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MILLION THE@TER OF THE DEAD セルフライナーノーツ

はじめに

1年前の2021年11月23日、歌姫庭園29にて、たけの初の同人誌『MILLION THE@TER OF THE DEAD』(以下、『MTD』)を頒布しました。

この記事では、MTD頒布1周年を記念して、当時の同人誌制作の様子を振り返ったり、要所要所でどんなこだわりを持って描いたかを解説したりしていきます。

「1 制作の様子」までは思い出を綴っているだけなので、誰でも読める内容になっています。
「2 作品解説」以降は、MTDを全て読んだ人向けに書いているので、ネタバレを容赦なく含みます。また、暴力的・ショッキングな表現が多少含まれます。まだ読んでいない方、苦手な方は読むのを控えることをおすすめいたします。

1 制作の様子

きっかけ ~Circumstances~


そもそもMTDとはどんな同人誌なのか。
簡単に言うと、
"ソーシャルリズムゲーム『アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズ』(以下、ミリシタ)の世界でゾンビ災害が発生したら"という妄想を150ページ以上に渡って漫画にしたもの
という、頭のおかしい同人誌です。

筆者はミリシタを2019年8月から開始し、MTD執筆当時で約2年ほど継続してプレイしていました。
元々漫画家志望で、社会人になってから漫画もずっと描いていましたが、普段描いているのは基本的に面白おかしい4コマとかばかりで、ゾンビ漫画みたいなシリアスで4コマじゃない漫画とかは、学生時代の落書き以外に描いたことがありませんでした。

しかし、実は元々ゾンビものの作品が大好きで、中学生時代は「星のカービィ」や「らき☆すた」の世界でゾンビ災害が発生したらという二次小説を1人でWordに書き殴っていたし、高校生になると、受験勉強そっちのけで「けいおん!」のゾンビ小説を携帯(当時まだガラケーでした)のメモ帳に書いては友達に送り付けるということもやっていました(二部作に及びました)。
さらにそれ以外にも、一次創作のゾンビ小説を3本くらい書いていたこともあります。
要するに、ゾンビもののゲーム、漫画、映画が大好きで、そういったものを摂取しまくり、それによって生じた創作意欲は小説を書くことで発散しているという状態がずーっと続いていたわけです。
※この記事の小見出しに~~で英単語を挟んだ副題をつけるのも、ゲーム「THE HOUSE OF THE DEAD」シリーズのオマージュです。

さて、そんな人間でございますから、当然ミリシタを始めてしばらく経ってからは、暇さえあれば頭の中はミリシタゾンビワールドになっていました。
あの映画のあのシーンをミリシタキャラで再現するなら誰にするかな~とか、ミリシタでゾンビ物描くなら入りはどういう風で、どこで誰がどう犠牲になって、最後はどうなって―――考え出したら止まりません。特に映画を再現する妄想に関しては未だによくやります。楽しいです。
普段描いているのは4コマだけど、時間が経てば経つほど頭の中で勝手にミリシタ×ゾンビ漫画の構想が出来上がっていってしまう……という状態でした。

しかし、いざ本腰を入れて漫画を描こうとしたのなら、その作画カロリーは計り知れないものになるというのもよく分かっていました。実際需要がそんなにあるジャンルでもないだろうし、4コマのネタを消費するのに精一杯で、あまり反応ももらえなさそうなゾンビ漫画を本気で描いている余裕も体力もないだろうと(CG集という形で少しでも作画カロリーを減らして形にできないかとも考えましたが、後述の理由によりそれもしませんでした)。

制作開始 ~Beginning~

MTDの制作を本格的にスタートしたのは、頒布した2021年の5月頃だったかと記憶しています。
ミリシタの方は7th Reburnで、富士急コラボやライブなど大盛り上がりしていた時期でした。筆者もライブ2日目に参加し、富士急コラボも堪能して、心からエンジョイしていました。

それと同時に、創作の方では悩んでいる時期でもありました。
2020年にミリシタアイドル52人+事務員キャラの誕生日お祝いイラストや漫画を1年間投稿し、2021年も形を変えてお祝い漫画とかを描き続けていたのですが、あくまでも夢は漫画家です。二次創作ばかりではいけないと、同年3月、久しぶりに4コマ8ページを描いて出版社にオンライン持込というものをしました(のちにツイッターに上げた、「にくきゅーぷにぷに」という焼き肉屋漫画です)。
当然というか、出版社の人の反応はいまいち。自分は足りないものばかりなんだということを痛感し、1週間ほど何もできない程度にはダメージを負いました("先が見えない、ネタが古い"などと同時に、"雑誌に載ってても違和感はないが"という、数年前の自分では絶対有り得ないフォローも頂けていたのに、落ち込むことしかできませんでした)。

その状態で次の誕生日漫画を描こうとしたとき、ふと「こんなことやってる場合じゃないのでは…?」という考えが頭をよぎったのです。
52人+αのキャラ全員分の誕生日お祝い漫画を、毎年ずっと描き続けていたら、それだけで俺の人生は終わってしまうのではないか、それをし続けたところでクリエイターとしての俺に成長はないのではないか、と。

そして悩んだ末、一旦惰性で漫画を描くのをやめて、1つ何か、漫画で成し遂げようという気持ちになり、誕生日漫画の制作をやめ、人の反応より自分と向き合わねばとツイッターからも少し距離を置き、ついにMTDの制作を本格的にスタートしたのです。

作業の日々 ~Work~

漫画の制作は基本以下のようなプロセスを踏みます。

・ネームを描く
・下描きを描く
・ペン入れをする
・仕上げをする

とにかく話の全体像が固まらないことには文字通り話にならないということで(うまいね)、早速ネームに取り掛かりました。流れはほぼ頭の中で決まっていたので、それを少しずつ描ける形にしていきます。
正直、ネームが50ページぐらいになったあたりで音を上げそうになりました。まだ終わりが見えない状態で、もう今まで描いたことのないページ数になっているという事実に押しつぶされそうになりました(確か1回ツイッターで悲鳴を上げました)。

それでも何とかネームが終わり、この時点で既に1か月が経過。
さて、本来ならここから下描き、と行くところだったのですが、ネームが描き終わって、「もっかいこんなにたくさん下描きするの…?メンドクサイ……」という気持ちに負け、”これも1つのトレーニングだ”と言い聞かせ、ネームからそのままペン入れに移行することに決めました。

完成を急ぐスタンスになったのは、心境の変化もあります。というのも、ページ数がページ数なので、最初は配信での販売しか予定していなかったのですが、「このページ数を本で印刷したら、結構いい存在感の成果物になるな…」とか、「同人誌即売会に出展してみたい」という気持ちが芽生え、ちゃんと本として作り、年内中のどこかで頒布するということに決めたからです。
そして、「このペースで開催されているなら10月末~11月頃にもう1回あるだろう」とアタリをつけた歌姫庭園に狙いを定めていました。

