メイク2[パープルマスカラ]

からんからん。
今日はお気に入りの喫茶店。
最近は何人かよくわかんない外国の人が接客してる。
かたいカラメルプリンに、真緑のメロンソーダ。あかいナポリタンに、薄いきつねいろのホットケーキ。
入り口に入ってすぐの食品サンプルを横目に、さっさと階段を降りていつもの席に座る。
今日はプリンとコーヒーにしよ。
『すみません、プリンと、ホットコーヒー。』
一生懸命、カタカナでプリン、コーヒーと書いてる女の子が片言の日本語で、アリガトゴザイマスという。
ちらっと顔を見たら笑顔はピカイチだ。イイネ。
待ってる間、小説を読む。
いま読んでるのは『平凡』
何となしに読むのにちょうどいい短編が連なってる。
だいぶ涼しくなって、夜はあったかくしないと風邪を引きそうな季節になった。
秋の気配に合わせて、メイクもしっとりしたものになる。
今日はアクセントにパープルのマスカラをつけてみた。
よくみないとわからないくらいのちょっとしたアソビ。
ハロウィンも近いし、なんとなく、パープルが欲しいかなって。
マスカラのほかはいつもどおり。ブラウンのアイシャドー。落ち着いた色のリップにつけてるか分からないほどのチーク。薄いブラウンのアイブロー。
ホットコーヒーが先に来る。
海みたいな深い藍色のカップに入って、見た目だけでも心を潤してくれる。
口に近づけると強い香りが鼻いっぱいに入り込んでくる。
香りだけでおなかいっぱいになりそう。
からんからん。
1人、入ってきた。この時間はお客が少ないから少し目立つ。
長身で綺麗なコートをスマートに着こなす紳士なお兄さん。
若い人は珍しいから余計に目立つ。
目が合った。
こんなときに恋が始まるのかしら。
なんて、恋愛漫画みたいなこと考えて、小説にまた目を通す。
プリンです。
やっときた。
かたいのが昔ながらっぽくてお気に入りのこの喫茶のプリン。
スプーンを入れるとサラサラのカラメルが流れていって、少しだけもったいない気持ちになる。
ぱくり。
思わず笑顔になった。
コーヒーをごくり。
おいし。
また小説を読みながら大事に大事に、プリンをたべる。
例のお兄さんは私の右後ろの席に座ったらしい。
恋はなかなか始まらない。
こんな簡単に始まったら誰も困らないか。
ぼーっとしたり、本を読んだり、プリンを食べたり、コーヒーを飲んだり、店に流れる音楽を聞いたり、じーっと飾りのランプを眺めたり。
『あのー』
きたーーーー!恋!
顔をあげたらやっぱりあのお兄さん。
『ここのプリンって美味しい?』
は?
『いや、おいしそうに食べてるなーと思って。』
ナンパ、慣れてそう。
『席、一緒に良いかな?』
あ、慣れてるわ。
『どうぞ、お好きに』
『ありがと』
目の前のお兄さんはメニューを広げる。入店してからしばらく経つのに頼んでなかったのかしら。
結構長い間、メニューを見つめてる。一枚ペラでそんな多くないんだけどな。
顔を見てたら目が合って思わず逸らす。
『プリン、食べます?』
なにいってんだろ。知らない人に。
『あ、じゃあいただきますひとくち』
お前も何いただいてるんだよ。
『あ、スプーン、、、』
『あ、、、もう俺も頼んじゃうわプリン。なんか、申し訳ないし』
フッ。
思わず笑う。
良い年したかっこいいコートきた大人が。
意外と居心地いいじゃん。
『よくこのお店いらっしゃるんですか?』 なんで向こうから話しかけてこないんだろ。
『あぁ、常連だよ。あなたは?』
『わたしもプリンを食べによく来ます。』
『じゃあまた会うかもね』
プリンです。
2個目のプリンがくる。
『ん、うまいな。甘すぎなくて』
独り言みたいなこといってたべるお兄さん。
このナンパヤロー、ちょっと変だ。
あっという間にプリンを食べ終わる。
わたしはその間、構いなく小説を読む。
『おいしかった。ありがとう。お邪魔したから払わせて』
『あ、どうも』
あっという間に食べて、あっという間に出ていった。
いつかまた、会うかな?また会ってもたぶん、連絡先は交換しないだろうな。
コーヒーがまだあと半分くらい残ってるけど、先にプリンを食べた。
やっぱりおいし。

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