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たかが恋されど恋

好きだったヒトのことを書こうと思う。


私は誰かを好きになると、自分の容姿やらも顧みず、好き好きアピールをしてしまうほうである。
好きになってしまうとまっしぐらなのだ。
もちろん、何度も玉砕する。
それでも構わないのだ。
好きと表現することは、百パーセント自分だからだ。


好いて頂くことはほとんどないが、たまに遭遇すると、それはダメなのである。
アンタ碌に私のことを知りもしないで、何が好きとかね?などと不遜にも思ってしまう。
私のどこかを切り取って好きとか言ってんじゃねーよと思う。
ま、大概は高嶺の華に釣り合う勇気はないが、この程度なら釣り合うだろうと、自己評価に合わせた感じが、透けて見えるパターンです。
なんて偉そうに書いておいて、自分もこれをやらかしているのだ。

寂しさとか不安とか、ネガティブな中から湧いてくる恋愛感情は、これである。
ネガティブほどでなくても、安心したい、とか、、、ああ、書いていて恥ずかしい、、、何十年も前の自分に教えてあげたい。

ところが、そんな釣り合う釣り合わないとか考える暇もなく、エアスポットに入るようにスポンとハマってしまう異性がいるものだ。


結婚相談所に入会して婚活していた時に聞いた話がある。
生涯で出会う最善の異性は3人までなのだという。婚活などで、なかなかピンとこなくて次々会っていっても、3人目以降はもう最初の3人を超える出会いはないのだそうだ。なので3人の中から選べ、という話だった。
真偽は定かでないが、生涯で影響が大きい異性との出会いは、大体そのようなものではなかろうか?

とにかく、私の生涯で影響の大きかった男性のひとりが、彼なのである。

出会いは、職場だった。
最初の印象は、この人を好きになってはいけない!だった。
なんの予備知識もなく、本当の初対面で、頭の中に鳴り響いたのである。

不思議な人だった。
社内の数人の女性と親密で、なのに実は既婚者で、けれどもチャラチャラした感じではなく、なんと言うかエロい感じがなくて、女性と対等に接する人なのだ。
そして、いつも自然体だった。話が合うから、一緒にいて楽しいから、なにか応援してあげたいから、仲良くしてるんだけどそれがなにか?という感じなのだ。

男性社員の中には、嫉妬と軽蔑の眼差しを向けるものも少なからずいたが、本人は他人の評価など気にしていなかった。

今なら、自分軸、というのだろう。
自分の感性に素直な人なのだ。
同じような感覚を持つ人たちが、引き寄せられるように彼の周りに集っていた。


そんな彼なので、その結婚生活はベールに包まれていた。


仕事仲間でもあり、バイク仲間でもあった。
男女4人でツーリングへ行くようになり、それはそれぞれその職場を去ったり、店舗異動したりでバラバラになっても、続いていた。

どこかから中古のレーサーバイクを手に入れてきて、共同でガレージを借りて、バイクのレースにも参戦した。

ガレージに、彼がいた。
職場が変わったので、休みが合わず、行ったから必ず会えるとは限らない。
祈るように訪れると、彼がいた。

今は携帯電話とかスマホとか、気軽にコミニュケーションできるけど、この頃はこんな運まかせなところが多分にあって、だからこそ会えた時の喜びもひとしおである。


コツコツと整備の作業をするのを、ひたすら見ていた。ただ、そこにいるだけで良かった。
未来はない、過去もない、ただその時だけを感じていた。
作業に疲れた彼と、ガレージの前に寝っ転がって、同じ空を見ているだけで幸せだった。

一度だけ、来世で出会った時、お互いフリーだったらその時は付き合って欲しい、と言ったことがある。なんと答えてもらったかは忘れた。

ある時、夢を見た。

彼の奥さんに責め立てられる夢だった。
奥さんには会ったこともないので、顔も知らない。けれどもものすごくリアルで、怖くて、ショックで、激しい動悸と冷や汗で飛び起きた。
しばらく夢とは思えずに、なんて酷いことをしてるんだろう、こんな風に誰かを傷つけるなんてと猛烈に後悔した。

しばらくして夢だと気づいたとき、心の底から安堵した。

あくまでも私の横恋慕であって、お付き合いもなにもなかったのだが、もうこれ以上想っても先はないのだから、諦めようと思いながら、想いを寄せていたのだった。

しかし、その夢で、想いを寄せていった先の事を知ることになった。何かが私に教えてくれたのだ。
初対面でなったアラームはこれだったんだ。
もう、諦めよう。よき友人になりましょうと、その恋はスッパリと断ち切ったのだった。