となると、時間はあまりありません。ネームが終わった時点で確か6月末、ページ数が多いだけに、のんびりしていては年を越してしまうことも考えられました。

ネームから直接ペン入れするにしても、あまり絵のクオリティにこだわりすぎていてはいつまで経っても完成しないぞということで、絵のクオリティは二の次で、とにかく自分で決めた制作スケジュールを絶対守ると心に決めてペン入れに取り掛かりました。

具体的にどんなスケジュールでペン入れを進めていたのかというと、
・仕事がある平日…3ページ
・休日…10ページ

このペースで毎日描き続けていました。
ただ、休日10ページはとにかくしんどくて、何とか長時間作業できるよう、ミリシタのロコの中の人こと中村温姫さんが月1でやっていた生配信のアーカイブを聴きながらとか、アニマスの時期にやっていたラジオ番組「iM@STUDIO」のラジオCDを聴きながらとかで、心を無にしてひたすら描いていました。
また、モチベーションを保ち続けるため、カレンダーに「制作ペースを守ったらこの日には○ページまで終わる」というのを書き、それを遅らせたくないという気持ちを自分の中で無理矢理生かし続けました。

この頃、漫画以外では、平日は毎日軽く筋トレしていたし、コロナの影響もあって休日はほとんど誰とも遊ばずに作業していたので、人生で最もストイックな1か月間だったと思います。
ただ、作業に集中できるようツイッターをあまり見ない時期にもなったので、精神的には無駄に疲弊せずに済みました。

完成 ~Completion~

ペン入れは1か月半ほどで終了しました。
自分へのご褒美に食べた焼き肉は大変に美味しかったです。

そして、ついに仕上げの段階です。
「これが終われば、ついに人生初の同人誌が完成する」と、勇んで取り掛かったのですが、実際に作業を開始して、仕上げはペン入れより時間がかかるということが分かりました。

最初はペン入れと同じペースで進めていき、9月末に完成を目指していたのですが、それをする場合、想定よりもさらにクオリティを下げなければならないということに気付き、そうすると、肝心のゾンビの作画や、グロシーンの作画のクオリティが落ちてしまう、ゾンビ漫画としてそれだけは避けたいということで、仕上げは制作ペースを落とし、クオリティ重視で行くことに決めました。

実際、その頃には歌姫庭園の開催案内も出ていて、その開催日が11月23日で、思っていたよりゆっくりでも大丈夫ということが分かったのもあって、仕上げはどちらかというとのんびりめに進めていくことができました(もちろんそれはペン入れを死に物狂いで終わらせたおかげですが)。

具体的な制作ペースは、平日は変わらず、休日に進めるのを3ページか4ページ、つまり平日と同じくらいの量にして無理しないことに決め、余った体力でまた4コマなど普通の平和な漫画や落書きも少しずつ再開していきました。いくらゾンビ好きとはいえ、ずっと辛気臭い話を描き続けていると、やはり楽しい漫画も描きたくなるんですね。

そうして、10月中頃、ついに全てのページの仕上げが終わり、その後の細かな作業も終わって、10月末に入稿、11月初旬には人生で初めての同人誌が手元に届くこととなったわけです。
自分で描いた漫画がちゃんと紙に印刷されて本になっているのを、ページをめくりながら確認したあの時の感動は忘れられません。

ちなみにこの入稿の時期が、別でラッパーとして作っていた初めてのミニアルバムのデータ入稿の時期と丸かぶりしたため、神経を使う作業を2つ同時に行ってものすごく疲れました。また自分を労うために銭湯と焼肉に行きました。

初出展 ~Display~

そうしてポスターも印刷したり、事前にツイッターで宣伝したりしながら、ついに11月23日当日を迎えました。

同人誌即売会には一般参加もしたことがなく、完全に初めての空間で、事前に調査するのも忘れてたので、机にクロスを敷いたりとかお洒落な装飾はゼロの簡素なスペースとなりました。

初出展だし、相場もよく分からないし、いくらページ数が多くても1,000円では手を出しづらいかもしれないと思い、1冊700円で挑んだ即売会。

結果としては大成功だったと思います。
始まってすぐ買ってくれた人もいたし、見本で印刷していった10ページくらいのやつを見た上で買ってくれた人もいたし。
ツイッターで少し絡みがあった人があいさつに来てくれたりとかもあって、非常に楽しい1日となりました。

即売会ってこんな感じなんだな~、定期的に出たくなるの分かるな~と、終わった後の銭湯で思いました。
作品を楽しみにしていたとか言ってもらえたり、買ってもらえるというだけでも、作品への反応が直接目の前で見られるというのは想像以上に心を潤してくれました。

また、独自にハッシュタグを作って「よかったらツイッターとかで感想下さい~」と本のあとがきに書いておいたら本当にちらほら感想を頂けていて、それをあとで巡回したときも「頑張ってよかった」と思えました。

まあその…自分ではグロ表現とかは割とソフトになっちゃったなと思っていたのですが、思っていたよりショックを受けている方が多くてちょっと申し訳ないなと思いつつ、でも漫画的には誉め言葉なんですよね、苦手な人は読むなって本気の警告が書いてあったりするの。

5冊ほど売れずに残ったのですが、後にBOOTH通販をしたところ一瞬で売り切れ、無事に販売分は全てさばくことができ、筆者の初の同人誌頒布チャレンジは幕を閉じました。

2 作品解説


さて、ここからはいよいよ、作品そのものの解説に入っていきます。
前述のとおり、MTDのネタバレ、また、文章とはいえ暴力的表現・ショッキングな表現を含みますので、苦手な方はここから先は読まないことをおすすめします

※本当は作品のDL販売ページのURLとか載せたかったのですが、noteの規約に抵触しそうなので控えておきます。筆者のツイッターアカウントに飛べれば見つかるかと思います。

