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まーくんと街へ

昨年からレッツでは、ULTRAのヘルパーサービスに馴染みのない利用者・スタッフ双方が、移動支援の枠組みで外出をしてみる「わくわく日曜ULTRA」という取り組みを行っています。生活介護で過ごすアルス・ノヴァおなじみのメンバーも、マンツーマンでお出かけすると一味違った表情が見られることも。いつもは平日の日中しか邂逅することのないアルスメンバー「まーくん」と、スタッフ渡邊。2人が過ごしたある日曜日の記録を、渡邊の視点からお届けします。

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特に何か特別なことがあったわけでもなく、ゆったり街(浜松駅前)を散策した。

この日の移動支援が決まりそうな ある日、彼に「どこに行きたい?」と聞くと しっかり無視され、数分後に、ててて、とこちらに駆け寄ってきて「メイワン好き」と一言。このツンデレ貴公子め、と思う。

そんなことがあったので、少し街中を散策した後、メイワン(駅中にあるデパート)へ。しかし、彼はほとんどの階をスルーして、「(11時はお昼には)まだ早いかな?」といいながら7Fのレストランフロアに到着。ぐるぐるとフロアを回遊しながらお店のメニューと自分の持っている昼食代を比べている。

ヘルパーの僕はといえば、実はこの日 街中でクラフトフェアが開催されていると知っていて、彼を街へ誘ったのだ。昼食の後に買い物もしたい、と勝手に思っているので、なんとか予算を抑えておきたい。そうでなくても、彼が出かける前から「何か買ってもいいかな?」というようなことを、わくわくと言うので、そういう楽しみも共有したい。考えた末に導き出したのは「何品か頼んで分ければ、まーくんの負担を減らせるのでは?」というものだ。それが(ヘルパーの常識的に)良いのかどうかは知らない。

店はまーくんの意向で五味八珍(中華ファミレス)に。『ラーメン』と『半チャーハン』と「これが食べたい」と指された『酢豚』を頼む。それをお互い もらった皿に移して食べる。まーくんはといえば、自分が食べたいといった酢豚を美味しそうにモリモリ食べている、モリモリ食べているが何か違和感がある。ほとんど最後まで食べてやっと確信に至ったが、まーくんは酢豚の豚だけ残していた。しかも、豚肉嫌いなの?と聞くと「好き」という。あまりにも僕が「なんで?なんで?」と聞くもんだから、ひとかけ豚肉を食べる。なんだか申し訳ないので、嫌ならいいんだよ!というと、水でぐいっと流し込んで「ごちそうさま」をした。最後は、しっかりお子様用のおもちゃ(カラフルなペンと塗り絵の紙)をもらう まーくん。店員さんには「子供ではないんです!」と説明したが、「いいよいいよ」と、渡してくれた。

その後、スタッフが密かに行きたいと思っているクラフトフェアを目指そうと、「あっちで何かやっているよ」的なことを何度か示すが、そんな簡単にはいかない。そうこうしているうちに、ガチャガチャがたくさんある場所(僕も大好きなので特に考えもせず)に辿り着き、そこで残りのお金をミニカーのガチャガチャに投入した。

彼も彼なりに「本当にこれでいいのか?」と悩んでいるようで、『お金を入れては返却ボタンを押してお金が戻ってくる』を何度か繰り返した後 ふざけてちょっと回したおかげで返却ボタンがきかなくなったので、意を決して赤いミニカーをゲットするに至った。

車や電車が好きなので、近隣のデパートの屋上に行けば、上から色々見えるぜ!ということを発見したまーくんと僕は、早速 屋上に向かう。寄り道しながらエスカレーターで最上階まできたところで、屋上に行くにはエレベーターを使うしかないことがわかり、エレベーターを呼んだ。そこで出会いがあった。

そのエレベーターにはエレベーターボーイが乗っていた(高校生くらいの男性で、多分エレベーターが大好きなんだな、という感じの人)。彼は開口一番、少し人より高い声で「乗れないよ!ダメだよ!」という、確かにお客さんは下の階を目指す人ばかりで、屋上に行こうという人は少ない。もしかしたら屋上は閉まっているのかもしれない。

しかし、そういったことは自分の目で確かめたい。なので少し強引にエレベーターに乗り込んでみた。すると彼は「ビアガーデンだから勝手に行っちゃダメだよ!」というので、「うん、じゃあ自分で確かめたいから、大丈夫だよ」と返してみた。すぐに屋上につき、エレベーターを降りてみると、やはり屋上は開放されていて、ビアガーデン会場以外の区画は特に入場規制されていなかった。残念ながら、柵に阻まれ あまり景色が見えない。ちらっと見えた電車に「電車だ」と当たり前のことを言って、降りようということになった。

エレベーターは2つあったが、帰りも巡り合わせか、エレベーターボーイがいるエレベーターに乗る。僕は「屋上ダメじゃなかったよ」というと彼は「屋上ダメじゃない!ダメじゃない!」と繰り返した。まーくんは、疲れてしまったのか、それとも唐突な第三者の介入に緊張したのか静かだった。

そんなこんなで関係ない話が続いたが、まぁ、ここまできたらみなさんの想像通りだと思う。結局クラフトフェアは横を通り過ぎただけだった。

帰りのバスの中で(強制するようで野暮だなぁ)と思いながら「楽しかった?」と聞くと、まーくんは数秒あけて「唾飲み込んだだけ?」と思うくらいの動きで、こくんと頷いた。

後日、彼の支援記録を見ていたら、誰かの記述で「返事に時間差がある」と書かれていて、「たしかに、それ(だけかも)な」と思った。(レッツスタッフ/渡邊亮介)

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