はずだった。
しばらくしてなにをどうしたことか、彼は離婚した。理由は聞かなかった。
私のせい?
怖くて聞けなかった。
ましてや、それでは、、、と恋を再開するつもりもなかった。

ところがだ。
元々自宅に気軽に招き入れていたのだが、恋は横恋慕で、ロマンスも何もなく、あくまでもずっと友人としての付き合いだった。離婚を聞いて以降も、断る理由もなくそれまでと変わらぬ付き合いが続くものだと思っていた。
はずだったのだが、なぜか男女の関係になってしまった。
私としてはひとつの結びを得たはずなのに、頭のどこかでずっとクエスチョンマークを浮かべ続けていた。

そうこうしているうちに、とあるきっかけで転職して京都に行くことになった。
また、彼の方も転職して中部地方へ行った。

ああ、これで本当に終わったなと、自分としては、もう充分だった。思い出をいただいて、次へ行こうと、京都で新しい彼氏もできた。

はずだった(しつけーよ!)

その新しい彼氏はストーカーと化し、その上同じマンションの男性からもストーカー行為を受けていた。
なんというモテ期!
ではないのだ。冗談じゃない。
おまいら、売られた喧嘩は買うぞ⁈
そんなものは愛とは認めん!認めて欲しくば私の屍を超えてゆきやがれとばかりに、戦って無事生還し、大阪へ帰ってきた。


彼は中部地方から神戸へ引越していて、震災にあい、その後父親を亡くした。詳しく話すタイプではないので、詳細は知らない。けれども、なにか道を迷っていた。
あんなに自分らしく生きていたひとが、自分を見失っていた。

そしてまた、我が家を訪問するようになっていた。

けれども前とは違って、私は彼の機嫌を伺っていた。何も聞けず、ただ伺っていたのだ。

以前離婚した時に、もう二度と結婚はしないと言っていた。なので、結婚するでもなく、このまま大人の付き合いってヤツを続けていくしかない。
三十路を少し過ぎた頃だった。
自分からは断ち切れず、まぁ自分もこの頃は結婚願望もなかったので、こんな関係もありかな、と思い始めた。

その少し前からPCが一般的に普及し出し、誰もが気軽に触れるようになりだしていた。
彼も仕事で使うからと、手に入れていたようだった。
語るとはなしに、結婚時代のことをdeleteキーで消したいと言った。それまでのうまくいかない、多分その時もうまくいっていなかった何もかもを消したい、と言った。
その時なんの意図もなくふと、私は?と聞いてしまった。
削除、かな?と彼が呟いた。

本当に終わった、と思った。
言ってくれてありがとうとさえ思った。
魔法を解いてくれてありがとう、と。

もしもカルマというものがあるのだとしたら、それを果たしたような気がした。
けれども私のココロは傷ついていて、悲しんでいた。女性として一番花咲く二十代から三十代にかけて、私のココロの真ん中に居続けたヒトなのだ。悲しくないわけがないじゃないか。
いやいや恨むまい、恨んで終わりたくない。ではどうするか。
忘れることだ。
なんの反省もせず、何の責めをもせず、なんのレッテルも貼らず、このまま忘れるのだ。
そう、彼の言葉通り、deleteキーを押すように。

少しでも思い出そうものなら、すかさず大音量でロックを聴き、歌い踊り、あの時こうしていたらなんて考え出そうものなら、吉本新喜劇でバカ笑いし、よく食べよく寝てよく働く。

そして、自分を立て直そうと思った。
職人の仕事を得て、好きなことを仕事にできていたのだが、職人としての将来に不安と限界があった。
やはり体力腕力に勝る男性の方が、職人としては幅が広い。非力な女性には敵わない部分があることを、痛感していた。
ここまで好きなことをさせてもらったのだから、今度は社会にお役に立つことをしようと思った。
いろいろとリサーチした結果、夜間の福祉専門学校へ行って、介護職を目指そうと思ったのだ。
この計画に没頭している間に、彼のことはスッパリと忘れ、新しいページを開くことができたのだった。


それから何年も経って、そう、割とつい最近のことだ。偶然彼の消息を知った。本当にやりたいことを仕事にしていた。最初に出会った頃の彼らしい彼よりも、もっと自分らしく自信と確信に満ちている。

そっかそっか、迷いから抜け出したんだね。
どこかで戦っている魂の戦士に、同士に出会えた気分だ。
よし。私も。歩き続けるよ、自分の道を。


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