登場人物は以上の通り。これでも全体の半分も出せていないという恐怖。

冒頭

物語冒頭のあらすじは以下の通り

~~~~~

夏休みのある日、765プロ劇場の公演はおやすみで、劇場に来ているのは自主レッスンや暇を持て余して遊びに来た子たち。
仕事に一段落ついた事務員の青羽美咲がアイドルたちと休憩をしようかと思った時、所恵美島原エレナの2人が、足首にひどいけがをした田中琴葉をつれてやってくる。手当をし、何があったのか聞くと、道で倒れていた男を助けるために救急車を呼ぼうとしていたところ、その男に咬まれたのだという。
病院や警察に通報をしようとした矢先、琴葉の容態が急変、心配し駆け寄る恵美だったが、琴葉は何故か恵美に口づけをする。恵美ほか全員が呆気に取られていると、何と琴葉は恵美の舌を噛み千切ったのだ。
阿鼻叫喚の中、一度息を引き取ったはずの恵美が蘇生し、琴葉と共に徳川まつりを襲撃。窓の外にもただごとならぬ様子の人々が群がっており、とにかく一度外に逃げようと飛び出すメンバー。しかし、劇場入り口にも異常者の群れが出来上がっており、先頭で扉を開けた横山奈緒が一瞬で飲み込まれてしまう
何とか劇場内の一室に立てこもる一行だったが、SNSでは世界中が大混乱に陥っていて―――

~~~~~~

サンプルとしてツイッターでも上げた部分ですね。
非常によくある感じの導入です。が、ゾンビ物で一番ワクワクするのってやっぱりこういうのですよね。平和な日常の中、突然仲間の1人が豹変して肉を喰いちぎり、あれよあれよと犠牲者が出て大パニックになる―――どんな作品でもこの下りが最も高揚します。
さて、最終的に何とか生きて部屋に立てこもることに成功したのは、青羽美咲、佐竹美奈子、島原エレナ、豊川風花、箱崎星梨花、福田のり子の6人。ここまでで、田中琴葉、徳川まつり、所恵美、横山奈緒の4人が犠牲になってしまいました。

ここまででも既に色んなフェチを詰め込んであります。
まず、琴葉が恵美の舌を噛み千切る下りは、先にも書いた仲間の1人が突然ゾンビ化し、一瞬で地獄になる感じを出したかった箇所です。誰が誰を襲ってもそうなったでしょうが、話を妄想レベルで考え始めていた時から、ここで豹変するのは琴葉に決まっていました。外で倒れている人を見つけたら真っ先に助けようとするだろうし、それで最初に咬まれるのも琴葉だろう、という感じで。襲われるのは最初美咲やプロデューサーの予定もありましたが、せっかくならことめぐを絡ませたいということでこうなりました。キスの最中にゾンビ化して舌を咬む描写は映画「REC●3」に影響を受けていますが、あれは噛み千切るというより引っこ抜いてるのでちょっと違いますね。
まつりが襲われる下りは、果敢に立ち向かったものの、結局喰われてしまう強キャラ、というのを描きたくてこうなりました。琴葉1人なら抑えられていたけど、そこに恵美ゾンビが加勢して手に負えなくなって、という感じです。絵では琴葉がまつりの右腕に咬みつき、そこに恵美が飛びかかっている感じですが、イメージは恵美に対抗しようとしたところ、思っていたより早く体勢を立て直した琴葉に腕を咬まれ、無防備になってしまった隙に恵美に襲われた、という流れです。強キャラが無抵抗になってしまった瞬間を襲われる、非常に興奮しますね。思い返すと、映画「REC●4」にも似たような下りがあり、そこで得たカタルシスが心の奥で疼いていて、それを表現したかったのかもしれません。
そして描いている段階でも自分で興奮した、奈緒がゾンビの大群に飲み込まれるシーン。ゾンビ好きが興奮しないわけがない定番のシチュエーション。これは間違いなく、映画「バイオハザード」でJ.D.が犠牲になるシーンに影響を受けています。小学生で初めて観た時、とてつもない衝撃を受けて性癖が歪んだ、大好きなシーンです。
美奈子に助けを求めながら、群れに引っ張り込まれて姿が見えなくなり、断末魔と肉の裂ける音だけが響く……このページが描きたくてMTDを描いたと言っても過言ではありません。モブゾンビを描くのは大変でしたが、お気に入りのシーンです。


うみたま


部屋に立てこもり、悲しみに暮れたり、しかし助かるために動き出さなければと行動を開始するシーンから転じて、場面は冒頭の悲劇の少し前、つまり、琴葉が劇場に着いたくらいのタイミングの、劇場裏の広場へ(多分公式でこんな場所はないでしょうが、ないと困るので作りました)。そこでは高坂海美と大神環がバドミントンで遊んでいました。外で遊ぶのが大好きな2人のいつも通りの和やかな光景です。
しかし、その最中やってきたゾンビにまず海美が喰われ、その後異常を察知して木の上に避難しようとした環も逃げきれずに喰われてしまいます。ここまでで、冒頭のメンバーが部屋に立てこもるところに時系列が追い付くようなイメージです。
海美が喰われるコマは、他のメンバーが犠牲になるシーンに比べて小さめにしてあります。それは喰われ方が地味だからとかではなく、環がまだ事の重大さを理解しきっていない→海美が殺された、自分も殺されそうになっていると、この時点でまだ理解しきれていないことを意味しています。直前で海美が環に逃げろと叫んでいるのですが、それを聞いてただごとじゃないことだけは分かったものの、その声の迫力に一瞬思考が停止してしまったのも一因です。海美が喰われている時点ではまだ、”遠くで何か大変なことが起こっている風景が見える”程度で、”自分にも命の危機が迫っている”のを認識するのは周りにゾンビが集まってきているのに気付いてようやく、なんですね。
2人とも遊びに夢中で、自分たちめがけてゆっくり近づいてくる生ける死者に気付くことができなかったのです。海美は少し遠めに飛んだシャトルを追いかけ、自らゾンビの懐に飛び込んでしまっています(この下り、あえてちょっとコミカルに見えるようにしたのも、事の重大さと、それを遠目に見ている環の理解との齟齬を表現するのに一躍買っていると思います)。
そして環ですが、木の上に避難しようとしたところ、足を掴まれて下ろされそうになり、何とか抵抗したものの、木の枝につかまってぶら下がったままの体勢で腹を裂かれ、絶命しました。作品中初めて内臓類がもろに露出するシーンだったため、ここも気合いを入れて臨んだのですが、腹を裂かれた時に内臓がどうなるのか、そもそも腹ってどうやって裂けるのか、いまいち分からず、ちょっと迫力に欠けてしまったように思っています。映画で散々見たつもりでしたが、空中で上半身と下半身が分断するような解体のされ方はそういえば見たことがない…かもです。

