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EV初学の一歩

初めてのEV(電気自動車)ドライブ体験のあと、EVについてしっかり勉強しようと思いましたが、差し当たってどんな文献にあたったら良いか分からず、本屋でたくさん売っていたこの本を読んでみました。
いろいろなことが書いてありましたが、その中で2つの論点に絞って話を進めます。

論点1 バッテリー温度管理機構

EVの基礎的知識もない私にとって、まずはこの本で初めて知った「バッテリー温度管理機構」という仕組みに興味を感じました。文字通りバッテリーの温度を管理する機能なのですが、EVに使われるバッテリーはリチウムイオン電池です。スマートフォンなどにも多用されるリチウムイオン電池の弱点は低温環境です。つまり、寒冷地での使用に適さないのです。
北海道や東北のような寒冷地、氷点下10℃以下といった環境で電欠、いわゆるバッテリー切れを起こしたら、移動できないどころか、暖房も利用できずに凍傷、下手すれば命の危険すらあります。そんなことでは、EVは暖地でしか利用できません。
ところが、世界でEVが最も売れているのが寒冷地であるノルウェーなのです。近年の新車販売台数の約8割がEV。他にも要因があったところで、リチウムイオン電池の欠点を克服しなければ普及などおぼつかないと思われます。
そこで「バッテリー温度管理機構」です。温度が低下すればバッテリーを適温まで温めます。逆に温度が上がりすぎたら冷却が行われます。これで寒冷地でもバッテリーの温度を保ち、EVが正常に動作するようになるというものです。
2022年末の大雪で、ネットでは「EVは大雪では使えない」ということで”EV叩き”をする人がいました。特に「ネトウヨ」と呼ばれる人たちに、EVで先端を進む外国、殊に中国への嫌悪からなのか、”EV叩き”を繰り返していた人が多数見られました。
私はそれらを見ていた時に、「いずれ寒冷地に強いEV技術が登場するはず」だと思っていました。しかし、既に「バッテリー温度管理機構」という形で実現していたとは知らず、良い勉強になりました。
もっとも、まだ技術的な未熟さなどはあるのかもしれません。しかし、この本の筆者が実際にEVで厳寒期の北海道をドライブすることに成功しています。この検証も含めて、ノルウェーでのEV普及やネットでの電欠問題に対する”EV叩き”について、以前から疑問に思っていたことの回答を得られた感じがしています。

論点2 日本における急速充電施設の脆弱ぶり

さて、日本のEVがいまや世界で「2周遅れ」とまで言われていますが、実はある時期まで日本はEVにおいて最先端を進んでいました。古くは1940年代後半、日本が敗戦の混乱にある時代に「たま電気自動車」というメーカーがありました。のちにEV開発を諦め「プリンス自動車」と改名、グロリア、スカイラインという名車を開発したのち、日産自動車に事実上の吸収合併をされます。その日産は半世紀以上の時を経て「リーフ」を開発します。
EVで最も重要な部品と言えるバッテリーについても、日本メーカーが先陣を走っていました。その後の欧米、中韓勢に追い越され凋落していくさまについては割愛します。
たしかに技術面でも大幅に遅れをとった日本勢ですが、技術で遅れを取り戻し世界の先端を再び走ることが不可能とも言い切れないとは思います。
より深刻なのは、日本国内のおけるEV関係インフラの脆弱ぶりです。これは、技術の問題よりもむしろ、費用面や国家政策的な問題であろうと思われます。
EVは家庭でも設備さえあれば、資格がなくても充電作業が行えるという長所がある反面、まだ全般的に内燃車(ガソリン、ディーゼル)よりも航続距離が短く、頻繁な充電が必要になります。この点でも改善は進んでおり、航続距離500km以上という内燃車並みのものも登場しています。
ですが、日本の至る所にある急速充電施設が低出力のものがほとんどで、主にテスラなどの輸入高性能EVに充分な充電ができる施設が少ないのです。
例えば、WLTCモードで航続距離450kmとされる日産「リーフ」は60kwhのバッテリーを搭載しているため、日本で最大出力とされる90kwの急速充電器であれば40分程度で充電できることになります。ところが、日本の急速充電器の多くは40kwで、満充電には90分程度かかることになります。もっとも、車両自体も最大で100kwでの充電しか受け入れられませんので、内燃車のように5分以内で終わることありません。
よって、高出力の充電設備だけではダメなのですが、それでも低出力の急速充電施設しかないようでは、高い充電性能の輸入車ですら充電には時間がかかってしまいます。そして、日本で広く用いられている急速充電の規格ですら「チャデモ(CHAdeMO)」という、高性能輸入車が本来持つ充電性能に及ばない性能なのです。そのために日本仕様車は充電スペックを「チャデモ」に合わせてグレードダウンするということまで行われています。
充電施設の整備がEVメーカー主導ではないために、推進にもメーカーの意見が反映されていないという指摘があります。
今の日本では、輸入車でも最大級のパフォーマンスが発揮できる充電規格へのシフトと高出力充電設備の拡充が最優先で求められていると言えましょう。この本の筆者も同様の指摘をしています。
実は、EVメーカーだけの努力ではどうにもなることではないと思います。
EVの普及によって大量の電力需要が生じます。現在の日本では、東日本大震災以降、原子力発電に対して抑制的な運用がされています。岸田政権が原子力発電の拡充を打ち出していますが、反対意見もまだ根強いものがあります。しかも、EVが普及した場合における日本全体の電力需要と供給のシミュレーションすら行われておらず、EV化を安易に進められない状況であるともいえます。
政府や与野党の議員が、日本全体のエネルギー政策を決めていく中で、EVと関連インフラを含めた総合的な議論をしていこうという流れにならなければ、日本のEVシフトは苦しく辛いものになるでしょう。

国家戦略にEVを積極的に取り込むべきでは?

国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット」の開発に日本政府は約500億円の公的支援をしたといわれています。また、愛知県も100億円くらいの支援をしたとされています。この予算をEVに廻すということができなかったのか悔やまれてなりません。旅客機の開発はもはや1国で賄えるものではありません。米国企業であるボーイングですら、新型旅客機の開発には多国籍で当たっており、主要部品の一部は日本企業が開発に参加しています。
しかし、EVは自国だけで開発を進められるものであり、国際競争力という意味でもEV関係の研究開発に公的資金を投与する方が国益にかなうものだったのではないでしょうか。そして、エネルギー問題や交通の問題としても考えると、国家戦略として重要な課題であるはずです。
もちろん、政府だけで強引に進められるものではありません。特にトヨタ自動車をはじめとする世界の内燃自動車業界をリードしてきた日本企業は、事業転換の困難さもあってか慎重にならざるをえない状況も考えられます。

それに加えて、先の述べた2つの論点にあるとおり、国民多数のEVに対する理解が得られていないことがあります。EVに関する知識が浸透していないための”EV叩き”が横行したり、逆にSDGsや環境問題といったパワーワードに結びつけるだけの安易な”EV推し”にしかなっていない意見も見受けられます。ゆえに、急速充電施設の脆弱さに象徴されるEV関連インフラの整備の遅れに結びつき、日本のEVが周回遅れになる負のスパイラルが生み出されかねない状況です。

しかし、官民共に消極的な姿勢が続けば、ますます日本の国際競争力を衰えさせることもなります。国家戦略にEVを積極的に取り込むことを願ってやみません。


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