他者との対話が必要な理由

益川氏は、「多様性を利用した授業形態-ジグソー学習法と協調学習支援システムの組み合わせ-」で、次のように述べています。
「知識獲得は、個体の持つ先行知識に制約される。人間の知識は、新しい情報を既有の枠組みと調和するように解釈する、という意味で保守的性格を持つから、再構造化は稀にしか起きない。人の知識は、新しい情報を既有知識の枠組みになるべく調和するような形で解釈する傾向がある。」

人間の知識は、経験則、先行知識に制約され、さらに、既有の枠組みや知識と調和するように解釈されるため、再構造化は稀ということが分かります。
個人の中で第2の自分をつくり、個人内対話をすることで、相互作用を引き起こし、知識の再構造化を期待することはできますが、人は一度「わかった」ことを再度、見つめ直し、修正することはなかなかできないのが現状です。
そこで、他者が必要となるわけです。

他者との対話の必要性をもう少し詳しく説明したいと思います。

益川氏は、「多様性を利用した授業形態-ジグソー学習法と協調学習支援システムの組み合わせ-」で、次のようにも述べています。
「人は、「分かった」内容を他人に説明したいという欲求は持っている。他人に説明する機会があると、自分なりに「分かった」つもりの内容を説明するが、他人は既有知識や経験が異なるため、いくつか疑問が生じる。その疑問を相手から受けることにより、自己の「分かった」つもりでいた考えについて振り返り、知識の再構築が生じるのである。」
また、
東京大学CoREFは「協調学習 授業デザインハンドブック第3版-知識構成型ジグソー法を用いた授業づくり-」で次のように述べています。
「わかっている人は、理解レベルをより分からない人のレベルまで下げる必要が出てくるため、より細かく自分の考えを編み直す必要が出てくる。その過程の中で、わかったつもりになっていたことがわかっていなことに気付き、学び直すが起こる。相手に説明をしていたのに、いつのまにか自分の学び直しになっていく。この学び直しによって、より深く学ぶことができるようになる。」
さらに、
三宅氏は、「学習科学:協調的な実践科学と理論構築との互恵関係を目指して」で次のように述べています。
「一人が「自分にとっては十分納得できる説明」を提示すると、聞き手はその説明者と同じ知識や考え方を共有していることはないのが普通なため、ほとんどの場合、聞き手にとっては了承しにくい部分が生じる。聞き手がその部分を指摘すると、それが説明者にとって、自分自身納得していたモデルを見直すための手がかりを与えることがあり、それによって説明者は自分のモデルの再構築が可能になる。」
そして、
益川氏は、「学習科学からの視点-新たな学びと評価への挑戦-」で次のように述べています。
「人は一度「分かった」つもりになると、それ以上深めようとはなかなかしない。しかし、他者との相互作用によって次の問いや疑問になる「分からない」が生まれ、継続的に知識創造活動が続く学びになる。」

他者は、そもそも経験則も理解レベルも異なります。他者との対話によって、他者から「わかった」ことに対して、質問・批判が生まれ、強制的に学び直しが起きます。学び直しが起きることで、「わかった」ことの中に「わかったつもり」だったことがあることに気づくことができるのです。そして、改めて思考し直す中で、知識の再構造化が引き起こることになるのです。

参考引用文献
多様性を利用した授業形態
-ジグソー学習法と協調学習支援システムの組み合わせ- 2007 益川弘如
学習科学:協調的な実践科学と理論構築との互恵関係を目指して 三宅なほみ
学習科学からの視点-新たな学びと評価への挑戦- 益川弘如
協調学習 授業デザインハンドブック第3版-知識構成型ジグソー法を用いた授業づくり- 東京大学CoREF

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