ジェリポ組


その外での悲劇が起こっている最中、劇場裏に面している部屋では、Jelly PoP Beans、通称ジェリポのメンバー、周防桃子、永吉昴、舞浜歩、ロコの4人が集まって話し合いをしていました。長時間の会議で煮詰まっていたところ、窓をとんとんと叩く音がし、昴は外で遊んでいた海美と環が誘いに来たと思い、休憩を促して自分も混ざろうとします。しかし、窓を叩いていたのはゾンビの群れで、早く遊びたい一心で駆け寄った勢いのまま窓を開けた昴は捕まり、外に引きずり出されそうになります。悲鳴を聞いて他3人が駆けつけ、昴を室内に引っ張り戻そうとしますが、昴はゾンビに腹を裂かれて絶命、更にそこへ海美のゾンビもやってきたため、3人はとにかくまず美咲たちがいるはずの部屋へ向かうことにします。ところが途中、劇場内に侵入していたゾンビに遭遇して二手に分かれてしまい、桃子とロコはロコがアトリエとして使っている部屋へ、歩は予定通り控え室へ向かうことに。何とか控え室に着いた歩でしたが、そこは既に冒頭の惨劇が終わった後で、琴葉ゾンビたちに襲われてしまいます―――。

昴が外に引っ張られ、内臓を引きずり出される描写は、映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」でデイヴィッドが犠牲になるシーンのパロディです。ここは先ほどの環のシーンと似てますが、環よりもいい感じに描けた気がします。黒髪の男ゾンビが腹の中をまさぐるような動きをしているのがそれっぽくてお気に入りです。
歩が控え室に命からがら逃げこんだものの、その先で仲間たちのゾンビに襲われるところですが、部屋に入って状況を理解した歩にわざわざ笑顔で「マイガー」と言わせて面白い感じにしたのは、アメトークのゾンビ芸人の回で麒麟の川島さんが”コメディ系のゾンビ映画あるある”として話していたやつをそのままやらせていただいたシーンです。これができるのは歩しかいないということで、尊い犠牲になってもらいました。そういう意味でもここはジェリポの4人に活躍してもらいたかったのです。

さてロコと桃子はロコがアトリエとして使っている部屋(その後の風花曰く、元々休憩所だった部屋)に逃げ込んで一旦事なきを得ます。そこへ美咲から電話があり、状況を伝え、早くアトリエに来てくれとだけ言うと一方的に電話を切ってしまいます。ちょっと無責任な感じにも見えますが、それについては後述。

冒頭メンバーは部屋に逃げ込んだあと、自分たち以外に劇場に来ているメンバーに電話で連絡を試みていました。が、連絡が取れたのはロコだけだったので、後のメンバーと合流するため、行動を開始します。
のり子、エレナ、美咲の3人は仲間と合流するための捜索チーム、風花、星梨花、美奈子の3人は待機チーム。美奈子は目の前で親友の奈緒が無残な死を遂げたことと、助けられなかったショックで自暴自棄になっています。
この編成についてははっきり言って消去法です。この後の展開のことを考えると、のり子とエレナと美咲には外に出てほしかった、というだけです。星梨花の携帯を取りに行くのだから星梨花も来ればよかったし、何なら全員で出発してもよかったかもしれませんが、そうすると描くのも大変なので、美奈子にふさぎ込んでもらって、数人は部屋に待機するという状況に説得力を無理やり持たせました。

エミつむ


一方その頃、和室ではエミリースチュアートの正座の練習に白石紬が付き添っていました。紬は少し疲れてきたので、一旦お手洗いにとその場を後にし、ずっと一緒に正座していたのに足がしびれていない紬の様子を見てエミリーは勝手に憧れの目を向けています。しかし、紬が用を足し、手を洗っているところへ、いきなり背後の手洗いのドアが開いて男ゾンビが入ってきます。突然のことに状況を掴めないまま、紬は喉笛を喰い破られ、悲鳴も上げられないまま静かに絶命します。その後、いい加減足のしびれに耐えられず、そろそろ休憩しようと思っていたエミリーが、なかなか戻ってこない紬を心配し始めたところに、ゾンビ化した紬が戻ってきます。最初は大怪我をした紬が苦しそうにしていると思ったエミリーですが、そもそも気絶していてもおかしくないほどの大怪我をしている紬が、自分に向かって獣のような唸り声を上げながら近づいてきていることにようやく危険を察知。しかし、逃げようと思った時、エミリーはまだ足がしびれていて満足に逃げ出せず―――。

このシーンの肝は、何と言っても足がしびれていて逃げ出せなかったエミリー、ですね。このシーンも妄想レベルで話を考えていた割と早い段階から頭の中にあり、ほとんどその時の妄想をそのまま形にしたようなシーンになっています。エミリーの特徴を上手くゾンビものに落とし込めたお気に入りのシーンです。
ここなんかは特に、MTDをCG集として出したとしてもある程度様になっただろうと思うところなのですが、ここやそれ以外の色んなシーンも含めて、ゾンビ作品の残酷シーンというのはどうしてもその前後の文脈が大事で、このエミリーが襲われるシーンだけを単体で描いても正直あんまりいいものにはならなかっただろうなと思います。これが、最終的にCG集ではなく漫画という形でMTDを描こうと思った理由です。その人が犠牲になるまでどういうことがあって、その人を襲うゾンビはどういう風にやってきて―――とかがあってようやく残酷シーンが興奮のあるものになるのです。特にこの漫画のように、慣れ親しんだ仲間がゾンビ化し、他の仲間を襲う、というシチュエーションがたくさんあると、仲間がゾンビ化するのにもそれぞれ納得の行くいきさつがないと、どうしてもいいものにできなそうだったんです。ほんとは残酷シーン以外の会話とか話を進めるだけのシーンとかはあんまり描きたくないんですけどね、手間なので。
もちろん紬に関してもいい喰われを描けたなと思います。鏡越しにゾンビに気付いて驚いて、でも何もできないまま喉をやられて声も出せない、という流れをスムーズに描写できました(悲鳴を上げてしまうとエミリーが危険に気付くのも早まってしまうので)。エミつむのシーンはお気に入り度高めです。

歌織と自主レッスンに来ていた3人


紬に襲われたエミリーの悲鳴は、少し遠くにいた桜守歌織矢吹可奈にも聞こえていました。歌織はそのただごとならない様子に不審者の可能性を考え、可奈には木下ひなた中谷育のところに戻って待っていてと伝え、単身様子を見に行きます。可奈はレッスンルームに戻って2人にそのことを話し、育の提案で控え室(美咲たちが最初いた部屋)に内線で連絡を試みます。しかし、控え室は既に琴葉ゾンビたちが歩というごちそうにありついていて電話に出る者はいません。不安に駆られる育ですが、少しでも場を明るくしようと可奈は得意の歌を歌い、ひなたも育を励まします。と、可奈が、レッスンルームのドアの丸窓から環がこちらを覗いているのに気付きました。探検ごっこ中かなと思い、明るく迎え入れようとドアを開けると、下半身のない環が、内臓をぶらさげながら丸窓の枠のわずかな出っ張りに指を引っかけて捕まっており、廊下には死者が行列を成していました
一方歌織は和室に着き、背中を向けて座っている紬と、その向こうで横になっているエミリーを見つけます。異様な鉄臭さに鼻を覆いつつ紬に声をかけると、振り返った紬はもぎ取ったエミリーの頭を食べていました。あまりのことに腰を抜かしていると、更に背後から男ゾンビが襲撃、腕を咬まれてしまいます。何とか振り払ってその場を後にし、一刻も早く皆のところに戻らねばと急ぎますが、レッスンルームには死者の大群がなだれ込み、中からは3人の断末魔が聞こえてくるだけでした―――

