【昭和講談】高座前の掛合⑤ タケノコ、春なのに伸びず

 ここは名古屋大須の商店街、その一つ筋を入ったところにございます、喫茶「せせらぎ」。
 毎度まいどの、講談師・錦秋亭渓鯉と作者・タケ田タケノコとの二人だけの定例会議でございます。
 
「……と、そんな感じなんですが、どうでしょう」
「ん、大体分かったがや。今回は、吉本の名物会長だがね」
「それを言っちゃうと…、個人名ではないですけど、丸わかりじゃないですか」
「何を言っとるんだて」
「いえ、こちらの都合です。今回は、吉本興業の宣伝戦略みたいなものです」
 
「宣伝戦略とは、大げさだがね」
「そうかも知れませんが、昭和に入って、ラジオに対して、どう接するかを決断したのは、演芸界にとって、一つ着目すべきことの様に思うんですよ」
「それは、ラジオが始まったから、偶然そうなっただけじゃないんかて」
 
「そうかも知れません。でも、ラジオと新しい演目で、一気に躍り出た。それだけでなく、安い小屋を作ったのも大きい。それら含めて、やっぱりこの人の功績は、紹介するだけのものはあると思いますよ」
「もちろん、これだけの人だから、功績やエピソードは面白いものがあるがね。だから、それを最大限、面白く書き切っとるんか、と聞いとるんだがね」
「それは、演者の腕次第ということで…」
「何言うとるんだて!」
 
 相も変わらず、ワイワイ賑やかにやっておりますと、タケ田が思いついた顔で切り出します。
 
「そういえば、師匠。私、ツイッター始めたんですよ。知ってます? ツイッター」
「それくらい知っとるがね。SNSだがね」
「あ、知ってたんですね。師匠はやらないんですか?」
「やらすか、あんなもん」
「何でですか。やりましょうよ。フォロワーの数を競う『フォロワー合戦』しましょうよ」
「何だて『フォロワー合戦』て。おみゃーさんは、フォロワーはどんくらいだがね」
「14人です…」
 
「それでフォロワー合戦て…、そんなもん『目くそ、鼻くそを笑う』だて」
「何すか、それ?」
「しょうもないもん同士が争っとることだがね」
「言い得て妙ですね」
「何言っとるか!」
 
「何で、今更ツイッターなんて始めたんだがね」
「この『昭和講談』の宣伝になるかと思ったからですよ」
「それで宣伝になったんかて」
「30人くらいスレッドを見てくれたみたいなんですけど」
「やらんよりはええかも知れんが、先は遠いがね」
「この講談のためにやっているんですから、もうちょっと労わって下さいよ。まあでも、ツイッターでは圧倒されっぱなしですよ」
「何がだがね」
 
「ツイッターやっている人の芸能に対する知識量が半端ないんですよ。一つの外題に対する理解力とか、系譜とか、歴史とか、もう本当にビビりっぱなしですよ」
「それは、本職の人もやっとるんかね」
「もちろん、いらっしゃいますよ。でも、それ以外の方でもすごいんですよ。こちらの書いたもので、間違いなんか指摘されましたよ」
「他の人も、読んどるんかね」
「ええ、『昭和講談』の書いたものをアップしているんです。それで、『ここは嘘』、って指摘されまして」
「よく読んでくれたがね」
 
「本当にそうですよ。よくぞ読んでくれて指摘してくれました、って思いますよ。だから、『ありがとうございます』って返しました」
「向こうは何て言ってたんだがね」
「『まあ、虚構として読めば…』と書かれてまして。心底ホッとしましたよ。講談として随分脚色してますからね。でも、どこまで史実に忠実であるべきか、どうかは悩みますね」
「講談は嘘でもええがね。ただし、やるからには面白くしないとあかんがね。みゃーさんのはそういう余裕とか、面白くするために外すとかがないからあかんのだがね」
「頑張って書いているんですから、もう少し労わって下さいよ」
 
 そんな話をしておりますと、タケ田タケノコ神妙な顔つきになった。
 
「でも、ツイッターをやって、自分の知識とか考え方が中途半端なんだと改めて思い知らされましたよ。ちょっと凹みますね」
「いまさら何を言うとるんだて」
「いやあ、ですが師匠。これだけやっても、コメントはやっとお一人だけですよ」
「そういうことを目的にやってたらもたんがね。有名になりたいとか、そんなことを考えとるからだて」
「でも、続けるにはお金も必要ですよ」
 
 なんとか食い下がろうとするタケ田でございますが、錦秋亭渓鯉はその腹の中を見透かしております。
 
「そう思うならバイトでもしたらええんだがね。今やってることが楽しいと、意義のあることだと信じられんから、おみゃーさんは勝手に落ち込んどるだけだがね」
「えええ…、何で怒られてるんですか、私」
「怒られてるじゃないがね。結局おみゃーさんが迷っとるだけだがね。それが悪いとは言わんがね。でも、迷いながら書いていて、読む人を喜ばせるものなんて書けんがね」
「うー、『頑張れ』って言われるかなと期待したのに」
「そんなこと言うか! …でも、まあそういうのは誰でも、幾つになってもあるもんだて。時間ぐすりで、乗り越えたらええがね」
「師匠…」
「なんだて」
「それをもっと早く言って…」
「うるさいて!」
 
 さて、色々と煩悶するタケ田タケノコでございますが、錦秋亭渓鯉はそれをカバーし、果たして高座で昇華できるのか、次回の「昭和講談」も、どうぞ一度高覧賜ります様、そう、お願い申し上げて、終わりとさせて頂きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?