偏差値60以上が話題になっているので調べてみた

Xにポストされた「日本国民全員が偏差値60以上になれば、この国はもっと変わると思う。」というのが大きな話題を呼んでいます。
このポストについて、さまざまな角度からの意見が飛び交っていますが、特に偏差値に対する誤解を浮き彫りにしているように感じました。

そこで、この機会にもう一度、偏差値とは何か、全員が60以上になることがあるのかを考えてみたいと思います。

当該ポストには以下のようなコミュニティノートが付けられていました。
『偏差値とは、全体の平均値を50として、全体の中でどれくらいの位置にいるのかを表した値であり、対象集団全員が60になることはありません。』


しかし、これで偏差値が「わかった!」という人は、よほどの天才ではないかと思います。この文章から考えられるのは、
・全体の平均値を50にする(これは、そういうものなのかな?)
・全体の中でどれくらいの位置にいるのかを表した値(どうやって表すの?)
・対象集団全体が60になることはありません(平均値が50なのだから、それはそうだろう)


私が理解できないのは、偏差値が「全体の中でどれくらいの位置にいるのかを表した値」だという部分でした。
この部分をもう少し掘り下げてみます。そうすると、「平均値を50、標準偏差を10として調整される」というものが出てきます。これでもまだ珍紛漢紛です。しかし、ここで止まらずにもう少し解きほぐしてみましょう。

そこで、偏差値の式を見てみました。偏差値は以下の式で求められます。
偏差値=10 × ((個人のスコア - 平均スコア)/標準偏差) + 50

ここで、(個人のスコア - 平均スコア)は『偏差』を表します。偏差とは「平均からどのくらい離れているか」のことです。
仮に個人のスコアが平均点と同じだった場合、偏差はゼロになります。

この偏差を標準偏差で割った((個人のスコア - 平均スコア)/標準偏差)の部分は何を意味しているのでしょうか。
この部分は『標準化スコア』と呼ばれるものです。標準化スコアとは、ある偏差が標準偏差の何倍に当たるかを意味します。

では、標準偏差は何を意味しているのでしょうか。標準偏差は、対象集団のそれぞれの偏差を二乗したものの平均値の平方根です。
偏差を二乗するのは、偏差が必ず正の値を取るようにする操作です。これにより平均値との差の大きさのみを評価することができます。
ここで困るのは、この「二乗する」という操作です。例えば、身長のデータを扱う場合、単位はメートル [m]ですが、二乗しているので単位は平方メートル [m^2]になります。これでは、集団内の身長のばらつきが、面積で表されることになります。そこで、平方根を取って単位をメートル [m]に戻すわけです。

つまり、標準偏差とは対象集団において基準となる偏差を意味します。このため、偏差を標準偏差で割った標準化スコアは、ある偏差が基準の何倍であるかを意味することになります。

さて、偏差値の式に戻りましょう。式をよくみると、標準化スコアに10をかけてあります。これは一体なんでしょうか。
これには、標準偏差を10単位にする意味があります。標準化スコアは標準偏差で割ったものなので、標準偏差が1になっています。これにより、小さな差も明確に区別できるようになります。

また、最後に50を足していますが、これは、平均を50にするという操作です。標準化スコアの平均はゼロになります。つまり、これも50が標準であることにするとわかりやすいので、50を足して、標準化スコアの平均を50にするわけです。
ですので、平均点を取った場合には偏差値は50になるわけです。

結局、偏差値とは平均からの距離が基準の何倍であるかを表したものです。成績が平均点と同じ点数であった場合には、偏差値は50になります。集団内の平均が基準となりますので、集団内のみんなが偏差値60を超えることは理論上あり得ないということになります。

偏差値は集団内での相対的な位置付けをするための値であり、教育や評価の場面で適切に扱う必要があります。特に集団内での値であることに注意が必要です。異なる集団間での偏差値を比較することは無意味であることを考える必要もあるでしょう。

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