個人的に一番のお気に入りのシーンです。フェチ詰め込みまくりました。
不安になる育、励まそうとする可奈とひなた、遊びに来たように見えた環、そして扉を開けた瞬間世界が終わる……という流れがすごく好きな感じにできたし、紬がエミリーを食べているシーンも、ゾンビ的には普通の食事してるだけですが?みたいなふてぶてしい顔にできたし、何と言っても歌織が戻ってきたら3人とももう喰われててえぐい悲鳴が聞こえてくるというところ。これも、直接襲われるシーンは描いていないが文脈がしっかりしているのでカタルシスを感じる残酷なシーン、というやつですね。一番3人を守れるはずの立場だった歌織が、1つ行動の選択を誤ったせいで、全く何もできずみすみす殺させてしまったことに気付き、もう手遅れなのを3人の断末魔と食事の音を聞きながら少しずつ理解していく、という描写―――。"たまらん"の一言に尽きます。
この環が丸窓から覗いているシーンは表紙にもなっています。小さな丸窓いっぱいの満面の笑みの環が、しかし恐ろしさを伴っている、という感じにできたのでそちらも気に入っています。この表紙も、「ラスト・ドア」というゾンビ映画のパッケージに影響を受けていますが、まだ観たことがないので今度観てみようと思います。
まあ現実的には無理がある部分も多いんですけどね。紬の喉だけ喰いちぎった男ゾンビがそのあとこのシーンに至るまでどこで何やってたのかとか、いくら何でも紬が振り返るまでに何が起こってるのか気付くだろとか…… あくまでもB級作品なので、その辺は流しておいていただけると嬉しいです。

のり子たちの捜索


もう死んでいてもおかしくない傷だらけの人間が、歩き回って他の人間を襲い、食べている、という様子から、あれは映画のゾンビと同じようなものではと考察しながら進むのり子、エレナ、美咲。そこへ、エミリーの頭を持った紬ゾンビがやってきます。のり子はそれを紬じゃなく、紬に何か悪いものが取り憑いて動かしていると割り切り、紬から離れろと叫びながら持ってきたパイプ椅子で紬の頭を強打、床に叩きつけて倒します。
ゾンビは頭を強打=脳を損傷したら動かなくなる、やはり映画のそれと同じだと結論付け、3人は控え室へ。のり子が琴葉ゾンビたちを倒し、エレナと美咲は星梨花の携帯を探します。のり子は昴のロッカーから野球のバットという新たな武器を手にし、携帯も見つかり、安堵したのもつかの間、環ゾンビが襲い掛かってきます。何とか誰も咬まれずに済んだものの、環ゾンビは他のゾンビとは全く違う素早い動きと、「くふ、くふふ…」という笑い声を漏らしながら、フタの外れた換気扇から通気孔へと消えていきました。

敵が映画で見るゾンビと同じものであるとアイドルたちが納得し、ようやく戦えるようになるシーン。仲間のゾンビを倒したり、他とは違う動きをするゾンビが現れたり、少しずつ話が進んでいきます。
環ゾンビの動きは、日本の都市伝説に出てくる妖怪テケテケそのものですね。ただのゾンビだけでもよかったのですが、環は表紙でのイメージが先に浮かんでいたので必然的にこうなった、という感じです。満面の笑みで下半身がなかったら、両手でてしてし動き回る元気もあるだろうなというのが自然に想像できました。

このあとのり子たちはアトリエ前に着くものの、ゾンビが群れを成していて入れず、反対側の入り口に回りがてらレッスンルームの歌織たちと合流しようとします。
一方風花たちは相変わらず美奈子を励まし続けていましたが、バリケードを張っていた部屋のドアの鍵が壊れ、外のゾンビに押し入られそうになり、風花と星梨花で必死で抑え、でもやっぱり美奈子はヤケクソで―――とカオス状態。
お話は佳境に突入していくのであります。

環ゾンビとの死闘


レッスンルームの地獄を目の当たりにした後、3人はレッスンルームにいなかった歌織を捜索に行くことに。と、衣装室から物音がし、中へ。環ゾンビが潜んでいる危険性を考えて恐る恐る歩みを進めますが、何とか隠れていた歌織と合流。腕を咬まれていることに気付いて落胆する間もなく、換気扇のフタが外れ、環ゾンビが襲撃してきます。死角の多い衣装室で全方位に注意を向けながら入り口を目指しますが、のり子が飛びかかられ、バットを取り落としてしまい、無防備に。美咲がそれを拾ってのり子を助けようとするも、かつての仲間にそれを振り下ろすことができず、のり子が咬まれる寸前、ついにエレナが環の頭部にサッカーボールキックをかまし、環ゾンビを倒してのり子を助けることに成功。ゾンビとは言え仲間を殺してしまったことに泣き崩れるエレナを全員で支えながら4人は静かに部屋を後にしました。

ここはゾンビホラーというよりもゾンビアクションという風味の強いところですね。
育たちが完全に絶命してゾンビに貪られているところは、映画「ランド・オブ・ザ・デッド」のラストに多大な影響を受けています。いかにも絶望的なワンシーンという風にできたなーと思います。が、絶望する間もなく衣装室での環ゾンビとの戦闘へ。ここはスピーディな展開もそうですが、すぐ助けないとのり子が咬まれるのを分かっているのにバットを振り下ろせない美咲の、人間らしいどんくささもちゃんと描きたかったのです。映画とかなら、観ている人からしたら「いいからさっさとやれよ、つまらない理性のせいで仲間が死ぬかもしれないんだぞ」とちょっとイラっと来さえしそうなところですが、冒頭からのメンバー3人の中では、恐らく最もこの状況でもそういう人間性を捨てきれない人が、筆者の考えでは美咲なんですよね。優し過ぎるというか。しかも環はずっと顔が笑っているので、美咲にはのり子に襲い掛かっている環ゾンビが、のり子に遊んでほしい環そのものにしか見えなくて、一瞬でもそう見えてしまったらもう自分で手を下すことができなくなってしまった。
結局エレナが環の頭部を蹴っ飛ばして助けますが、やっぱりエレナも優しいので泣き崩れはするものの、のり子が危ないと本気で思ったら体が勝手に動いて気付いたら環を蹴っていた、という流れかなと思います。仲間を助けるために体が勝手に動く……状況によっては自己犠牲も顧みなそうだという雰囲気をエレナからは感じます。
のり子はここまでの流れから分かる通り、もちろん優しいので仲間の死を悲しむことはしますが、悲しみに飲まれず、今すべきことをするために気持ちを切り替える強さを持っている、と解釈して動かしています。
冒頭メンバー3人の人間性と、サバイバル適応力みたいなものをうまいこと表現できたかなぁと思っています。

