東京大学「総長対話」という欺瞞

東京大学は4日の学内会議で、来年度に入学する学生から、授業料を現在より2割(約11万円)引き上げる案を示した。

今月中に決定し、7月中旬に発表する日程案が浮上している。

この日開かれたのは、学部長、大学院研究科長、研究所長から意見を聴く「科所長会議」。

報道をどこまで信頼するかという問題はあるが、それはひとまず措く(ちなみに4年前の事件では報道された情報が誤りだったというケースは結果としてほぼ見られなかったと記憶している)。

さて、授業料値上げの正式な決定が行われる場所は、この「科所長会議」ではない。科所長会議の規則的な意味での設置根拠は「部局長等との会議に関する総長覚書」だが、会議の内容はあくまで報告と意見交換・情報交換に限られており、審議や決定の権限は一切持っていない。また、この覚書はあくまで学内のもので、法令上に設置根拠のある会議でもない。

国立大学法人法では、学長(総長)・理事からなる役員会を頂点に、「国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する機関」である「経営協議会」や、「国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関」である「教育研究評議会」を置くと定めている。ところで東京大学の授業料の額は「東京大学における検定料、入学料及び授業料等の費用に関する規則」で定められているが、その第10条は「この規則の改廃は、経営協議会及び教育研究評議会の審議の後、役員会の議を経て、これを行う。」としている。これらそれぞれの会議を経て授業料が決められるということだ。「経営に関する重要事項」にも「教育研究に関する重要事項」にも該当しないはずはないから、法律に即して当然の措置だと言える。

報道の「6月中に決定し、7月中旬に発表する日程案」が事実だとするなら、この3つの会議にも6月中に上程されるはずである。このうち経営協議会に着目する。東京大学公式サイトの経営協議会のページを見ると、メール審議を除けばおよそ2~3ヶ月に1回の頻度で開催されていることが分かる。今後の日程はこのページには掲載されていないが、ここで総長選考・監察会議という別の会議のページを合わせて参照する。4年前の事件の経緯を経て、この会議は経営協議会などの他の会議と比べて詳細な情報公開がなされるようになっていて、資料や議事録が掲載されている。令和6年4月23日の資料の11ページ(資料5、PDFとしてのページ数は12ページ目)をよく見ると、6月21日(金)の16:00~18:00に経営協議会が開催されることが分かる。

ところで、東京大学新聞の報道によれば、「総長対話」は「6月21日午後7時から1時間半」であった。

つまり、今回報道されたスケジュールに沿って授業料値上げが決定されるのであれば、そのために必要な審議は、総長対話より前に終了しているということである。果たしてこの総長対話とはいったい何か。


(2024年6月22日追記)この投稿は、筆者以外の著作物を引用している部分を除き、CC BY-NC-SA 4.0の下で利用できるものとします。なお、同ライセンスの認める範囲をこえて利用したい方は、個別に対応を考えますので、筆者までご相談ください。

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