てる間ずっと面白かった。

映像は大満足。やや前半にバジェットが偏ってる気もするが、後半はライミのホラーテイストビジュアルで色んな意味で楽しめる。
 
 MCUほかマーベルキャラクターの消化のされ方についてはショッキングではあるが、キャラクターの保護に熱心すぎても求心力に影響が出るので、難しいところである。
 


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