歌織の機転、そしてアトリエへ


その後、アトリエの反対側の入り口に無事到着したものの、風花たちが待っている部屋への入り口がゾンビの群れがある方向(のり子たちが最初来た方向)にあるため、このままでは帰りも遠回りしなければならないということに気付きます。
そこで、ゾンビの群れをこちらにおびき寄せ、帰りは今ゾンビが群がっている入り口側から出る流れを作ろうということに。すると歌織が群れの方に近づき、歌を歌い出します。歌声に気付いたゾンビが寄ってきたので、のり子たちもゆっくりと移動し、反対側の入口への距離を縮めていきます。
作戦が上手くいきそうだと思った矢先、ブラインドの閉まっていた左手の窓が一斉に割れ、ゾンビの群れがなだれ込んできたため、一転窮地に。のり子が応戦したことで何とか全員がアトリエに逃げ込めたかと思いきや、歌織が外からドアを閉め、のり子が取り落としたバットをかんぬきにして開かないようにしてしまいます。本来鍵のかからないアトリエのドア、バットをかんぬきにしたところで群れに押し寄せられたらすぐ破られる、何より腕を咬まれた自分ももうすぐおかしくなってしまう―――歌織は、最後に歌を歌いながら群れに飲み込まれ、少しでも皆が逃げる時間を稼ごうとしたのでした。

ようやく目的のアトリエに到着するシーン。歌織が得意の歌を、ゾンビをおびき寄せるのに使うという、これもなかなかアイドルの特徴をいい具合に活かせたというか、アイマス×ゾンビものならではのシーンを描けたなと思います。のり子たちの作戦を完全に図式で説明したのはちょっと無理やりだったかなとは思いましたが、この後どう動くかは読む人にも分かっておいてほしかったので……
歌っていた曲は歌織のソロ曲「ハミングバード」です。"私が今できること"というフレーズが、"腕を咬まれて先の長くない私にできることは、囮になって少しでも時間を稼ぐこと以外にない"という歌織の決意を暗に示しています。
ブラインド越しに窓をぶち割ってゾンビの群れが侵入してくる様は、ゲーム「バイオハザード3 ラストエスケープ」のとあるシーンに影響を受けています。そう、攻略法が分からないと大量の弾薬と体力を消費してしまう、あの初見殺しシーンです。
美咲は先頭にいたのでいち早く逃げ込み、ちょっと捕まりそうになったエレナも持ち前の身のこなしでかわして逃げ切ります。のり子は逃げるよりもバットで応戦し、他のメンバーが逃げ切れてから自分も逃げ込むという、ヒーロー的役回りです。戦える人が1人はいないとこういう場面で絵が地味になるので、のり子には頑張ってもらいました。
頑張りすぎてバットを取り落としたのも、休憩室の扉が鍵のかからないもので取っ手も独特の形をしていたのも、歌織が扉にかんぬきをかけるためのお膳立てです。ちょっとだけ開く扉の隙間から歌織の名を叫びながらその最期を目の当たりにするのり子……エモいですね。

ロコ・インサニティ


歌織をうしなった悲しみに暮れる間もなく、のり子らはアトリエの惨状を目撃します。ロコは一緒に逃げ込んだ桃子を殺害し、その血を絵の具にして壁いっぱいにアートを描いていたのです。
昴が目の前で生きたまま喰い殺されたのを目の当たりにし、その瞬間からインスピレーションが爆発してしまっていたロコは、アートを完成させると言って、扉の隙間からのこぎりを差し込んで歌織がかんぬきにしたバットを切断し、ゾンビの群れを迎え入れます。群れの中にはゾンビ化した歩の姿も。そして何事か嬉しそうに喚きながら、ゾンビに顎を裂かれ、その血しぶきを自分で描いていた壁のアートにまき散らし、"完成"させて絶命
のり子たちは急いで風花たちの部屋へ戻りますが、そちらでもついにゾンビの侵入を許してしまっていました。急いで逃げようとする風花と星梨花でしたが、美奈子はその群れの中にゾンビ化した奈緒を見つけ、歩み寄っていきます。のり子たちが戻った時にはもう遅く、美奈子は"お腹空いてるんでしょ、いいよ、お腹いっぱい食べて"と言いながら奈緒を迎え入れ、そのまま群れに飲み込まれていきました。

ここも屈指のお気に入りシーン。ロコが狂気のアーティストと化し、仲間をアートの材料に使い、自らもその一部となるために命を捧げる、というもの。妄想段階から、ロコはマッド・アーティストにしたい気持ちがありましたが、最初は仲間やゾンビの死体を天井から何体もぶら下げて―――みたいな立体アートをイメージしていました。話の流れから段々現実的な規模になっていって、桃子の血で壁に絵を描く、に落ち着きました。
ここで思い出してほしいのが、ロコが桃子とアトリエに逃げ込んだ直後のシーン。実はこの時点で、ロコは桃子を材料にアートを作る気満々でした。根拠となるセリフは以下の通り

とりあえず何とかなる=アートを作るのに必要なものが揃ってる
それまでに何とか(アートを完成させなければ)
急いで来てください=アートを作るから見に来てください

"早く助けに来て"とは一言も言っていなかったんですね。ただこれから作るアートを見てほしかっただけ。そして望み通り、自らの血をまき散らしてアートを完成させ、喜んで死んでいったのです。
この顎裂きのシーンは、映画「シティ・オブ・ザ・デッド」に影響を受けています。顎裂き自体は先述の「ランド~」にもあるのですが、あちらよりも「シティ~」のものの方が生々しく、痛々しくて好きです。何よりドアップですし。
桃子の遺体がコマ外に引きずられていくのも、暗にこれから桃子も食べられるということを示すことができていて地味にお気に入りです。
そして美奈子のシーンですが、作中最も作画が上手くいったシーンです。美奈子の「世話好きでとにかく人にお腹いっぱい食べさせたがる」というアイドルとしての特徴も活かしつつ、泣きの要素も入れてみたりしてなかなか楽しかったです。よく見ると、のり子たちが部屋を去るコマの奥の方、小さく映っている美奈子は、咬まれながらも奈緒のことをしっかり抱きしめています。こういうみななおがあってもいいとは思いませんか

一番作画が上手くいった美奈子氏。食べたい。

脱出…?


エレナから携帯を受け取った星梨花は、仲間たちが犠牲になったことを悲しみながらも父に電話し、助けを求めます。すると、劇場に娘がいるのを知っていた父は既に手を回しており、重装備の私設部隊が劇場の玄関前に到着していました。銃火器でゾンビを次々に撃退し、星梨花を迎えに来た兵士に全員が頼もしさを覚えますが、兵士は迎えに来たのは星梨花だけで、他の人は助けられないと言います。何とか仲間も助けてもらおうとする星梨花ですが、"仲間を置き去りにするくらいなら自分も残る"と言いかけたのを美咲が制し、とにかく星梨花だけでも安全な場所に行ってほしい、自分たちも必ず生き延びて、後で会えるようにすると説得し、星梨花を送り出しました。
無闇に外を歩き回るより中に戻って耐え抜こうと劇場に踵を返すのり子たちでしたが、背後で大きな音がし、見ると星梨花を乗せたトラックが木にぶつかって止まっていました。そして荷台の扉が開き、中から逃げ出そうとした兵士が群がっていたゾンビに捕まっていきます。助けなきゃとそこへ近づこうとした美咲の手を引き、のり子たちは自分たちで星梨花を救出するのを諦め、劇場に戻りました。

最初からアテにしていた助かる手段がフイになるこのシーンは、つい最近の映画「新感染列島」に影響を受けています。ここは兵士を描くのが楽しかったですね。中学生くらいの時とか、こういう装備いっぱいの兵士を思いのままに描くのが好きだったのですが、その時の感じを思い出しました。ただ、しっかり描き込んでいたらゾンビ以上に時間がかかるので、直線のところもほとんど全部フリーハンドで、たくさんついているポケットやポーチ類もほぼ陰影で表現し、あとはトーンをベタッと貼ってごまかしています
また、トラックが木にぶつかって立ち往生したのは、荷台に乗っていた兵士が言っていたように、運転手の兵士がゾンビに掴みかかられた時に引っかかれていたせいで感染し、ゾンビ化したのが原因です。よく見ると1人だけ半袖の兵士がいて、その人がどこかに連絡をしている最中にゾンビに掴まれたのをハンドガンでいなしている描写もちゃんとあります。ちょっと無理やりですが、運転手にゾンビ化してもらわないといけなかったので半袖で出動してもらいました。
開いたトラックの荷台にゾンビがなだれ込んでいくシーンも個人的にはなかなか興奮する描写でして、これも「新感染列島」に影響を受けているのですが、こう、限られたスペースの中にいる生存者に向かって、ゾンビの大群がどんどん流れ込んでいくのを遠巻きに見ているっていうシチュってすごくエロいなと思うんですよね。中にいる逃げ場のない人たちの様子は想像しかできないけど、助かってはいないと確信できる、しかもそれを見ている自分たちは安全圏にいて、逆に言えば何の助けも差し伸べられない……っていうのにすごく興奮してしまうんですよねぇ。

のり子の最期


劇場に戻ったのり子たちですが、すでに中はゾンビで溢れかえっており、外ももうゾンビが集まってきていて、とにかく今ゾンビがいない方に動き続けることしかできない状況になっていました。そうして逃げるうち、屋上への階段を駆け上がっていたのですが、途中のり子が転んでしまいます。肩を貸そうとする美咲を押しのけるのり子。見ると異様に顔色が悪く、"ゾンビと戦っている時に血の飛沫が口とかから入っていたのかもしれない、もう自分はダメだと分かる"と言い出します。途方に暮れているうちに階下からゾンビの群れも押し寄せてきましたが、のり子が時間を稼ぐから皆は逃げてと言い出し、美咲はそんなのり子に"もう頑張らなくていい、助からないとしても最期ぐらい楽に……"と涙ながらに訴えます。が、のり子は構わずゾンビを拳で押し返し、戦い始めました。残された美咲、風花、エレナはそのまま屋上へと出ますが、逃げ場もなく、はしごでもう1つ上に上がろうとしたところにゾンビが屋上へなだれ込んできて―――

いよいよクライマックス。今まで散々戦い、先頭を走ってきたのり子が感染し、最期まで自らを犠牲にして戦い抜く、というシーン。正直このままのり子も無事に生還してもよかったのですが、この方がカッコいい気がしてこうなりました。"私って自分で思ってたよりいいかっこしいみたいでさぁ"と笑って言いながら、腕はもう振りかぶっているというコマは泣きながら描きました。嘘です。
星梨花の救出を諦めて劇場内に慌てて戻る辺りからのり子はずっと汗をかいていて、実はこの辺からもう具合が悪かったということを暗示したつもりだったのですが、他の人も焦ってたり走ったりで汗かいてたので、全然そういう感じになってませんでしたね。ただ露骨にし過ぎてもいけないので、バランスが難しいなあと思います。
あと作画に関しては、階段とかはしごとか、そもそもあんまり描きたくないようなものの上で人間が動き回る感じだったのでとにかく描きづらかったですね。

脱出


何とかはしごを登り切った風花とエレナが見ると、登り損なった美咲が仁王立ちでゾンビに対峙していました。諦めないで、こっちに来てと叫ぶも、美咲は自分の不甲斐なさで皆を守れなかったという罪の意識に苛まれており、今目の前にいるのり子も自分のせいで犠牲になったと考え、風花とエレナが助かるまでの時間稼ぎに少しでもなるなら、自分もここで囮になろうと決意します。
しかし、決意を固めるや否や、目の前ののり子が何らかの破裂音と共に倒れ伏します。と、背後にヘリコプターが飛んできていて、そこにはサブマシンガンを構えた伊織が乗っていました。伊織は銃でゾンビを次々に倒し、頃合いを見て屋上に降り立ちます。そしてまた伊織がゾンビに応戦している間に美咲、風花、エレナはヘリに乗り込み、脱出に成功しました
ヘリの中、美咲は伊織に"今日一番大きな現場に行っていたはずだけど、他の皆は"と仲間の安否を確認します。帰ってきた答えは無情にも、"生き残ったのはほんの数人でほとんど全員が死んだ、私設部隊も壊滅した、私が自分で助けに来たのもそういうこと"という残酷な真実。
"どうせ私達もすぐに死ぬ、生きてても意味ない"と泣き叫ぶエレナ。伊織はそんなエレナの手を取り、"だからあなたたちが生きていてよかった、全滅も覚悟していた、生きていてくれてありがとう"と言葉をかけます。
喰い散らかされた劇場を眼下に、ヘリは今のところ安全らしい水瀬邸へと向かって飛んでいくのでした。

最後のシーン。もうダメだと思ったところにヘリが飛んできて間一髪で助かる、というのは色んなゲームや映画で似たようなシーンがありそうですが、明確にあれっぽいなとイメージしてたのは映画「#生きている」でした。いや~最近の韓国ゾンビ映画は熱いですよ。
美咲がゾンビたちと対峙しながら決意を固めるシーンや、伊織がエレナにかける言葉など、セリフに一番苦労した覚えがあります。安っぽくなっちゃいけないし、かといってカッコつけすぎた感じになってもいけないし……ちょうどいいくらいのバランスにできたかなぁと思うのですが、どうでしょうか。
作画で言えばヘリの描写や劇場周りなど背景を描かなきゃいけないコマも多く、なかなか大変でしたね。筆者は背景を本当に描きたくない性分なので。
ヘリに乗って颯爽と登場したのが伊織だったのは、伊織ならやりそうと思ったからという、至極単純な理由です。家がお金持ちだから気軽に乗れるヘリがありそうだし、こういうカッコいい役回りが似合うキャラでもあるので。B級作品ですから気軽にサブマシンガンだって使わせてしまいました。安心と信頼のMP5Kです。このくらいなら、伊織は即興で使いこなせそうだなという勝手なイメージです。
ヘリが飛んで行った後の劇場の様子を2ページに渡ってわざわざ描写したのは、映画「ゾンビ」、「死霊のえじき」でやっていたような、その後のゾンビたちの食事シーンを入れたかったからです。トラックの荷台での星梨花、傷だらけで歩き回っている歌織、美奈子の割れた頭蓋から脳髄を手ですくって食べる奈緒、首の切断面から肉を引きずり出されて食べられるエミリー、ロコと桃子の残骸―――描いていて非常に楽しかったですね。
ちなみにMTDを読んでくれたとある方に、「思っていたより救いがあるなーと思った、全員助からないと思ってた」という感想を頂いたことがあります。お~そうか~なるほど~と、その時は感想をもらえた嬉しさでただニコニコしていましたが、考えてみると、助かってしまった残酷さというのがあるのかもしれないと思いました。
エレナが言っていたような、生き残ってしまったが故の苦しみ―――助からなかった仲間のために生き続けなければいけないし、つまりこの先もずっといつ喰われるか分からない恐怖と戦い続けなければならないという苦しみ
あまり意識していませんでしたが、ゾンビものを作る時に全員が犠牲になるシナリオを自然に排除していたかもしれない自分に気付けたありがたい感想でしたね。

映像特典 星梨花のその後


本編で描かなかったけどどうしても描きたくなってしまってネームの段階で描き足したのがこのシーンです。
荷台に追い詰められた星梨花が最期どうなったのかを描きました。想像に任せっぱなしにしてもよかったのですが、良い喰われ方を思いついてしまったので居ても立ってもいられず、ただでさえ多いページ数がもう少し増える結果となったわけです。
このやられ方は、映画「死霊のえじき」のとある兵士の最期に影響を受けています。あちらは首を他のゾンビに引き裂かれていて、MTDでは無理矢理引っこ抜かれているという違いはありますが。
お友達に「担当アイドルの残虐シーンを見ずに済んだと思ったのに最後の最後で裏切られた。これ読んだあと夢の中で自分が星梨花と同じ目に遭った」という言葉を頂きました。大変嬉しかったです。あと、羨ましかったです。

3 振り返って


これを書くために改めて読み返していたのですが、個人的に一番思ったのは、よく頑張ったなー自分、ということですね。好きなものに夢中になれるって素晴らしい。紙の同人誌で読み返したのですがその分厚さを久々に感じ、ほんとにアホだなーとニヤついていました。
あと、筆者はやっぱりクラシックゾンビが好きなんだなというのも改めて感じました。最近のゾンビはスピーディに走り回ったり、何なら飛んだりして、標的を一咬みしたらもう次に行っちゃって、人を食べるためというよりは感染を広げるために人を襲うみたいなものが多く、それはそれで良さがあるのですが、やはり食べるために人を襲うゾンビが一番好きです。だからこそ最後の劇場内での食事シーンを2ページも描いたわけなので。そういう意味では、最近の作品なのにそういうゾンビ像を大事にしている様子で、しかもちゃんとヒットしているドラマ「ウォーキング・デッド」は偉大ですね。

MTDは色々嬉しい感想も頂けて、今でも描いてよかったなとホントに思える作品ですが、こういういいものが描けたのは、何はなくともミリシタが魅力的なゲームであったこと、ミリシタのアイドルが全員魅力的であったことが一番の理由です。
ゾンビ作品としては何か新しいことをしたわけでもなく、筆者のフェチを詰め込んで、好きなシーンをパロディして遊んだだけなので、ミリシタアイドルに出演してもらっていなかったら何も面白くなっていなかったと思います。全員が個性的で魅力的なアイドルだったからこそ、この世界でゾンビ災害が発生したらどうなるのかの妄想も楽しかった(今も楽しい)ですし、それぞれの喰われシーンも戦うシーンも、筆者自身キャラにしっかり感情移入して話作りができました。
こんな漫画を描いといて何ですが、ミリシタに出会えてよかった、心からそう思います。

MILLION THE@TER OF THE DEAD -@NOTHER SIDE-について


さて、現在専用のツイッターアカウントまで作って、「MILLION THE@TER OF THE DEAD -@NOTHER SIDE-」(以下、MTDアナザー)というミリシタ×ゾンビ漫画を連載中です。MTDを描き終わってもう終わりにしようと思っていたのに、妄想が止まりませんでした。
これはMTDと同じ時間軸の別の場所が舞台です。MTDの最後に美咲たちを救助した伊織がいた現場ではどんなことがあったのかを描いており、現在多分3分の1か4分の1くらいが描き終わっていて、既に80ページに到達しております。つまり、全部描いたら200ページを超える恐れがあり、ひえ~となっています。
隔週土曜日に更新というペースを今のところ続けていて、今後もこのまま行きたい気持ちでいますので、よかったらチェックしてみて下さい。

MILLION THE@TER OF THE DEAD -@NOTHER SIDE-連載アカウント

表紙の通り、主人公は伊織です。

この作品でもまだミリシタアイドルを全員は網羅していません。
が、今後、最終的には全員がどうなったのかを描くつもりでいます。何年かかるか分かりませんが、よかったらお付き合いください。
MTDアナザーも最後は同人誌として頒布し、それを以てMTDシリーズを完全に終了したいと思っています。……続編の話もちょこっと頭にはあるのですが、いい加減やめておかないとキリがないので。

それでは、今後も頑張って描いていきますので、改めてよろしくお願いいたします。

たけのでした。

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